第725話 王家の新年会ですが何か?
新年を迎え、各地でもそれを祝う催しは行われていた。
特に王都では、王家主催の新年会が行われ、ミナトミュラー商会製の魔法花火も打ち上げられたし、父ファーザや嫡男のタウロはランドマーク伯爵家の代表として、次男ジーロやリューも各家の代表として招待される。
王家主催という事で誰もが参加したいところではあるが、全国の貴族が招待されるわけもなく、王都周辺の有力者やこの時期に王都に滞在している有力貴族などが中心で、そこには王都で活躍する大商会の会長などの平民も一部参加していた。
ランドマーク家は、南東部の辺境貴族になるが、王家への貢献は大きいし、何より『王家の騎士』の称号持ちであるから、招待されるのは当然であったし、その与力であるリューやジーロもノーエランド王国と国交回復に多大なる貢献をした者として今回は特別に招待されている。
他にも諸外国の大使や留学で、この国に滞在しているノーエランド王国のエマ王女なども招待されているのであったが、こちらはリューが『次元回廊』を使って本国に送迎していたので、今回はその関係でノーエランド国王自身が、クレストリア王国に新年会の為だけに訪問というとんでもない事態が起きた。
通常、一国の王が他国に訪問するとなれば、色々な手続きから儀式など国同士の問題を膨大な時間を消費してようやく行われるものであるが、それらを全て飛び越え、
「来る?」
「行く行く!」
というノリで招待される事になったのである。
これには、両国の近衛騎士団も警備問題でピリピリするところであったが、リューが『次元回廊』という一番問題になるであろう往復時の警備問題を呆気なく解消したことで、両国の近衛騎士団はリューの存在に感謝したのであった。
こうして、王家主催の新年会は特別なものになった。
諸外国から派遣されている大使達は、この両国の王が新年から一緒に過ごすというだけでも驚きであったし、親交があると考えれば、それだけで仲の悪い国に対して牽制にもなる。
親しい国にとっては、その輪に入れてもらう機会でもあったから、大使達もいろんな意味で必死に、だがそれはおくびにも出さず、笑顔で挨拶をするのであった。
その中で、リューは当然ながら『次元回廊』で両国の親善に貢献した事は表沙汰にはなっていない。
正式にそれを両国が宣言してしまうと、近隣諸国はリューを脅威に感じて、命を狙うなり、懐柔して自国の為に動かそうとしたり、もしくは誘拐という強引な手も考えられる。
だから、両国では公然の秘密として、正式に公開はしていないのであった。
だが、すでに噂としてリューの存在は知られている。
それは仕方がないところだ。
すでに『王家の騎士』の称号を、与力貴族でありながら与えられているのだから、諸外国の大使達も噂を集めて絞り込むくらいは容易である。
だが、各国の大使も、遠く離れた異国で本国の判断もなくリューへ不用意に接触する愚は犯さないところだ。
そういう意味では、現在、各国はリューの素性についてようやく詳しく調べ始めているといったところである。
そんな思惑もあってか、この新年会では当然ながらクレストリア国王とノーエランド国王が話題の中心でありながら、ランドマーク伯爵である父ファーザに挨拶をする大使もいなくはなかった。
あくまでも『王家の騎士』の称号持ち貴族に対して、敬意を表し挨拶するという名目であったが、その全員がリューにも挨拶をする事で狙いがこちらにあるのは明白である。
ただ、父ファーザがいつもの人たらしで大使達とも仲良くなることで話し込み、リューへの興味を逸らす役割を果たしていたのは、意外にも狙い通りであった。
というのも、東部地方に国境を接する隣国の大使がその中にいたからである。
昨年から隣国は国境沿いで軍を動かし、クレストリア王国に対し不穏な姿勢を見せていたから、父ファーザは南東部の派閥の長として警戒していたのだ。
「ファーザ君が頼もしく見えるわね」
リューの従者として、同行していたリーンがリューに小声でそう声をかける。
「うん。お父さん、他の大使もいるところで、隣国の大使の話題を出して牽制していたからね。しっかり、クレストリア王家の臣下としての役割を果たしているよ」
リューも、父ファーザがしっかり、今回の新年会に目的を持って参加してる事が見えて誇らしい。
「──ところで、ミナトミュラー男爵殿は、我がアハネス帝国の事をどう思われますかな?」
そこへ、隣国大使は業を煮やしたのか強引にリューに話しかけてきた。
「申し訳ありませんが、あまり良い印象がありません。我が国に侵攻して大戦を引き起こした歴史がありますし、近年では南東部の派閥の長スゴエラ侯爵様や我が寄り親であるランドマーク家にも刺客を送りこんだ疑惑が持たれていますから」
新年会ということで柔らかい表現を使うだろうと周囲を思っていたのだが、リューはそれを考えることなく、歯に衣着せぬ物言いではっきりと悪印象を告げた。
これにはアハネス帝国大使だけでなく、周囲の大使達もあまりにはっきり言うので、驚き、言葉を呑む。
「──ですが、それが無ければ、良い隣人かもしれません」
リューは周囲の空気を確認してからそう付け足した。
「確かに、先の大戦の歴史は両国にとって不幸な事でした。ですが、それらの責任を持つ先代皇帝も近年代替わりした事で、その軋轢も無くなったと私は考えております。現皇帝陛下は、先代皇帝とは違い、平和を願っておりますから、良い隣人になれると思いますよ。わははっ!」
アハネス帝国大使は、そう言うと、重々しい沈黙を払うように笑う。
そう、隣国であるアハネス帝国は数年前に起こった暗殺未遂事件の件でクレストリア王国から正式な批難を受けた後、年齢を理由に皇帝から退位。
現在はその孫である人物が皇帝位を継いでいる。
そのお陰か、両国の国交も一時回復して大使が派遣されていた。
だが、東部での貴族同士の争いに反応して帝国が軍を国境線で動かしているのは事実であったから、必ずしも前向きな姿勢かというとそうでもないのであったが……。
「それは良かったです。同じ過ちは繰り返してほしくないところですよね」
リューは家族を暗殺されかけているから、皇帝が代替わりしていても、それだけの理由で油断するつもりは全くなく、釘を刺すことも忘れない。
「そうですな。この国の南東部で起こったという要人暗殺未遂については我が国も胸を痛めておりました。もちろん、我が国は決して関わっておりませんよ?」
アハネス帝国大使は、どこまで知っているのかリューの言いたい事を十分理解したうえで返答する。
「そうでしょう。あんな下種で程度の低い行いを貴国がやったとは思いたくないですから」
リューは、家族に手を出された時点で、アハネス帝国は敵認定しているので、皮肉を忘れない。
これには、各国大使も危険な雰囲気を漂わせているので息を呑むのであったが、両者はそれを笑って何事もなかったかのようにその場を離れるのであった。
「リュー、父さんが言いたい事を言ってくれたのはありがたいが、あまり、刺激してくれるなよ。相手は一国の大使だ、あまり揉めると国際問題になるからな」
父ファーザはリューを部屋の隅に連れて行くと、そう注意する。
「ごめんなさい、お父さん。家族が狙われた事を考えると、あのとぼけた態度が許せなくて……」
注意されてさすがのリューも反省する。
「それは私も一緒だ。──さあ、今日は新年会だ。楽しもうか」
父ファーザはそう言うと、リューの背中を軽く叩いて会場に戻るのであった。
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