67話 深夜に声がしますが何か?
リューは深夜零時に11歳になった。
それと同時に脳裏に『世界の声』がした。
「『ゴクドー』の能力の発動条件<ピンゾロの目十一歳>を確認。[ダイス]を使用する事で能力をランダムで入手できます、ダイスを振りますか?」
え?質問されてる?
誕生日を迎えた深夜、寝ているところに『世界の声』がして、驚いて目が覚めたリューだったが、その『世界の声』に質問されている事に二重に驚いた。
……えっと、能力が得られるという事はダイスは振った方がお得だよね?
寝ていてもしっかり頭に響いて聞き逃す事が無い事に驚きつつ、リューは心の中で試しに『世界の声』に聞いてみたが、反応は無い。
……じゃあ、振ります!ダイス振ります!……どうだ?
「確認しました。それではダイスを同時に振って下さい」
『世界の声』がすると、目の前に小さい煙が出る演出と共に、手の平の上にサイコロが二個出てきた。
「これを、同時に振ればいいのね?……じゃあ、ほい!」
リューは床にサイコロを放り投げた。
サイコロは転がり、二つとも転がった先でサイコロ同士ぶつかって止まった。
「おお!六のゾロ目だ!これはいいんじゃない!?ボク、持ってる!」
リューは、前世の違法賭場でも思い出したのか、興奮気味にガッツポーズをした。
「六・六を確認しました。……『ゴクドー』の能力の発動条件<近道を行く強運の者>を確認。[次元回廊]を取得しました。」
『世界の声』が言い終わると、小さい煙と共にサイコロは消えてしまった。
……ところで次元回廊ってなんだろう?違法録画映画を転売してた先輩ヤクザから借りたSF映画で見た記憶が無い事も無いけど、ワープみたいなものかな?
深夜の能力取得に浮かれるリューだったが、試したいが今は止める事にした。
リーンが自分がいない所で試すと怒りそうだと思ったからだ。
きっと、「一人で面白そうな事をズルい!」と言いそうだ。
リューは興奮を抑え込み寝るのに必死になるのであった。
朝。
午前中は、母セシルの授業がある。
リューはずっとそわそわしながら、授業を受けていたが、すぐに母セシルは気づくと問いただした。
「ごめんなさい。深夜に寝てたら、新たな能力を覚えたから早く試してみたくて」
リューは素直に母セシルに謝ると打ち明けた。
「寝てる時に?何を覚えたのリュー」
母セシルは初めて聞く状況に興味を惹かれ、完全に授業を中断する事にした。
同席しているリーンもハンナも、興味津々だ。
リューはその時の状況を説明し、覚えたものが『次元回廊』と話すと、母セシルは大いに驚いた。
それはセシルが知っている限りでは、勇者スキルを持つ者が覚える能力のはずだからだ。
「え、勇者?」
母セシルの指摘にやはりチート級能力だという事を自覚したリューであった。
授業は中断され、一同は庭に移動していた。
「『次元回廊』は、移動したい場所に一瞬で移動できると言われているけど、もう、ずっと勇者スキルを持って生まれた人は誕生してない上に、最後の勇者スキル持ちの人物は『次元回廊』を覚える事なく亡くなったから最早、伝説級の幻の能力のはずよ」
セシルがみんなに聞かせる様に説明した。
ははは……、サイコロの出目で入手した僕って一体……。
「リューの説明の通りなら、本当に運が付いていたとしか言い様がないわね」
母セシルは息子の強運が嬉しそうだ。
「ねぇ、リュー!やって見せてよ!」
リーンがワクワクが止まらないとばかりに目を輝かせてリューにお願いする。
妹のハンナも右に同じとばかりにリーンに同意して何度も頷く。
「う、うん。わかった。やってみる!」
リューは、やり方がわからないが、とりあえず手を目の前にかざすと、
「……次元回廊!」
と、唱えてみた。
すると、目の前にマジック収納の時の様な同じ空間が生まれた。
そして、リューは恐る恐るその中に入ってみる。
周囲は三百六十度、映画で観た異次元空間を絵にした様な世界が広がっている。
だが、入ってきた入り口以外、出口が見当たらないので入ってきたところから出た。
「?リューが一瞬で消えたけど、同じところから現れただけよ?」
リーンが不思議そうに首をかしげる。
リーンのマネをしてハンナも同じ様に首をかしげてみせた。
「あ!そう言えば、出口をあらかじめ設定しないと駄目だった様な気がするわ」
母セシルが思い出したと言わんばかりにリューにアドバイスした。
「先に言ってよ、お母さん!」
一瞬、欠陥能力ではないかと頭をよぎったリューは安堵するのであった。