第719話 交換会の余談ですが何か?
二学期の最後のお楽しみの行事であったクラスごとのプレゼント交換会は、結果的に好評のようであった。
他所のクラスでは、用意した箱の中に銅貨五枚(予算として配られたもの)を入れるだけという悪ふざけを行った者もいたようだが、これはクラス全員から大ひんしゅくを買い、行った者のプレゼントと交換させることで丸く収まったようである。
他にも笑いを取ろうと思ったのか、プレゼントの中身に死んだ鼠を入れていた者もいたが、同様に処罰を受けたようだ。
当然ながら、こういった悪ふざけの行為は、内申書に影響が出ることになるだろうから思い出作りのつもりでも、あまり勧められたものではない。
高い授業料を支払い、勉強を頑張って王立学園に入学しているのに、最終的に卒業できない可能性も生まれるからだ。
そういう意味で、プレゼント交換会は、その人の人間性がプレゼントの中身に如実に出るイベントであった。
だが、大半は楽しく行われ、生徒会主体のイベントとしては、とても平和的で教師陣にも評判の良いものになったのである。
リュー達やエマ王女クラスは特に成績優秀者や貴族、お金持ちが多いこともあり、プレゼントの値段が相当高くなってしまうという状態であったが、普通クラスは比較的に庶民的な内容に落ち着いたことを記述しておく。
やはり、生徒達もクラスの雰囲気に合わせたプレゼントを用意する常識がある者がほとんどであったということである。
まあ、クラスの一人や二人は、空気を読まず、豪華なものを用意することで騒ぎになるのであったが、それはそれでプレゼント交換会の醍醐味の一つと思えば来年も楽しみにしてもらえるのではないだろうか?
ちなみに、全学年で一番高価なものを用意した貴族&お金持ちは誰だったかというと……、それは、イエラ・フォレスである。
彼女の用意した『古い指輪』は、価値が付けられない程の希少なものであり、それを貰ったイバルは幸運だったのかもしれない。
まあ、何の魔法が付与されているのかわからないのだが……。
その一方でリズ王女やエマ王女が比較的に価格を抑えた? ものを用意していたので、来年はこれが基準になるのかもしれない。
そういう意味では高すぎず、安すぎないものが好ましい、というのが貴族や金持ちに共有される情報かもしれないのであった。
プレゼント交換会の翌日の学園──。
「それにしてもリューのプレゼントは洒落てたな。毎年パーティー時期には必要なものであるのは確かだし、俺達貴族の子息令嬢も毎年その準備の為に仕立屋との話し合いが何度も行われてうんざりするものだからな。貸衣装でもいいけど、貰えた生徒は自分専用の服が誇らしいんじゃないか?」
ランスが、他のクラスのプレゼントの中身の情報を集めたうえで、リューを高く評価した。
「へへへっ。僕も色々考えたんだけど、前回のパーティー時期、貸衣装が好評だったから、その延長線上でそのまま一生モノのオーダー衣装をプレゼントしちゃえばいいじゃん! って思ったんだよね」
リューはランスに褒められてちょっと嬉しそうだ。
「リューはしっかり貰う人のことを考えているのよ」
リーンが自分のことのように、胸を張る。
各自、用意したプレゼントについて、自慢や反省、来年はもっと良いものを用意するといった抱負が聞かれる中、ラーシュは話の輪に入らず、不安そうな顔をしていた。
「どうしたんだラーシュ?」
イバルがそんなラーシュに気づいて声をかける。
「あの……。さっきからそのパーティー衣装というのは何の話なんでしょうか? 毎年必要とか話していますけど……」
ラーシュは今年から編入してきたので、年の初めから新学期までがパーティー時期であることを知らないのだ。
それに、これまでは『聖銀狼会』で参謀役をやって世間の常識にも疎いくらいであったから、王立学園の貴族向けのイベントを知るはずがない。
「あっ。そうかラーシュは知らなくて当然だったね」
リューがラーシュの疑問にすぐに気づく。
そして続けた。
「王立学園では、三学期は卒業予定の生徒の就職活動や新入生の試験の準備&入学手続きなんかで学校側が忙しいから、基本テストは小テストのみ。授業も普通にあるけど、それ以外は貴族の嗜みであるパーティーを行って親睦を深めるのが恒例なんだ」
リューが来年の行事予定をざっくりと説明する。
「そ、そうなんですか!? 私、そんな準備、全くできていません……」
ラーシュは自分の知らない世界のイベントが待ち受けていることに不安を覚えたようであった。
「心配しなくて大丈夫だよ? ラーシュはミナトミュラー家の家族だからね。うちでリーンやイバル君、スード君同様にラーシュのドレスも用意するから。希望があったら言っておいてね」
ラーシュの当然の権利とばかりにリューは答えた。
「えー!? いいんですか!?」
普段、落ち着いた物腰のラーシュもこれには驚いて声を上げる。
「当然じゃない。ラーシュはミナトミュラー商会の従業員なのよ。その一員である以上、みすぼらしい格好なんてさせないわ」
リーンがラーシュの驚きに呆れたように応じた。
「はははっ! リューのところは将来安泰なうえに、至れり尽くせりでいいな! 俺もボジーン家の嫡男じゃなかったら、リューのところに就職したいぜ!」
ランスが笑ってもしもの希望を口にする。
「……私もリュー君のところに就職したいけど、リズのところにも行きたいかな」
シズがリューとリズ王女を天秤にかけて悩む様子を見せながら真面目に言う。
「ラソーエ侯爵家の令嬢なんだから、そこは迷わず、リズのところに行けよ」
幼馴染のナジンが、シズの頭にチョップを繰り出してツッコミを入れる。
「……痛いよナジン君!」
シズが頭を摩って不満を漏らす。
「私もリュー君のところは楽しそうだから、就職してみたいかも」
リズ王女が冗談交じりにそう告げる。
こういった冗談は普段言わないリズ王女であるが、この辺りは慣れてきたリュー達である。
「リズが商会の従業員になったら、売り上げ倍増なんだけどね」
リューが笑って応じた。
「そうね、リズ。王女を辞めてうちに来なさいよ。私も大歓迎よ」
リーンも笑って、歓迎の姿勢を見せる。
「おいおい。リズが王女を辞めたら国が混乱するだろ。というか陛下がキレるぞ」
イバルが真面目な顔して想定できる混乱を考えてツッコミを入れた。
「「「確かに」」」
国王の性格をある程度聞いているリュー達はそれを想像して、リズ王女も含め納得するのであった。