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第677話 動き出しましたが何か?

 王都に緊張が走る中、王都の裏社会に宣戦布告をしていた『屍黒しこく』がついに動きを見せる。


 ランスキーからの情報ですでに王都内に『屍黒』の兵隊が大量に入ってきているのはわかっていたのだが、いつ動き出すのかが注目されるところであったから、その報告がリューの下に届いた。


「『屍黒』の兵隊が『竜星組うち』の王都事務所数か所を襲撃してきました!」


 休日の朝、ランスキーの部下がランドマークビルの自宅に報告に来た。


「報告ご苦労様。被害はどんな感じだい? みんなにはこの数日、事務所で準備させていたから十分対応は出来たと思うのだけど?」


 リューは慌てることなく部下を労うと、状況を聞く。


「へい! 若の命令通りだったので被害はいたって軽微です。敵の魔法で火傷する者もいましたが、すぐに治療できています。そのあとは近くの警備隊も約束通り駆け付けるのが早かったので、協力して敵の多くを捕縛しました!」


「敵の第一陣は、失敗に終わった感じかな? 思わぬ反撃にあちらもすぐには対応できないとは思うけど、警戒を怠らないで。──この感じだとやっぱり『月下狼』『黒炎の羊』も同時襲撃かな?」


 リューは部下に警戒を徹底させるとリーンに予想を口にする。


「そうね、『屍黒』はうちより大きな組織みたいだし、先制の大規模襲撃で優位に立つのが狙いでしょうから、他の組織にも仕掛けているでしょうね」


 リーンがリューの疑問に答えていると、答え合わせとばかりに他の部下が報告に駆け付け、『月下狼』の数か所の事務所も襲撃されたが被害が軽微であることを知らせた。


 立て続けに『黒炎の羊』の事務所も襲撃され、そちらは被害が大きそうだという報告がなされる。


「あらら……。『月下狼』のボス・スクラはこちらからの忠告通り対応できたみたいだけど、『黒炎の羊』は被害大きかったかぁ。先代のボス・ドーパーを失った後で、疑心暗鬼になっているみたいだから、こちらの忠告に対して聞く耳を持たなかったみたいだね」


 リューは眉をひそめてそう分析する。


「『黒炎の羊』にしたら、警備隊や王国騎士団との協力体制は信用できないでしょうね」


 リーンは同情することなく冷静にそう答えた。


 そこに、ルチーナの部下が駆け付けると、リューに指示を仰いだ。


 兵隊を動かしていいかを、である。


「予定変更。ルチーナの総務隊はまだ、動かないで。今は、『竜星組』の兵隊だけで対応するから。──『黒炎の羊』の救援には、近くの事務所から治癒魔法、水魔法が得意な組員を派遣して負傷者の治療や消火にあたって。警備隊も動いているから、そちらを立てる形で協力してね」


 リューは第一波の大規模攻勢が起きたら、その反撃にルチーナの総務隊を待機させていた。


 しかし、相手の襲撃が意外に単調なものであったので、予定を変更することにしたのだ。


 本当はもっと手の込んだ襲撃があるかしれないと思っていたのである。


 だが、意外に朝一番での多数の事務所へ同時襲撃以外には、手の込んだものはなかった。


 これはつまり、相手がこちらを軽く見ているようだ、とリューは感じたのである。


 つまり、まだ、『屍黒』は本気ではない、と。


 だから、こちらも本気を見せる必要がないという判断であった。


 とはいえ、この大襲撃は世間を騒がせるのには十分であったのも確かである。


 この日の昼までに、王都の民達は騒然としたし、怯え警戒した。


 特に、『黒炎の羊』の縄張り周辺の王都民達は、火事が朝から頻発したので、被害が大きく、ここのところ続く災難に絶望的な表情を浮かべる者も多い。


 そんな王都民の為に、警備隊を中心として『竜星組』などが支援を行うと、被害の出た地域の者達は泣いて感謝をするのであった。



 それから、数日後。


「『黒炎の羊』のメリノという奴が若に会って話がしたいと事務所を訪れていますがどうしましょうか?」


 王都事務所入りをして陣頭指揮を執っていたマルコのもとに、部下からそんな報告が来た。


「ほう……、新しい『黒炎の羊』のボスか。まさか、あっちから会いに来るとはな。だが、若が会うわけがない。俺が会おう」


 マルコはそう言うと、他の部下に指示を出してから、応接室に向かうのであった。



「あんたがマルコさんかい?」


『黒炎の羊』の新たなボス・メリノは羊のような天然パーマの黒い髪に金色の目、身長は高く、細身で黒服に身を包んだその姿は男装した女性であることがすぐにわかる。


「(噂通り、元幹部の一人だったか)ああ、そうだ。──あんたが『黒炎の羊』の新たなボス、メリノかい? 噂じゃ先代の孫という話だが?」


『黒炎の羊』は新たなボスについては素性等は世間に秘密にしていたのだが、マルコはランスキーの情報網で正体についてはわかっていたから包み隠さず指摘した。


「世間ではまだ、知られていない情報のはずなんだが……。──ああ。その通りだ。私はドーパーの孫娘さ。──それで、今日は感謝と謝罪に来た」


 新ボス・メリノは潔く自分の素性を認めると、マルコが『竜星組』のボスだと思っているのか、リューに会わせろということはなく、本題に入ろうとした。


「感謝と謝罪? 何の話だ?」


 マルコは多少予想はついたが、相手の面目を潰さない為に聞き返す。


「そちらから忠告されていたのに、こっちは話を聞かず、今回の事態になったことについてさ。その後も警備隊とそちらの兵隊が治療や消火活動などをしてくれただろう? 本当に感謝する、そして、すまなかった」


 メリノはそう言うと、その場で頭を下げる。


 同行していた部下二人もメリノと一緒に頭を下げた。


「頭を上げな。うちとしては王都裏社会の危機だと思ってのことだ。実際、『屍黒』という組織は王都裏社会に対して宣戦布告しているからな。俺達はそういう仕事を生業にしている身、売られた喧嘩は買わないわけにはいかないだろう? 『黒炎の羊』がどう考えているのかは知らないが、この難局は一致団結して乗り切らないといけないと思っている。そっちはどうだ?」


 マルコはメリノ達に頭を上げさせると、謝罪を受け入れて、一番の問題を提起した。


「……それは『竜星組』、『月下狼』、そして、『黒炎の羊』が手を結ぶってことかい?」


 メリノは『黒炎の羊』のボスとして、マルコの言葉を察して確認する。


「そういうことだ。そちらが『月下狼』と犬猿の仲なのは知っている。だが、今はそういうことを言っている場合じゃないだろう? それとも、あの巨大組織『屍黒』を相手に単独で戦える程の戦力が今の『黒炎の羊』にあるのか?」


 マルコは気を遣うことなくずけずけと指摘した。


「……いや、『月下狼』とのことに関しては、こちらから『竜星組』に間に入ってもらいたいと思っていた。その提案は助かる……」


 メリノはどうやら最初からそのつもりでやってきたようだ。


 連れてきた部下も同じなのか頭を下げた。


「……わかった。それじゃあ、うちのボスに話を通しておこう」


「「「え?」」」


 メリノ達はマルコの言葉に思わず、驚きの声を上げる。


「どうした?」


「いや、あんたが本当は『竜星組』のボスではないのかい? うちはずっとそうだと思っていたんだが……」


 メリノは困惑気味に聞く。


 連れている部下も激しく頷いた。


「はははっ! 俺がこの『竜星組』の組長なわけがあるかよ。うちのボスは俺などより頭が切れて腕っぷしも立ち、義理人情に厚い立派な方だ。俺とは元からの格が違うさな!」


 マルコは笑ってこの若い新たな『黒炎の羊』のボスに事実を告げると、和やかな雰囲気にするのであった。

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