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第676話 宣戦布告に対しますが何か?

 リューの『竜星組』は、王都周辺の貴族領域を縄張りとして結成された『屍黒』に宣戦布告をされたのだが、こちらからは手を出さないように言いつけてあった。


 あくまでも相手から手を出されたら反撃するという形である。


 第三者から見ると、すでに宣戦布告されている以上、『竜星組』から攻撃してもよさそうに感じるのだが、王都において巨大組織同士がぶつかるとなると、王都民を巻き込むことになる可能性が高い。


 それはつまり、王都警備隊や王国騎士団が介入する理由になる。


 だから、その時に先に手を出したのはどちらかというのは、とても大事なことであった。


 その為、リューとしては国や王都民に対しての大義名分が必要だと考えてのことであった。


 過去には闇組織と三連合(『黒炎の羊』『月下狼』『上弦の闇』)が王都において大抗争を引き起こしたが、この時は、王都民への被害は軽微で組織同士が口止め工作も行っていたから、警備隊や王国騎士団に介入されることなく終結したことがある。


 だが、元『屍』から分裂した形の『屍黒』は王都の暗黙のルールを守るつもりがなさそうだということは、結成直後に『竜星組』『月下狼』『黒炎の羊』への宣戦布告を公然と行ったことで理解できた。


 すでに、王都警備隊や王国騎士団は王都周辺に突然出来たこの巨大組織『屍黒』に警戒感を強めている。


 その理由の一つとして、以前から分裂前の組織である『屍』について調査していた近衛騎士団諜報部が王国騎士団にその危険性を訴え、情報を提供したことがあげられた。


 その基になるものはリューが提供したものであるが、『情報を制するものは戦いを制す』というもので、リューは情報を持って、国を動かし『屍黒』に対して万全の対応をしたのである。


 これはつまり、『屍黒』が、王都を舞台に抗争を吹っかけてきた場合、王都の裏社会は危険度の高い勢力に対抗する立場ということで、ある程度、国から大目に見てもらえるという状況を作り上げたのだ。


 今や、リューの提供した情報を基に、近衛騎士団諜報部は、『屍』を国内の危険分子として警戒していたので、そこから分裂した組織は当然ながら要注意団体組織ということになる。


 さらに『屍黒』は、公然と宣戦布告して王都進出を宣言したことにより、王家が広域危険団体指定という、誰もが初めて聞く注意事項を制定した。


 これは裏でリューが『王家の騎士』の称号を持つ身として提案したことによる。


 後押しは当然ながら近衛騎士団諜報部がしていた。


 これもリューの情報操作で、『屍』とそれに属した者の組織は危険という意識を近衛騎士団諜報部に持たせていたからだ。


 リューは『屍黒』が先に手を出すまで、こちらからは手を出さないと言いつつ、裏ではきっちり手を回して『屍黒』を追い詰める手を打っていたのである。



 とある貴族領の領都にある『屍黒』の本部事務所。


「ボス! 近衛騎士団にいる間者から報告です! 王家から『屍黒うち』が、広域危険団体の第一号に指定されたそうです」


 部下が、何やら重大そうな情報を持って部屋に飛び込んできた。


「広域危険団体? なんだそれは? まあ、うちが早速、王家も認める巨大組織になったってことだろう? 実際、王都以外の貴族領周辺は『屍黒』の縄張りに入っているからな。王都で調子に乗っている『竜星組』やあの方の小間使いだった『黒炎の羊』などは足元にも及ばない程の大きさだからな。宣戦布告した以上、多少警戒されるのも当然だろう。バンスカー様がいなくなった今、これからは俺のやり方でやらせてもらう」


『屍黒』のボス、ブラックは初めて聞く名称に首を傾げたが、裏社会で生きる以上、悪名は勲章であったから満足げに笑みを浮かべた。


 ブラックは、王家から第一号に指定されたということは、それだけ他の巨大組織の『屍人会』や『亡屍会』、それに王都の『竜星組』よりも警戒されているということで一歩前に出ることが出来たと考えているようだ。


 これまで、『屍』時代は、目立たず、全国に勢力を延ばすことが評価対象であったが、ブラックはずっと悪名で全国に名を馳せたい野望があったのだろう。


 だからこそ、まず、ボスであったバンスカーの死を弔うという意味も込めて、『屍黒』結成後はすぐに『黒炎の羊』に宣戦布告した。


『竜星組』と『月下狼』は同じ王都の組織だからというだけで、ただのおまけであったが、そうすることで『屍黒』の名は一気に名が広まったのも事実である。


 それに王家も関心を示したということがブラックは満足であった。


 しかし、ボス・ブラックは知らない。


 この『広域危険団体』指定がどんな重要なものであるのかを……。



 マイスタの街長邸の玄関。


 リューがリーン、スードを連れて馬車から降りてきたところ、執事のマーセナル、大幹部のランスキーが出迎えていた。


「どうでした、若? 上手くいきましたか?」


 ランスキーが、興味津々とばかりにリューに何かを聞く。


「うん、僕は例の『広域危険団体』指定案を提案した者として会議に呼ばれただけだから、話し合いは王都の裏社会代表として呼ばれていたマルコと宰相閣下、近衛騎士団団長や諜報部部長に王国騎士団団長、宮廷魔法士団団長など、そうそうたるメンバーで行われたんだけど、『屍黒』については協力体制でその動きに当たることが決定したよ。つまり、彼らは王都に進出して僕達を狙った時点で、国家権力によって討伐されることが決定したようなものかな。だから『竜星組』は裏社会の組織であるにも拘らず、国と一時的ながら協力関係を結ぶことになった形だね。──思った以上に上手くいって怖いくらいだよ」


 リューは『屍黒』が想像以上の巨大組織であったから、王都の裏社会が協力体制を結ぶことはもちろんのこと、国を動かすことで抗戦することの正当性を持たせたのだ。


 これで『王家の騎士』としての役割も果たせるし、『竜星組』組長として自分の組や縄張り、そこに住む王都民も堂々と守ることができるというものである。


「若の考えとはいえ、まさか、一時的とはいえ裏社会の組織が王家と手を結ぶことになるとは思いませんでしたよ」


 ランスキーは、呆れ気味に苦笑する。


 だが驚くのも仕方がないだろう。


 王家が『竜星組』の存在を非公式ながら認めたことになるからだ。


 国は裏社会の非合法組織を認めるわけにはいかないのがその立場である。


 だが、『竜星組』はこれまでも王都の治安や犯罪の抑止にかなり貢献してきており、警備隊や王国騎士団にも裏では欲しい情報を渡すなど協力することもあったのだ。


 そんな土壌があったからこその、今回であった。


「ただし、明日は我が身ともなりえるからね。そこは気を付けないとね」


 リューはそう言うとランスキーに念を押す。


「へい!」


 ランスキーはリューの言葉に真面目に答えて頷くのであった。

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