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第733話 続・警備問題ですが何か?

「──という事で、あとの事は任せたよ?」


 リューはミナトミュラー商会本部事務所で、ノストラ商会長代理との打ち合わせをしていた。


「それは別にいいんだが……、会長代理としては、会長の判断だとしても間違いややり方に不満があれば苦言を呈する立場にある。だから、はっきり言うが、関係者以外がこの打ち合わせにいる事は相当問題だと思うんだが?」


 ノストラは困った様子のリューを察して、あえてその場にいる新たな護衛である近衛騎士団に聞こえるように告げた。


「我々の事は気になさるな」


 今回の警護担当の隊長クサイム男爵は、淡々とした口調で答える。


「はぁ? どの口が言っているんだ? 近衛騎士団は最近、失態ばかりしているって噂は、商人である俺達でもよく聞いている話だぜ? そんな信用できない奴らの前でまともな仕事の話ができると思うか!? 会長が王命で断れないからと言って、仕事を邪魔していい事にはならないだろう!」


 ノストラは、リューの立場では言えない事を、あえて部下として指摘した。


 これには隊長クサイム男爵も言葉に詰まる。


 事実、最近近衛騎士団は失態続きで、王家による特別監査が入ったばかりなのだ。


 その結果、王家以外の外部への利益供与に動いていた者が数名拘束され、尋問中である。


 それ以前にも情報漏洩の件などでも近衛騎士団は責任追及されている事から、この指摘は、図星と言ってもよいものであった。


「ノストラ落ち着いて。──クサイム男爵、うちの部下が失礼しました。もしよければ、こういった打ち合わせなど僕の仕事に関わる場所では、席を外してもらえませんか? 僕にはリーンやスード君という護衛もいますし、身内同士の方が仕事上都合が良いことも多いのです。それに、情報漏洩は避けたいのでお願いします」


 リューはノストラのフォローで改めて、クサイム男爵に警護の仕方を考えてくれるようにお願いする。


「……我々は扉の外で待機する事にします」


 これまで頑なに王命を盾にしていたクサイム男爵であったが、ノストラの痛烈な批判にぐうの音も出ず承諾するのであった。


 クサイム男爵達近衛騎士団の面々が部屋を出て扉が閉まると、リーンが防音魔法を使用して会話が外に漏れなくする。それでようやくリューは安堵のため息を吐く。


「……ノストラ、ありがとう、助かったよ」


「若も苦労してんなぁ。それにしても、ありゃ、警護というより、監視じゃないか?まあ、以前に仕事の役割分担はやっておいたお陰で、若がいなくてもある程度機能はするが、重要な判断もあるからなぁ。それを傍で見られると色々と難しいぜ? 特に裏稼業の方は機能しなくなるだろう。商会の方だってグレーな部分の判断もあるからな。他人に知られると困る事も多い」


 ノストラはそこまですぐに理解したうえで貴族相手に失礼を承知で言ってくれたのである。


「あちらは王命だからね。それが絶対である以上、近衛騎士のみなさんは僕の承諾を必要としていないのさ」


 リューは苦笑するとため息を吐く。


 リューは『王家の騎士』の称号持ちであるから、自分を気遣っての事である王命に対して、断るのは中々難しい。


 それだけ、影響力を持つ存在に、ランドマーク家もミナトミュラー家もなっているという事だ。


 そんなリューが直接強く拒否してしまうと王家との不仲を疑われ、内外的に聞こえが悪いから、部下が代弁してくれるというのは本当に助かるのであった。


「それじゃあ、マルコとの接触もうちとの打ち合わせで密かに会うしかなさそうだな。街長邸に報告に行けなくなったとぼやいていたぜ?」


「はははっ……。それは本当に悪いと思っているから手紙を出しておいたんだけどね? ただし、今日もそうだったけど、行く先々で彼らが周囲を調べてから僕が移動するようになっているから、打ち合わせにマルコがいたら、身元の調査をやられる可能性があるんだよなぁ……」


 リューは近衛騎士団の警護にうんざりした様子で答える。


「私からリズに苦情を言っておくわよ?」


「さすがにそれやっちゃうと、ただでさえ、体面がかなり悪くなっている近衛騎士団だからね、これ以上の失態は犯したくないはずだからなぁ……。極力はあちらの面子も保つ形でクサイム男爵と話し合い、妥協点を見つけたいところではあるんだよね」


 リーンの提案であったが、この時期だからこそ醜態を晒したくない近衛騎士団の気持ちが想像できたので、気を遣って答えた。


「でも、あっちは王命を盾にしてほとんどこっちの言い分聞いてくれないじゃない。こっちが『王家の騎士』の称号持ちだから、王命に対して強く言い返せないと思っているわよ、絶対」


 リーンはクサイム男爵の印象が悪いのかそう指摘した。


「実際、王命に逆らう程、僕も馬鹿じゃないからね? 陛下としては今回の戦争の輸送の核となる僕の身を案じての事だとは思うのだけど……。それに王家の人達は普段から近衛騎士の護衛に慣れているから感覚が違うんだろうなぁ……。──でも、駄目で元々。リズにお願いしてみようか?」


 リューは今の状況下では、非常にやりにくさを感じていたで、この忠実な従者の提案に賛同するのであった。



 それから数日後の事。


 想像以上の事が起きた。


 それは、クサイム男爵の任が解かれ、新たな隊長が赴任してきたからである。


 さすがに、クサイム男爵の任を解いてほしいとは思っていなかったので、これは禍根を残す人事になるぞ、と思わずにはいられない。


「クサイム男爵に代わり、着任しましたウーサン準男爵であります。お手柔らかにお願いします」


 ウーサン準男爵は、前任のクサイム男爵がリューの不興を買って配置転換になった事を匂わせるように、その挨拶はリューのご機嫌を窺うものであった。


 通常なら、「命に代えても警護する所存」など、職務を全うする抱負の一つも聞けそうなものであるが、「お手柔らかにお願いします」なのだ。


 明らかに、配置転換されたクサイム男爵を意識しての挨拶であった。


 やっちゃったよ……。近衛騎士団は色々問題もあるけど、諜報部とはいい関係性で情報交換もしていたから、こういうのは非常にマズいなぁ……。


 リューは、自分からリーン。リーンからリズ王女。リズ王女から国王まで間の伝わり方に、意図しない内容に変化してしまったのであろう事が予想できたので、無闇に頼んだ事を少し後悔するのであった。


 ただし、その後、クサイム男爵の時とは違い、ウーサン準男爵はリューの嫌がる場合は警護も遠巻きにする、という気の使い方だったので、リューも仕事がやりやすくなったのは確かであった。


「マーセナル、前任のクサイム男爵にお詫びの手紙を書くから誰かに届けさせてくれる?」


「わかりました」


 執事のマーセナルは、リューの配慮に納得すると、部下に手紙を届けさせ、クサイム男爵からは気にしていないという返答をもらいそれをリューに伝える。


 リューはそれを聞いて安堵するのであったが、実際のところ、クサイム男爵は、子供であるリュー相手に顔に泥を塗られたという思いが強く、禍根を残す事になるのであったが、それはまた別の話である。

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