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第711話 長男の視察ですが何か?

 天ぷら屋の経営をランドマーク商会に任せることで、リューはおにぎり屋の開店を目指すことになった。


 ちなみに、天ぷら屋の料理人はリューのところから派遣という形だが、これは料理人の判断に任せている。


 このまま、ランドマーク商会の下で働くもよし、後継者を育ててから戻ってくるも良し、リューのところの人間として、派遣という形で雇用され続けるかだ。


 いろんな可能性をリューは料理人達に示したが、「主は若以外にありえない!」というのが、答えであった。


 ということで、天ぷら屋の料理人達は後継者を育てつつ、派遣という形で務めることとなる。


「さすが、リューのところの料理人だね。気持ちのいい判断だよ」


 経営を任せられることになった長男タウロはそう言うと、その判断を嬉しそうに歓迎した。


「それにしても、独特な雰囲気の店構えだね。個室のお座敷だっけ? 靴を脱いで部屋に上がるという試みも驚きだよ」


 長男タウロは、リューと共にほとんど来ない王都に足を運ぶと、早速、お店を視察に訪れていた。


「ゆっくり寛いで料理を楽しんでもらいたいからね。靴を脱ぐと解放感があるでしょ? それに、掘り炬燵方式だから、足も延ばせるのが長所かな」


 リューは、前世の知識を目いっぱい活かした作りのお店にしている。


「ホリゴタツ? は、わからないけど、床に座るという発想はないだろうから、画期的だよね。カウンター席も目の前で調理している料理人の様子が見れるのも、お客さんにとって臨場感があるのがいいよ。それに出来立てがすぐに出せるというのも強みだね」


 長男タウロはお店を隅から隅まで確認すると、リューの考えが行き届いたお店の仕組みをすぐに理解し、感心した。


 いや、一目見てそれらをすぐに理解してしまうタウロお兄ちゃんの分析力も十分凄いから!


 リューは尊敬する兄の優秀さを改めて目の当たりにする思いで、内心ツッコミを入れるのであった。


 こうして、長男タウロは天ぷら屋の開店に向けて、お店の仕組みをしっかり把握し、経営についてもリューと話し合いを重ねていく。


 元々、真面目である長男タウロは、神童と呼ばれていたリューを身近で見てきた一人であったから、その考えもすぐに理解し、色々な案も出す。


 その一つが、リューが王宮で行った魚の解体ショーである。


 さすがに、本マグロのような大きいものを頻繁に解体することはできないが、カウンター席の目の前で刺身となる魚をさばくくらいならいくらでもできる。


 だから天ぷらの調理場の横に、まな板の設置を提案したのだ。


 リューもそれは考えたのだが、生ものに抵抗感があるであろう王都民の前で魚などを捌くのは避けてその調理は奥の部屋でやらせるつもりでいたのである。


 しかし、タウロはお客に慣れてもらう為にも、捌いている様子を見てもらうのが一番だと考えたようだ。


 要は興味がてらその見た目にも慣れてもらい、生ものに対する偏見を無くす第一歩にしようということらしい。


 なるほど、初見で食べてもらうのは無理でも、通ううちに見慣れてもらうのは大事かも……。


 リューは、タウロの指摘によって、自分が前世の知識があるからこその偏見に気づかされることになった。


 刺身などの生ものは日本人なら慣れたものではあるが、海に面していないところに住む者はそれこそ海産物を目にすることなく生涯を終える者もいるくらい縁がない人もいる。


 だから、まずは、見慣れる。


 それから興味を持ってもらい、食べてみようかな? という意識になってもらう段階を踏むのが大切だと考えるのであった。


「あ、でも、このイカとタコだっけ? これは魚に慣れた人達の前だけで出してみた方が良いかも。その辺の魔物より、見た目が凄いから……」


 さすがの長男タウロもイカとタコというヌメヌメとした軟体動物は抵抗があるようだ。


「はははっ! 新鮮なイカとタコはコリコリとした歯ごたえがあって、刺身でも美味しいんだよ? 天ぷらでもその美味しさは知っているでしょ?」


 リューがそう告げると、その傍でリーンと警護役のスードも大きく頷く。


「天ぷらはこの姿を知らずに食べたからね……。まあ、リューが言うのなら、ちょっと食べてみてもいいかな?」


 タウロは少し、後ずさりしたい気分を抑え、この信頼する弟の言葉を信じて勇気を出す。


「大将、イカ刺しとタコ刺しをお願い」


 リューが料理人にそうお願いすると、


「へい!」


 と返事をしてヤリイカを一杯取り出すと、慣れた手つきで捌き、お皿に盛りつけしてタウロの前に出した。


 タウロは器用に箸を使い、ワサビ醤油に付けて口に運ぶ。


「……これは! リューの言う通り、コリコリの食感で適度に歯ごたえがあり、美味しいね!」


 見た目のグロテスクさからは想像できない美味しさに、長男タウロも目を輝かせてそう評価する。


 そして、タウロは思うのだ。


 次、妻エリスを連れての視察の時は、同じものを味わってもらおう。最初は驚くだろうけど、きっと僕と同じように喜んでくれるはず、だと。


 こうして、天ぷら屋の視察を終えたリューと長男タウロは、ランドマークビルの王都自宅に戻る。


 そこでは、引っ越しの後片付けを行っていた長男タウロの妻エリスと末っ子ハンナ、そして、母セシル達が待っていた。


「視察はどうでしたか?」


 エリスがタウロに笑顔で出迎えると、そう聞く。


「とても有意義だったよ。今度は一緒に行こう。視察ついでに食べさせたい料理も増えたしね」


 タウロはリューと視線を交わすといたずらっ子のような笑顔でそう答える。


「あら、タウロったら、珍しく悪い顔をしているんですね」


 エリスもすぐにタウロの表情でいたずらする気満々だと気づいて笑う。


 タウロのいたずらは、エリスにとって楽しいものであったから、何の不安もない。


 それだけ、普段からタウロが優しく信頼できる夫だということだ。


「ははは。リューから勧められたものなんだけど、見た目の割にとても美味しいものだから安心して」


 タウロもエリスが察した表情をしたので、この愛する妻の反応を嬉しそうに見つめる。


「これから、王都で過ごすのだから、いろんなものを楽しんでね?」


 リューがその様子を楽し気に感じて言うと、タウロとエリスは笑顔で応じる。


 そこに、妹ハンナが、


「私も来年からこっちで暮らすつもりだからね!」


 と宣言した。


「え? そうなの!?」


 リューが驚いて聞き返す。


「来年は、ハンナも王立学園を受験する予定だから。早いものね、もう、そんな歳なんだから」


 母セシルが、嬉しくもあり、残念な様子もありという表情でそう漏らす。


「お父さん、よく許したね?」


 リューが思わずそう指摘する。


「お父さんは、未だにごねているわよ? だから、この話はお父さんの前でしちゃ駄目だからね?」


 母セシルは人差し指を口元に立てるとリュー達に注意喚起する。


「「「はーい」」」


 リューに長男タウロ、妹ハンナやリーンもこれには納得して一緒に返事をするのであった。

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