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第730話 各地の戦況ですが何か?

 クレストリア王国は、新年早々アハネス帝国の侵攻により、先の大戦以来の大きな戦争状態に突入している。


 現在は東部戦線だけではあるが、西部地方の国境線も隣国との間で揉めているから、これを機に、侵攻、もしくは国境地帯のいくつかの地方を切り取ろうと動いてくるかもしれない。


 その為か、西部地方に一大派閥を構える三公爵家の一つであるルトバズキン公爵家から援軍の派遣は、まだない状態である。


 ルトバズキン公爵家は五大貴族派閥の一つに数えられる勢力を持っているので、与力なり、派閥内の貴族に派遣させそうなものであるが、西部国境の警戒の為、兵を動かすのは難しいという返事だけが、次々に入ってきていた。


 そうなると最大派閥を率いる北西部のエラインダー公爵の動向が気になるところであるが、こちらも、動く気配はなく、エラインダー公爵も偶然、王都から自領に戻っている時期であったので、王家も本人に直接援軍を要請できず、返事を待つ状況である。


 そういう事もあり、派閥下の有力貴族達も派閥の長であるエラインダー公爵が動かないので、王都周辺の貴族達も含めて援軍要請に対して、のらりくらりと返答を延ばしている様子だ。


 その為、帝国の侵攻から一週間が経過しているが、王都に兵を率いて馳せ参じる貴族はとても少ないのであった。


 そのごく少数の貴族の兵をリューが毎日、『次元回廊』で前線へと送っていたので、その辺りの様子は色々と掴んでいる。


 それだけに、このままでは最前線での戦況はさらに悪くなるのではないかとリューは危惧していた。


 東部のサクソン侯爵派閥は現在、現地王国軍と力を合わせて帝国軍の勢いを止めようと正面から野戦を仕掛けず、各城で籠城戦を展開しているのだが、それも援軍があってこその戦略である。


 だが、戦は始まったばかりなのに、援軍派遣が滞りがちな状態であったから、勢いに乗る帝国軍は、各城を確実に攻略しながら進軍しているのであった。



 そして、リューの最大の心配は、南東部にも軍を侵攻させている帝国軍と対峙するスゴエラ侯爵、ランドマーク伯爵派閥連合軍の戦況である。


 ランドマーク伯爵派閥軍が、ようやく軍を揃えて、スゴエラ侯爵軍と合流したばかりなのだが、帝国の侵攻軍に対してその兵力は半分以下であったので、こちらも直接ぶつかる野戦を避けて、城壁を盾に籠城戦を展開していた。


 と言っても、籠城戦を是としない老兵がランドマーク軍にはいる。


 それが、祖父カミーザだ。


 祖父カミーザは、魔境の森で鍛えた領兵達数十名を率いて、東部国境近くにある広大なリンドの森に向かっていた。


 そこは、エルフの里があるからだ。


 先の大戦でも、そのエルフの村の村長リンデスと共に帝国軍と戦い、敵の後背を荒らし回って糧道を断ち、勢いに乗っていた帝国軍の進軍を止めた功績があった。


 その戦功でリンデスはエルフの英雄としてクレストリア王国内で有名であり、エルフの地位を向上させた立役者とも言われている。


 祖父カミーザはまた、そのリンデスの元に向かい、援軍要請を行おうと考えていたのであった。



 その一方──


 ランドマーク本軍には、次男ジーロがシーパラダイン軍を率いて参戦していた。


 ジーロのところは、軍事商会を作る程であったから、訓練の行き届いた兵士が豊富であり、ランドマーク本家と同じくらいの兵を用意して駆け付けたのである。


 父ファーザはジーロやリューが兵をかき集めてすぐに駆け付けてくれた事を感謝していたから、気合いを入れ直し、帝国軍と対峙していた。


 だが、帝国軍は慎重で、奇策を用いず、兵の数の優位を生かした正攻法を取っている。


 戦において、一番重要な事は、兵の数だ。


 もちろん、兵の練度やそれに伴う食糧の確保なども当然重要なのだが、正面から戦う時、数で圧倒されると少ない方は揉み潰されるというのが、戦の常である。


 帝国軍は、スゴエラ侯爵派閥とランドマーク伯爵派閥を甘く見ておらず、それどころか今回の侵攻において、勝敗を決めるのは、スゴエラ侯爵とランドマーク伯爵の首を取る事が重要と考えている様子があった。


 それくらい、南東部に侵攻してきた帝国軍を率いる将軍は優秀で、軍も精鋭であり、そつのない戦いを展開している。


 兵の数で圧倒しているうえにこのような戦い方をされると、いくら戦上手のスゴエラ侯爵でも、戦いづらいのであった。


「ランドマーク伯爵、カミーザは英雄リンデスのところに向かっているのだな?」


 スゴエラ侯爵は、視界の先に布陣する帝国軍を見渡して、領地内にある重要拠点にある街の城壁上でそう確認する。


「はい。父は、前回同様、リンデス殿と協力して敵の糧道にちょっかいを出す気だと思います」


「……敵のこの慎重な戦い方を見ておると、対策を練られている気がする……。まあ、打てる手は全て試すしかないから、カミーザに期待するしかあるまい」


 スゴエラ侯爵は戦友である祖父カミーザに期待してそう漏らすのであった。



 その三日後。


 東部では戦況が動こうとしていた。


 それは、帝国の軍は三つに分かれ、本隊は王都を目指して西進、もう一つは北東部に軍を進め、三つ目はスゴエラ侯爵、ランドマーク伯爵を討つ為に東南部に進軍しているのだが、その北東部のシバイン侯爵派閥軍が、領地をもぬけの殻にして西進する帝国軍の本隊の側面を突くべく、密かに南下してきたのだ。


 これには味方である籠城戦を展開していたサクソン侯爵軍は、伝令からその報を受けて驚いた。


 そもそも、帝国軍が侵攻して来るまで、派閥争いを行っていた双方である。


 敵と戦うと言っても、協力し合う事は無いと思っていたから、この思い切った捨て身の行軍にサクソン侯爵も日頃の恨みも忘れるのであった。


「シバイン侯爵軍から伝令! 数日後には戦場に到着する予定。その時には、機会を見計らって敵の側面を突くので、サクソン軍はそれに連携して打って出てもらい、両軍で挟み撃ちにすれば、数で勝る敵本隊にも大きなダメージを与える事ができよう、との事です」


「うむ、わかった! 援軍に感謝すると伝えてくれ!」


「はっ!」


 伝令はそう言うと、使者に伝えに階段を駆け下りていく。


「……サクソン侯爵、シバイン侯爵は本当に敵の側面を突いてくれるのでしょうか?」


 サクソン侯爵の与力であるコーエン男爵がそう疑問を口にした。


 コーエン男爵とは、東部の裏社会で力を持つ『蒼亀組』の組長であり、リューと同盟を結んでいる人物である。


 コーエン男爵は、泥沼の抗争関係にある『赤竜会』と『黒虎一家』の争いの様子を見ながら、自分の組織の勢力を順調に拡大しているのだが、今回の帝国の侵攻についての情報は当然流れていた。


 だが、それも皇帝が変わったばかりという事もあり、国内の安定を図る時期だから、いつもの噂としか考えていなかった。


 だが、本当に侵攻して来たのである。


 帝国と太いパイプを持つシバイン侯爵も気づけなかったとしたら、誰も気づけなかっただろうが、それならなおの事、今回のような大胆な行軍はできないのではないかと脳裏をよぎったのだ。


「なんだ、コーエン男爵? 実際、近くまで来てくれているのだ。敵も自領で籠城しているであろうはずのシバイン侯爵軍がここに現れたら度肝を抜かれると思うぞ。実際、帝国軍はまだ、気づいていないのか布陣に動揺が見られない。これなら、挟み撃ちも成功する可能性が高いと思う」


 サクソン侯爵は戦場をそう分析すると、絶好の機会である事を確信すると、部下達に打って出る準備をさせる。


「……」


 コーエン男爵はどうしてもそれが腑に落ちないのであったが、どう説明していいかわからず、言葉に詰まり黙ってしまう。


「コーエン男爵も攻撃準備をせよ。その時は、私も打って出るぞ」


 サクソン侯爵は敵の大軍を前に勝機を失うわけにもいかなかったから、準備を始める。


 近くの街には王国軍も布陣しており、同じようにシバイン侯爵の伝令が報告したのか、その伝令がサクソン侯爵のもとに確認に来た。


 サクソン侯爵はその伝令に、この好機を逃すと長期戦になる可能性が高いので、シバイン侯爵の策に乗りましょうと伝える。


「……わかりました。それでは」


 王国軍の伝令は頷くと自軍に戻っていく。


「大丈夫だろうか……」


 コーエン男爵は、どうしても何故か腑に落ちない気がしてそう不安を漏らすと、自分の部下達のところに戻って攻撃準備の用意をさせるのであった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


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これからも、書籍共々、よろしくお願い致します。<(*_ _)>

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