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第724話 新年祭と周囲ですが何か?

 年越しと新年初日をランドマーク本家で過ごしたリューは、イバルとラーシュ、ノーマンをそのまま置いて、リーン、アーサと共に、マイスタの街に戻っていた。


 ちなみにイバル達は、祖父カミーザの下で修業することになっている。


「今年もみんな、街長邸に沢山集まって来れているね」(リュー)


「すでに新年祭をやることはみんなに伝わっているから当然じゃない?」(リーン)


「これも若と姐さんの人望ですな」(ランスキー)


「うちの領民に若達を慕わない者はいないと思います」(マルコ)


「若のお陰で活気があるのは良いことさ」(ノストラ)


「この街を生き返らせた領主様だから当然さね」(ルチーナ)


 リューとリーンは、すでに後方に控えているランスキーやマルコ、ノストラ、ルチーナの幹部と共に街長邸前でそんなやり取りをする。


 リューは昨年、マイスタの領民達が自分のところに挨拶する為に大挙してきたので、急遽、部下達を使って歓迎の料理を作らせたことがあり、それなら来年は最初からお祭りとして準備をしようと話し合いが行われていた。


 すでに年末の段階で前準備は行われていたので、設営も準備万端。


 領民達も新年祭をやるとお達しがあったので、リューへの挨拶がてら楽しむ気満々である。


「もうすぐ、正午だね。それじゃあ、始めようか!」


 リューが街長邸の庭の奥で準備万端の職人に向けて手を挙げて合図を送る。


 それを確認した者がさらに挙手して次の者に合図し、その連動で奥まで届く。


 すると、次の瞬間。


 ポン、ポン、ポン……、ひゅるる~!


 という音が周囲に響き渡る。


 魔法花火を打ち上げた音だ。


 そして、次の瞬間には、


 ドン! ドドン! ドーン!


 と明るい空に色とりどりの魔法花火が音を立てて綺麗に魔法の花が咲いて散っていく。


 新年祭ということで、大盤振る舞いであったから、立て続けにどんどん魔法花火が空に舞うのであった。


 それと同時に、街長邸の門が開かれる。


 マイスタの領民達は、花火に対して歓声を上げていたが、開門によりリューの下へ挨拶に行く。


「若様、リーン様! 今年もこの街のことをよろしくお願いします!」


「若、姐さん! 明けましておめでとうございます!」


「若様、姐さん! 今年もミナトミュラー家の発展をお祈りしていますよ!」


 領民達はそれぞれ若様、若様と、みんなに手を振るリューを拝んでいく。


 それにリーンも一緒であったから、領民達はなおのこと拝むのにも力が入るようである。


 領民にとって、リューとリーンは下り坂であったこの職人の街を生き返らせた立役者であり、象徴的な存在であったから、二人を神格化してもおかしくないくらい崇拝している者が多いのだ。


 だから、感謝と尊敬の念は強く、よそ者に対して警戒心が強いこの街において、同じよそ者のはずのリューとリーンの扱いは別格であることを再認識する形である。


 それに飲食を扱う露店はこの日、領民に対して無料で振る舞われていたこともあり、より一層自分達への配慮に感動して、昨年同様、いや、それ以上にリューとリーンの為に尽くそうと思う者が多いのであった。



 ミナトミュラー家主催の初新年祭は派手に行われ、領民達は今年も街の為、リューの為、頑張って働こうと気持ちを入れるきっかけになったのであるが、この街の様子は王都にも伝わっていた。


 何しろ派手に、魔法花火を一日中打ち上げているのだから、気づかない方がおかしい。


 すでに、王都を守護する王国騎士団には魔法花火の使用を届けていたから、問題には全くなっていないが、その景気の良さに興味を持つ者は多かった。


「ランドマーク伯爵の与力、ミナトミュラー男爵が治める街だそうだ。あれだけの魔法花火を打ち上げるとは、お金がかかっているなぁ」


「はははっ! 魔法花火を考えた本家本元だからな。新年にそれをアピールする為にも、そりゃあ、沢山打ち上げるだろう」


「そうだった! ──ミナトミュラー男爵と言えば、酒造商会が有名だからそっちに目が行きがちだが、他にも色々とやっているんだったな」


「その景気にあやかりたいものだ」


 王都民達は、新年から景気のいいリューの街を羨ましがる。


 それは王都民だけではない。


 大抵の領地持ち貴族は領地に戻って年末年始を過ごすのであったが、不景気な貴族は領地を部下に任せて年末年始も色々動いてお金のある所からの借金に余念がない。


 景気のいい貴族もいれば、当然、不景気な貴族も存在するのである。


 不景気な貴族にとって、リューの活躍は羨ましく、妬ましくもあった。


 成り上がりの男爵、それも、親の与力であるから、その気持ちは強い。


 かと言って、寄り親であるランドマーク伯爵家は、すでに王都の三大商会の一つに名を挙げられる程に成長しているから、表立って文句を言う者はいない。


 それに、ランドマーク伯爵は人柄がよく、偉そうな態度が全くないので、この人物の成功なら当然だな、と思わせるものがある。


 その与力であるリューはまだ、有名ではなかったが、一部の貴族からは高く評価されていた。


 パーティーでの北のサムスギン辺境伯との一件があったからだ。


 だが、その話も尾ひれや邪推が入り、一部の者には不評なのも確かで、そういった者からリューは胡散臭く思われている部分があったから、この新年祭の景気の良さも「驕り」ととらえる者も少しはいたのであった。


 王都で動く貧乏貴族の多くもその中に含まれることが多い。


 そして、そんな貴族にお金を貸す貴族にもリューを気に食わない者はいた。


 それが、エラインダー公爵である。


「ミナトミュラー男爵は、新年から派手にやってくれているな。 少し、調子に乗り過ぎているようだ」


 エラインダー公爵は不機嫌そうに王都の公爵邸でそう漏らす。


 この数年、不機嫌なことの連続であったから、それに反して調子の良いランドマーク伯爵家やその与力であるミナトミュラー男爵家が不快に映るようだ。


 実際、エラインダー公爵はいろんな企みをこの数年巡らし続けていたのだが、それらが全て事故やら不運、何者かの邪魔などによって台無しになっていた。


 昨年などはその一つとしてバンスカーの『屍』の消失である。


 エラインダー公爵にとって、全国の裏社会に影響を及ぼせる組織であったから、そのボスであるバンスカーをうまく使って、力を伸ばすつもりでいたのだ。


 大事な計画もあったから、なおさらである。


 しかし、バンスカーが何者かに討たれたようなので、エラインダー公爵はすぐに次の手を打った。


 それは、バンスカーの大幹部達に組織の再編成と、自分への忠誠を誓わせることである。


 実は、以前から対等な立場として扱っていたバンスカーがもし裏切ってもいいように、大幹部の半数は買収していた。


 だから、その動きもスムーズに行き、『屍人会』をすぐに組織化。『亡屍会』も半分の資金援助をすることでこちら側に付けている。


 大幹部の一人であるブラックが、勝手に独立して『屍黒』を組織してしまったのは計算外であったが、それも、王都裏社会を敵に回して自滅したからまあいいだろう。


 東部方面は完全にエラインダー公爵の影響下に無い組織ができそうだという報告が上がっているが、あまり大きくないようだし、あとで脅して傘下に加えればいいと考えていた。


 結局、バンスカーの組織を半分程しか手に入れられなかったのが不服であったから、エラインダー公爵は不機嫌だったのである。


 それらも、ほぼ全て、リューが裏で邪魔していた事なのだが、そうとは知らないエラインダー公爵は、勢いに乗るリューを警戒するようになるのであった。

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