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第716話 天ぷら屋の評判ですが何か?

 天ぷら屋の開店初日は瞬く間に満席となり、そこから客足が絶えない状況となった。


 特に人気となったのがカウンター席である。


 こちらの世界では、調理している様子を見せないのが普通なだけに、天ぷらや刺身などの料理が出来ていく様をそのカウンターから生で見られるというのは、食事前の最高の調味料であった。


「こうやって料理が出来ていくのか……!」


「あっ! あの料理はなんだ? 私も追加で頼もうかな」


「あれが、生で食べるという刺身料理か……。見る限り美味しく見えるから、自分も挑戦してみようかな……?」


「天ぷらが揚がる音やその香りが、そして目で楽しめるのは、最高だな!」


 といった具合で、カウンター席は、一人で来る者にとっての楽しみ方の一つとして早くも好評を博し始めていた。


 テーブル席は、複数人で楽しく料理を楽しむのに最高であったし、個室は静かな雰囲気で料理に舌鼓を打ち、お店の売りの一つである『ニホン酒ノーエ』もゆっくり堪能できる。


 個室はその分、個室料がかかるのだが、それを承知で予約するのがお金持ちだから問題はない。


 安くはない設定価格だが、実際、新鮮な海産物や旬の野菜など拘り抜いた食材が使用されており、王都でこれを食そうと思えば多額のお金がかかって当然であったが、満足のいく味であることは間違いないから、ケチをつける者はほとんどいないのであった。


「これが、海鮮か……。王都で出回っている塩漬けのものとは全く味が違うじゃないか!」


「王宮で絶賛されたというから来てみたが、確かにこれは驚きの味だ……」


「生で食べるのには抵抗があったんだが、陛下もお召し上がりになられたのがわかる美味しさだな!」


 やはり、生で食べるという習慣のない王都民であるが、王宮での食事会の噂が功を奏したと言って良いだろう。


 実際、みんな抵抗感があったのだが、国王や上級貴族が食べて美味と評価したものである。


 それは誰にもまして説得力を持つものであった。


 貴族は流行りを押さえるインフルエンサーだし、王家は国家の代表である。


 そんな人達が絶賛する食べ物が美味しくないわけがない、と考えるのが王都民であったし、それに加えて入手困難であるニホン酒ノーエが正規の値段で飲めるのもこの天ぷら屋だけであったから、並んでも食べたいと考える者がいて当然であった。



「タウロお兄ちゃん、朝からずっと満席だね!」


 リューは上々の客入りに嬉しくなってオーナーである長男タウロに声をかける。


「それもこれも、リューのお陰だけどね」


 長男タウロは自分がやったことは、王都の貴族への顔見せがてらの営業だけであったから、実に謙虚だ。


「それでも、ランドマーク家の嫡男としての信用が、この客入りになっていると思うよ」


 リューはそう指摘する。


 実際、天ぷらや刺身というのは、人々にとって未知の食べ物であり、そういうものには警戒感を持つのが人である。


 しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いのランドマーク家の看板と王宮での食事会の評価、そして、長男タウロの地道な営業活動での宣伝と不安材料を無くす成功の為の活動を行ったとなれば、その信用は当然のことであった。


 その責任者が長男タウロであり、そのタウロの為に人が動いているのだから、最終的には全ての責任や問題はタウロに帰する。


 だからこそ、成功も全て長男タウロのものであった。


「リューは小さい頃からいつも家族の為に動いてくれていたね。今回も本当の手柄はリューだよ。ありがとうね」


 長男タウロは、兄として家族の一人としてリューに感謝する。


「ランドマーク家あってこそのミナトミュラー家だから。家族が幸せなら僕も幸せなんだから問題ないよ!」


 リューは謙虚な兄タウロが大好きであったから、笑顔でそう答えるのであった。



 ランドマークブランドの『天ぷら屋』は、初日だけ見ても大成功と言ってよいものになった。


 この成功を受けて、個室の予約はさらに増え、数か月先まで埋まるという状況であったし、一時間という制限付きでもあったので、回転率は悪くない。


 これも、調理時間が短いという天ぷらや刺身の強みがあるからできることであったが、一時間という短時間でも満足の行く提供が出来ているという自信があった。


 実際、個室のお客は、あっという間だった、という感想を漏らす者がほとんどであったが、それと同時に満足した、という声も同じく聞くことが出来たからだ。


 それに、『ニホン酒クレストリア(クレストリア王国産)』『ニホン酒ノーエ(ノーエランド王国産)』、ドラスタの高級酒などを揃えており、それらを料理と共に楽しめるのだから満足しない者はいないのであった。


 タウロは、個室のお客の精算時には顔を出して挨拶するという丁寧な対応をしていたし、伯爵家の嫡男にも拘らず、尊大な雰囲気がなかったから、これもまた、お客である上級貴族などはタウロのことが好きになる。


 父ファーザも大抵の相手と仲良くなってしまうから、親子ともども見事な人たらしであった。


 こうして、ランドマーク商会が経営する飲食店の一つとして『天ぷら屋』は大成功を収めることになる。


 さらにこの『天ぷら屋』は貴族同士の密会や重要な取引などにも利用されることが当たり前になっていく。


 それほど、『天ぷら屋』は王都で新鮮に食すことが難しいとされていた海産物を唯一食べることが出来るお店としてとても価値があったし、そのお店で食事ができるということは、一種のステータスとして扱われるから当然であろう。



「大人気だけど、個室が数か月先まで予約済みだと、リズ達を案内できないんじゃない?」


 リーンが大事な指摘をリューにした。


 そう、クラスの隅っこグループの友人達を、『天ぷら屋』に案内する約束をしていたからだ。


「ふふふっ。実は僕もそれを忘れていてどうしようかと思ったんだけど、そこは問題ないらしいよ。タウロお兄ちゃんが一番奥の個室は、接待用として予約を入れないことにしたんだって。さっき、トイレでその話をしたら、いつでも問題ないってさ!」


 リューは兄タウロの機転の良さを誇らし気に告げた。


「さすがタウロね、気が利いているわ」


 リーンも感心する。


 そして、後日、リューはリズ達クラスメイトを招き、天ぷらと刺身を振舞って満足してもらうことになるのであった。

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