7話 取り立ててですが何か?
サイテンのランドマーク家訪問から数日のこと。
リューの『鑑定』能力に変化があった。
今までの能力では全ての物に名前が表示されるだけだったが、説明が付くようになったのだ。
これはかなり便利だった。
今までは名前がわかるとそれを頼りに父の書斎で本を開き調べてどういうものなのか確認していたのだが、それが不要になったのだ。
試しに森に行くと植物を”視る”、もちろん鑑定出来るのは物だけなので表示されないが、これは簡単にクリアできる問題だった。
一旦摘んで、物にして確認すればいいのだ。
これで、名前と説明を確認できる。
この裏技のようなやり方で食べられるか食べられないか、薬草なのか毒草なのか、判断できる。
一々、摘まなくてはいけないのが難点だが、そうする内に外見も覚えるので一石二鳥だった。
こうして、ランドマーク家の食事事情にまた、大きく貢献出来るようになった。
リューの日課は、午前中に勉強、お昼から剣の稽古、その後森に出かけて罠の確認など食糧調達、その後は夕飯まで自由だったが、その自由時間、新たな日課が生まれていた。
領兵の隊長を務めるスーゴもこの時間は暇なので付いてきて貰う。
小高い丘にあるランドマーク家の領主宅の麓に位置する領都である街に二人は来ていた。
領都と言っても騎士爵程度の街は規模は村に近い。それでも、商業ギルド、冒険者ギルドの支部があるだけかなりましだろう。
おかげでメインの通りにあたる大通りにはそこの相手をする為に商店がいくつか並び、酒場もある。
「出入りしてるのはこの酒場だよね?」
リューが同行しているスーゴに確認する。
「ええ、そのようです。リュー坊ちゃん、本当に大丈夫ですか、俺が行きますよ?」
酒場に子供を連れて来るだけでもはばかられるのに、リューをとなると後々面倒そうだと思ったのか念を押した。
「いや、打ち合わせ通りでお願い」
「わかりました」
スーゴは渋々了解した。
二人は酒場に入っていった。
中にはまだ夕方でもないのにお酒を飲んでる者が数人いた。
冒険者に紛れて農民もいた。
「あいつです」
スーゴがその農民を指さす。
リューは頷くとその農民に話しかけた。
「どうも、あなたがミソークさんですね?切り取りに来ました」
「ああ?なんだガキんちょ。……切り取りってなんだ?」
「あ、すみません、つい極道用語が……。あ、取り立てに来ました」
「ご、ゴクドー?取り立て?」
「はい、数年前にミソークさんが父から借りたお金の事です」
「父?」
「はい。領主である、ファーザの事です」
「りょ、領主様の子供!?」
農民のミソークは慌てて姿勢を正した。
よく見ると子供の後ろには厳つい男が立っている。
その瞬間、ヤバい事になってると、酔った頭でも理解できた。
「わ、私に何のようでしょうか!?」
「だから、借金しましたよね?」
「ど、どうだったかなぁ……」
「借用書は……、ここにありますよ。」
リューがスーゴから一枚の紙を受け取りミソークに見せる。
すぐにスーゴに借用書は返すと
「この数年、豊作であなたも例外なく潤ってるはずですが、利息の一銅貨たりとも支払いが無いですよね?どうしてでしょうか?見る限り、お金には困っていない様子ですが?」
「借りたものは返すのが筋だろうが!」
スーゴがリューの背後からすごんだ。
ミソークはその迫力に悲鳴を上げてたじろいだ。
「スーゴ止めなさい。ミソークさんが怯えています。すみません、スーゴは気が短くて困ります。……で、返済についてですが、よろしいですか?」
「……は、はい!返します!」
6歳の子供より、スーゴに怯えたミソークは間髪を容れずに答えた。
リューはにこりと笑顔を向けると
「それでは、無理のない支払い方法について話し合いましょう」
そこからはリューの独壇場であった。
ミソークにも家族があるので、あくまでも無理のない返済プランを提案する。
その内容に、ミソークもポカンとしたが、怖いスーゴと違って領主様の息子は話が分かる事に納得すると、リューが指し示す紙にサインをする、毎月、少しずつ支払うという内容の契約書だ。
「それでは、今度からちゃんと月々支払って下さいね」
リューが笑顔でお願いするとミソークも頷く。
こうして、ランドマーク家の財政が一歩、改善されたのであった。