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第746話 戦いはこれからですが何か?

 リュー率いるシシドー部隊は非正規軍であるから、勝手に戦場を荒らして回っていた。


 だから、スゴエラ・ランドマーク派閥軍の中に間者が入り込んでいても、その存在を知る者はおらず、王都にいるリューのみが『次元回廊』を使用して、南東部の戦場、それも帝国軍の占領地である後方で動いていたから、帝国南軍を率いるヤン・ソーゴス将軍もなかなか対応に四苦八苦しているようである。


 それに、祖父カミーザもエルフの英雄リンデスと共に、先の大戦を彷彿とさせる戦いを見せ、局地戦で勝利を続けていたので、一度帝国に占領される事で萎みかけていた王国現地民の士気も再び上がりそうな状況になっていた。


 だが、帝国軍の天才と呼ばれているヤン・ソーゴス将軍も手をこまねいているわけがなく、すぐに新たな手を打つ。


 それが、帝国本土からの援軍と南軍の近隣制圧部隊とで謎の敵・リュー達遊撃隊の殲滅作戦である。


 帝国軍は当初こそ、占領地が広くなりつつあったから、どこを襲われるかわからないので防衛も大変であったが、局地戦での敗北続きもあって、逆に重要な防衛地点以外は一旦放棄してしまい、敵の的を絞る事にしたのだ。


 これにより、帝国軍はリュー達が攻撃するであろう場所に罠を敷く事にした。


 それが最重要である三本の補給線だ。


 帝国本土から最前線までの街道と中継地点である街や村に兵を伏せ、帝国の援軍もその防衛に手を貸し、守りを厚くした。


 これには、祖父カミーザとリンデスも手を焼くことになる。



「ふむ……。さすが帝国軍じゃのう。対応が早いわい。リューが睨んだ通り、帝国南軍の将軍は相当な切れ者じゃな。策も無しに補給線を狙ったら、こっちが被害を受けかねん」


 祖父カミーザは、襲撃予定地であった補給線の一部である街の様子を遠方から確認してそう漏らす。


「確かにな……。兵を伏せていそうな場所が何か所もある。知らずにあの街を襲撃したら、こちらもただでは済まないな」


 同じく一緒に確認していたリンデスも、その言葉に頷く。


「……あの状態の街をこちらから攻撃するには、ちと火力不足が否めないのう……。儂の魔法でも魔法対策が練られている街の城壁を吹き飛ばすのは不可能じゃわい……」


 祖父カミーザも守りの堅い街を落とすには、ある程度の兵力が必要なうえに、打撃力がないと城門を破る事も出来ない。


 これまでは、敵兵を誘い出して罠に嵌めたり、兵を忍び込ませて内側から破るなどありとあらゆる手段を用いていたが、完全に守りに入られると、少数の兵での城攻めはどうしようもないのだ。


「カミーザの孫も我々同様、独自に動いているのだろう? この事を知らせないと知らずに手を出したら痛い目に遭うかもしれんぞ?」


 リンデスは、自分達以外に帝国軍の後方を脅かしている存在がおり、それがリュー達である事をカミーザから聞いて知っている。


 そこに娘のリーンも入っているようだとも聞いていたから心配するのであった。


「うちの孫は、頭が切れるからのう。気づいて手を出すのは控えるじゃろ。だが、せっかく掴んだ反撃の流れを断たれて、また、帝国軍有利になるのも悔しいわい。一旦、手を休めて策を練り直そう」


 祖父カミーザは、冷静に判断すると、リンデスにそう伝え、補給線襲撃計画を取りやめて、兵を退くのであった。



 その頃、リューは──


「帝国本土からの援軍が入ったのはあの街だよね?」


 遠方から帝国占領地の一つの街を見て、リーンに確認する。


「ええ。数が多いから城外にも幕舎を立てて駐屯しているわ。あそこまで、守りが堅いとここは襲えないわね。別のところにしましょう」


 リーンは、その優れた索敵能力により、敵に準備がある事を見抜いていた。


 敵はその索敵能力を阻害する能力を使用して伏兵を隠していたが、リーンはその上をいく能力で見抜き、気づいていたのだ。


 そのリーンが、襲撃を止めるくらいだから、敵の準備が万端である事を察してリューに助言したのである。


「これだけ、用意周到な状態なら、敵もそう考えるよね?」


 リューはニヤリと笑みを浮かべた。


「ちょっと、リュー。あの街を攻めるには、少なくとも魔法対策されている城門や城壁を破れる程の攻撃力が必要よ? それができるとしたら、リューの未完成魔法『タイタンの三叉槍』くらいじゃない? でもあれは、反動が強すぎるから使わせないわよ?」


 過去に一度、リューが王都の近隣にある小さい街の城壁をバンスカーを討つ為に使用して穴を空けた高威力の魔法は、危険なので使わせる気は毛頭ないとばかりに、リーンは厳しい声で注意する。


「はははっ……。あれは、さすがに僕も危険すぎるから使用する気ないって……。今回は、別の方法でやるから大丈夫だよ。──まあ、その代わり、大金が飛ぶけど……」


 リューはリーンの心配を解消するように、答えた。


「大金? あっ、もしかして、アレ?」


 リーンは、一瞬、リューの言葉に疑問符を浮かべたが、大金と聞いて、一つ思い出して聞く。


「うん。あれなら、シシドー達も訓練させてあるから、使用可能だよ。持ち運びは僕のマジック収納で問題ないし、何より、動きやすいように専用台車を用意してあるからね」


 リューは楽しそうにそう答えると、シシドー達を呼んで早速、街を攻撃する準備を行うのであった。



 それから一時間後。


 帝国本土からの援軍が来訪したばかりで防衛地点として強固になっており、一番襲撃が難しいであろう補給線上のとある街に対し、リューは準備万端のシシドー達に攻撃開始の合図を送る準備を終えていた。


 そして、街の上空にその合図である信号弾が上がる。


 すると丘の上や森、林から街の城門と、城外に幕舎を立てて滞在している帝国軍に対し、大轟音を響かせて砲撃が開始された。


 そう、それは、リューが南西部の海上で使用した魔法大砲である。


 その一発一発の威力は強いが、とても高価な魔石を使用する為、使いどころに悩む武器だ。


 だが、これも魔法防御対策の魔導具が積まれている大型船などには効果がない。


 同じく魔法防御対策がなされている城門や城壁に対してもそれは同じで、一見すると城攻めには使用できないと思われそうだ。


 しかし、それも特殊魔法で加工した実弾なら問題ないのである。


 実際、海上戦でもすでに使用してその威力は折り紙付きであった。


 問題は魔法大砲は砲身が大きく重いので、持ち運びが不便な事から使用範囲が限られており、船体や城壁上に固定してするのが正しい使用法と言える。


 しかし、リューにはマジック収納で楽々輸送が可能なうえに、砲門も特別製の台車に乗せる事で移動も簡単で方角の調整なども可能にしていた。


 それでも、その特殊加工した実弾一発で大金が吹き飛ぶのであるが、今は戦争中だ。


 使いどころがあるとしたら、ここだろう。


 リューの指揮の下、魔法大砲から発射された特殊加工された実弾は、街の城門や城壁、そして、城外に滞在していた帝国軍に猛威を振るうのであった。

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