第678話 一致団結ですが何か?
この日、王都裏社会において、『竜星組』を中心とした同盟が結ばれることになった。
その同盟組織のうちは、発起人の『竜星組』はもちろんのことだが、犬猿の仲で有名な『月下狼』、『黒炎の羊』の両組織が入っている。
王都には未だ『竜星組』、『月下狼』、『黒炎の羊』に所属しない中小の組織、グループが存在するが、王都裏社会全体に対する『屍黒』の宣戦布告に対して一致団結することで結集されることになった。
これは、異例のことである。
王都裏社会は昔からその闇は深く、一つになることは難しいとされてきたからだ。
それは、目的や存在意義などが全く違う組織が多かったからであり、それは今でも変わらないだろう。
しかし、『屍黒』という突如現れた(ように見える)巨大組織による王都裏社会全体への宣戦布告によって、危機感を持たざるを得なかったし、何より、過去に例を見ない『竜星組』という仁義を重んじる組織が、各方面に力の結集を訴え出たことも大きい。
それは、裏社会に関係する小さい組織、グループもないがしろにせず、声を掛けていたから、それを意気に感じてその訴えに賛同した形であった。
それこそ、死体の違法な処理を行っている組織から、裏社会の者でさえその存在が疑わしいと思われていた暗殺ギルド、それに貴族や裏組織まで顧客がいる拷問組織、人身売買を行っている闇商人組織など、どこに所属するでもない独立独歩の者達も今回は『竜星組』の訴えに、集まったのである。
さすがに大半の者は、仮面を付けて素性を隠す形であったが、集会に人を出すだけでも王都裏社会の秩序を守る気持ちがあるのは確かだろう。
「……さすが『竜星組』と言ったところだね。王都裏社会の外道な連中がまさか一堂に会することになるとは。ここで争いが起きないだけでも驚きさ」
王都郊外で行われた秘密の集会に参加した『月下狼』のボスであるスクラが、一同をざっと見渡して感心し、そう漏らした。
その場所は大きな倉庫を改装したらしい場所で、全ての窓は塞がれており、中央に大きな円卓だけが置かれている。
その一席に『竜星組』の代表としてマルコがおり、その両側には『月下狼』のスクラ、そして、仮面を付けた『黒炎の羊』のメリノが座っていた。
あとは自由に座る形で王都裏社会の組織、グループの代表が席に着く。
「これも、若の人望だな……」
月下狼のスクラに答えるようにマルコがつぶやく。
その背後にはマルコの従者のフリをした仮面とフードを被ったリューとリーン、スードが立っている。
「あたしは、その『若』って人物を知らないんだけど?」
『黒炎の羊』のボス・メリノは『月下狼』のボス・スクラが知っていそうな様子を悟り、不満そうにぼやく。
マルコはそれを無視して立ち上がると、
「みんな、よく集まってくれた。知っての通り、この王都裏社会に宣戦布告をしてきた奴らがいるのはすでに承知しているだろう。先日、その第一陣による襲撃が行われ、すでに一部被害も出ている。敵は『屍黒』という組織だ。王都周辺の各貴族領の広範囲に勢力を持つ謎の集団で、これまでは王都に勢力を伸ばすこともなかったようだが、今回、『屍黒』と組織名を改めたことで王都に勢力を伸ばすことに決めたようだ。奴らには王都裏社会の暗黙のルールが通じない。あれだけの巨大組織だ、ルールに従うつもりもないのだろう。だからこそ、俺達の利権を守る為にも結集して対抗することを求めたわけだ。今回は本当に集まってくれたことに感謝する」
と簡単な説明と感謝を述べて頭を下げた。
「『竜星組』に頭を下げられちゃな。お宅が大きな組織とはいえ、俺達小さい組織の存在も尊重してくれていることには感謝している。普段なら他所の組織と徒党を組もうとは思わないが、王都裏社会の存続に関わる事態とあっては、参加しないわけにはいかないな」
小さい組織のボスが、マルコを立てるように口を開く。
「ヒヒヒ……。うちは『竜星組』さんとは相容れない商売をしているから、仮面のままで失礼するぜ? ──そっちの奴の言う通り、うちも今の王都裏社会を気に入っているからな。『屍黒』とかいう連中の好きにされては商売上がったりだから、協力するぜ?」
「みんな同様、うちは独立独歩の組織だが、よそ者にこの裏社会をかき回されるのは勘弁じゃな」
「言いたいことは大体言われたが、要は、今ある利権をよそ者に奪われるのは癪ってことだ。まあ、時代が動いているのはお宅の『竜星組』の存在でわかっちゃいるが、うちは古くからこの商売をしている。それを自分の代で止めるわけにもいかないから、協力は惜しまないさ」
それぞれが自分の言い分を述べていったが、誰もが自分達の利権を脅かす『屍黒』に危機感を持っているということはわかる。
それに王都裏社会への宣戦布告が気に入らないというのもあった。
『竜星組』、『月下狼』、『黒炎の羊』に対して襲撃をすでに行っていたので、近隣にも被害が出ていたこともあり、中にはそのせいで巻き添えを食らった組織もあるのかもしれない。
だから対岸の火事ではないことをみんな自覚しているのだ。
「賛同を得られてよかった。『竜星組』としては、表に出るのはうちと『月下狼』、『黒炎の羊』の三大組織だけでいいと思っている。だが、相手は『屍黒』だ。王都裏社会の常識は通用しない連中だからな、こちらはその連中にこちらの《《常識》》ってやつを教え込む必要がある。王都裏社会に喧嘩を売った代償を、な。だからこそ、お前らの協力が必要だ」
マルコは、もちろんのこと、ボスであるリューも今回、『屍黒』の相手ということで、容赦する気はない。
なにしろ、『屍黒』の他にも『屍人会』『亡屍会』も各地方に乱立している状態である。
『屍黒』を容赦なく叩いて、他の組織に見せつける必要もあるのだ。
王都裏社会を敵に回すとどうなるか、を。
「早速だが、敵の第一波の襲撃で捕らえた兵隊のうち、ほとんどは警備隊に引き渡しているが、そうでない者も三十人程いる」
マルコはそう言うと、手を挙げる。
すると、倉庫の奥から捕縛した『屍黒』の兵隊が連れてこられた。
「こいつらは『屍黒』の部隊長連中だ。拷問で敵の情報を引き出し、そのあとは死体は処理し、生きている者は王都裏社会に喧嘩を売ったことを後悔しながら最悪の人生を送らせてもらっていいか?」
マルコが冷徹に告げると、集まった専門集団の前に立たせた。
「それは確かにうちらの得意分野だな、任せてくれ。──拷問はあんたら、処理はお宅。人身売買はうちが引き受けた。一生後悔するような相手に売り捌いてみせるよ。キヒヒ……」
闇商人の一人が仮面越しに不気味な笑いで応じると、その部下達が『屍黒』の連中を連行していく。
これで、連帯感は生まれたかな。
とマルコの後ろに立っているリューは、当初の狙い通りになったことを確認する。
「それでは、対『屍黒』戦略について説明していくぞ」
マルコはそう言うと、リューが練った戦略について、同盟者達に説明していくのであった。