第720話 みんな必死ですが何か?
王立学園の今年の行事は終業式を除いて全てが消化された。
あとは長期休暇が待っているだけであるが、それはリュー達など四年生以外の在校生徒だけのことであり、来年卒業である四年生は就職活動に必死である。
貴族の子息令嬢は有利に雇用されそう、という平民生徒からは羨ましがられるであろうが、これは仕方がないところだ。
事実、親の顔が広ければ就職に有利になる構造は当然ある。
特に王宮において、親の素性を知られている求職者は採用されやすい。
だがしかし、王立学園の卒業予定生徒は、就職に有利という点で、全ての条件に当てはまると言っていいだろう。
王立学園は全国から優秀な生徒が集まっていること、その素性が証明されていること、親が高額な授業料を支払える程度には裕福であることなどが、在校生徒という時点で保障されているからである。
だから、平民生徒でも就職には断然有利に働くし、王宮勤めも夢ではない。
あとは王宮勤めでも、高官候補から下級官吏まであるからそのスタートラインがどうなるのかである。
王立学園卒業だと将来を嘱望されるのが普通なので、よっぽど落第ギリギリでなければ上から数えた方が早いくらいのラインで雇用される可能性は高いだろう。
それだけ世間の王立学園に対する評価が高いことを意味するのである。
もちろん、王宮のみならず、武官として近衛騎士団から各地方騎士団に就職を決める者はいるし、それとは違い民間の大手商会に就職する場合もあった。
特に三大商会への就職は将来が明るいものがある。
それは、国に就職した場合、決まった給与で朝から晩まで働き詰めになることもしばしばある中、民間の大手商会なら給与もよく、仕事時間も国に就職するよりは余裕があるだろうからだ。
もちろん、国で働くということは、出世すれば誰よりも権力を持つこともあるだろうし、国の為、国民の為に働く充実感は民間とは比べ物にならない。
それに対して大手商会勤めは、充実した生活を保障されるから、どちらを選んでも損はなさそうだ。
現在、キングーヌ商会(王家御用達)、グローハラ商会(エラインダー公爵家御用達)、ランドマーク商会(下請けがミナトミュラー商会)が王都では三大商会として名を上げられる。
以前は四大商会とも言われていたが、この数年でボッチーノ商会、アイロマン商会が急激に衰退したことで、三大商会と呼ばれ始めている。
王立学園の平民生徒達の中にもこの三大商会に就職を目指している者達が当然いた。
二学期の行事が全て終わり、四年生は就職活動まっしぐら、下級生達はゆっくり年越しするだけとなったら、当然四年生は将来の上司になるかもしれない三大商会の新星ランドマーク商会の下請け商会であるミナトミュラー商会会長と領主を兼任するリューのもとにもやってきた。
通常、大商会の御曹司相手なら、このような行為は許されないし権限もないだろうから押し寄せないが、リューはれっきとした商会長兼領主様である。
ならば、アピールせずにはいられないところだ。
「ミナトミュラー男爵様! 御商会が従業員募集をすると聞きました! 来年初めに説明会があるそうですが、本当でしょうか!?」
「自分は真面目で仕事一徹に励みますので、面接の時にはよろしくお願いします!」
「ランドマーク商会の最終審査で落とされましたが、ミナトミュラー商会にこの後受けても問題はないでしょうか!?」
昼休みの二年生食堂の前で四年生に捕まったリューは質問やアピールに困惑していた。
「ちょっと、場を弁えなさいよ!」
リーンとスードがリューと四年生との間に入って対応に当たる。
「みなさん、就職活動はわかります! ……わかりますが、ここは学園内です。このような場でのアピール、説明を求める行為は僕の印象を悪くするだけです。それらは全て裏目に出るだけなので、ご理解ください!」
リューが、ぴしゃりと必死な四年生達に答えた。
すると先程までの勢いはどこへやら、必死なアピールもピタリと止まる。
「就職面接は、寄り親のランドマーク商会も我がミナトミュラー商会も随時担当者が行います。もちろん、僕も機会があれば立ち会う事もありますが、それは指定された曜日、決まった時間の事であり、それに従ってもらわないと困ります。それが出来ない方は、そもそも雇われないと思ってください」
リューが厳しくそう告げると、四年生達は一斉に頭を下げて謝るのであった。
「凄かったな、四年生。まあ、みんな将来のことを考えると、居ても立っても居られないのはわかるけどさ」
ランスが、昼食をリュー達と取りながら、そう漏らす。
「みんな必死だよ。それに、リューのところは、イバルやスード、ラーシュにノーマンのような在学中に雇用されてしまう前例を作っているからな。なんでもありと思って押し掛けたくもなるんだろう」
シズの幼馴染ナジンが、第三者視点でそう指摘する。
「同級生はまだ、就職活動という雰囲気ではないから、リューのところに来ないが、三年、もしくは四年生になったら、さっきのように押し掛けてくる生徒はいるかもしれないぞ?」
イバルも上司であるリューに注意した。
「僕も迫られてそれを実感したよ……。学園に採用枠を数名分提示したのはうちだけど、ここ数年しか実績のない商会だから相手にされないと思っていたんだよね。ランドマーク商会の方でもすでに面接しているのかぁ……」
リューは前世時代、アルバイトくらいしか面接をした経験はない。
それも、書類を出すと一目で「いつから来れる?」という程度のものであったから、必死になったことはなかった。
極道になった時はスカウトがきっかけだったから、リューはそのやり方でイバルやスード、ラーシュにノーマンを獲得した形である。
「……私はリズのところ以外だったら、ランドマーク商会に就職したいかな」
シズがお気に入りであるランドマーク商会の名を口にした。
「俺は、親父の下で侍従修行中だからなぁ。これ以外考えられないぜ」
ランスはすでに就職先は決まっているようなものであるようだ。
「そう考えると、このグループで就職先が決まってないのは、自分とシズ、イエラ・フォレスさんくらいか! ……急に焦る気持ちになるんだが?」
ナジンが仲間内でいつの間にか少数派になっていたことに、驚く。
「……頑張れ、ナジン君。私はリズのコネでリズの側近になるから」
シズがナジンに同情するように、励ます。
「シズ。私にそんな力はないから、あなたも頑張らないといけないわよ?」
リズ王女が、親友を茶化すように言う。
「……えー!? リズの為に頑張るからそこはお願いします……!」
シズがリズ王女を拝むようにお願いし始めると、みんなから笑いが起きるのであった。
「ちなみに、イエラ・フォレスさんは、将来どうするの?」
リズ王女が、謎の多いこの同級生に聞く。
「我か? 我はしばらくの間、リューのところか、ランドマーク家のお世話になるつもりじゃ。祀られておるしの」
「「「祀られ……?」」」
一同は、イエラ・フォレスの返答に首を傾げる。
「ま、まあ、イエラさんはうちで(祀って)色々お世話するつもりだよ」
リューは慌ててフォローに入ると、笑って誤魔化すのであった。
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