第665話 決戦の後日談ですが何か?
ワーナーの街における抗争は、『黒炎の羊』のボス、ドーパーの死と『屍』を率いたボスらしき男の死をもって終結した。
と言っても、『屍』のボスは塵一つ残っていないので、死を証明することはできないが……。
この二勢力の争いは、王都最大の勢力である『竜星組』が間に入ることで、手打ち式が行われる予定であったが、『屍』側の代表者が出席しなかったことから有耶無耶になる。
これは、わざと『屍』側が拒んだのではなく、組織が混乱していたからのようだ。
実際、『屍』の勢力は王都周辺以外の西部近く、南部近く、東部近くの広範囲に勢力を広げていたが、各地域で『屍』から独立する組織や、足を洗うグループがあったりと、まとまりを欠いているようだとランスキーから報告をリューは受けている。
つまり、リューがタイマンでの勝負をした敵は、バンスカーだったという可能性が高かったということだ。
他にはエラインダー公爵周辺も、にわかに慌ただしくなっていたし、『屍』自体も国内において、王都に勢力を持つ『竜星組』以上の大きさを持つ組織の可能性であることは、国の調べからもなんとなくわかっていたことだったので、各地方では『屍』の混乱の影響により、大小の争いが噴出していた。
王都においては、『黒炎の羊』はこの数十年絶対的なボスとして君臨していたドーパーの死後、どうなるのかというところであったが、意外に若い幹部の一人がボスを名乗り、ドーパーの後釜にすぐ座ることで大きな動揺は生まれていないようである。
「『黒炎の羊』は、瓦解すると思っていたのだけど、意外にまとまりがいいね」
リューは、ランドマークビルの自宅で、今回の謀略で『黒炎の羊』は潰れてもおかしくないと思っていたが、意外な結果に軽く驚いていた。
「へい。若く優秀な部下が育っていたようで、そいつが後釜に座ったら他の幹部も同意したようです」
ランスキーが部下から上がってきた情報をリューに伝えた。
「そう……。『黒炎の羊』は残ったかぁ。でも、エラインダー公爵との仲は引き裂けただろうから良しとしようか。──『屍』の方はどう?」
「もともと、形態がよくわからない組織でしたから、詳細は部下の報告待ちですが、どうやら分裂するのではないかと睨んでいます」
ランスキーはリューから聞いたバンスカーらしき人物の討伐により、ボスがいなくなった『屍』についてそう答えた。
「確かに、大小のグループの離反が起きているみたいだしね……。あとはエラインダー公爵が動くかどうかだろうけど……。今は様子を窺おう。うちは表だって動かない方がいいからね」
リューはそう言うと慎重な行動をランスキーに告げる。
現在、ワーナーの街で起きた大抗争は、王都から王国騎士団が派遣されて、大規模調査が行われているからだ。
なにしろワーナーの街長も負傷していたからである。
貴族へ手を出すことは、貴族社会としては由々しき事態であったので、その為王家も動いていたから、ここで『竜星組』の影を感じさせてはいけない。
あくまでも、大勢力同士の衝突の間に入って手打ちにしようと尽力しただけ、という姿勢が大事なのであった。
「へい、それは、徹底させています。ルチーナの部隊が面倒事は処理してくれていますし、問題ないかと。──それより、若、体は大丈夫ですか?」
ランスキーは、リューの心配を払拭すると、体を心配した。
というのも、リューは学校を休んで自宅で静養していたからである。
傍にはリーンがいたから大きな問題にならないのであろうが、リューは自宅の寝室で横になっていた。
「心配かけてごめんね。敵の特殊能力付与の短剣で負傷したから、傷の治りが遅くて。でも安心して、寝込んだ主な理由は、僕が使った魔法の反動が大きかったことだから」
そう、リューが大事にしている学校を休んだのは負傷ではなく、魔法の反動によって全身に激痛が走る状況になっていたからである。
筋肉痛とは違う痛みであった為、当初は敵の短剣のせいだろうと思ったのであったが、リーンの診察で原因がそこではないようだとわかったのだ。
そこで、他の理由を考えた時、どうやら、リューの奥の手である『地の大精霊の具現化』魔法の反動のようだと結論に至ったのであった。
「魔法耐性処理がなされている城壁に大きな穴を開ける程の魔法です。反動があってもおかしくないですな……。数日は姐さんの言う事を聞いて大人しくしていてください。あとのことは、幹部会の話し合いで処理しておきますから」
ランスキーはリューに心配させないようにそう答えると、ランドマークビルをあとにするのであった。
「ふぅー。強力な魔法は使用制限があるものらしいけど、使った後に反動が来るものだったとはなぁ……。イエラ・フォレスさんに使用したらどうなるか聞いておけばよかった……」
リューは苦笑して、傍にいるリーンにそうぼやいた。
「魔法の反動については仕方ないわよ。それに相手はリューを苦戦させる程の強力な敵で、『イッサイカイクウ』とかいう謎のスキル持ち。それがバンスカー当人だったのかはもうわからないのは残念だけど、『屍』の現在の挙動を見る限り、多分、リューが仕留めた相手でほぼ間違いないだろうから、このことは良しとしましょう」
リーンはリューが無事であれば問題ない様子であった。
と言っても、バンスカーらしき相手に負わされた脇腹の怪我はまだ、完全には治っていない。それに全身の痛みも今はずいぶん痛みが引いているが、魔法を使用した翌日は起き上がれない程の痛みにあのリューが悲鳴を上げたくらいだったから、リーンはかなり心配していたのである。
「そうだね。今はバンスカー討伐が成ったことを喜んでおくとしよう」
リューもリーンの前向きな言葉に、納得する。
「これで当面の脅威は去っただろうから、リューもゆっくり休んで」
リーンはそう言うとリューに横になるように手を貸し、リューはお言葉に甘えてふかふかのベッドで珍しい休養を取るのであった。
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