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66話 妹に癒されますが何か?

 妹のハンナが最近リューとリーンの行く先々に付いて来るようになった。

 まだ八歳だが、武芸の稽古で体力がついてきたので、足手まといになる事はなく、魔境の森以外は二人のやる事を付いて来ては興味津々で観察していた。


 リューとしては、ハンナに変な事を覚えられない様に気を遣っていたが、リーンはハンナに積極的に何でも教えた。


 最初は変な癖がついても嫌なので止めようとしたが、ハンナは何でも呑み込みが早く、変な覚え方をせずに自分の物にして、さらには時間を必要としなかった。


『賢者』スキルには武芸の剣、杖、体術などもあったが、その中に弓は無いはずだった、しかし、リーンが教えるとハンナ独特の形で覚えていくのにはリューも驚いた。


 覚える過程が違うがリーンが指し示すゴールにちゃんと到達するのだ。

 文字通りの天才っぷりにリーンも教えるのが楽しい様で、自分の得意分野を次々に教えていた。


 これはハンナが持つもう一つのスキル『天衣無縫』の力なのかもしれない。

 だが、リューの『ゴクドー』同様、謎のスキルらしくスキルに詳しいサイテン先生も知らない様だった。


 まさかハンナも転生者じゃないよね?と心配になるリューだったが、ハンナは頭は良いが、発想には前世の世界に関わりそうなものはなかったので、その可能性はなさそうだった。


 兄としてリューはその事に安心した。

 転生者は必ずしも幸せとは限らないと思ったからだ。

 前世で家族がある場合もあるだろう。

 自分は捨て子だからいなかったし、前世は裏稼業だったから未練もなかったので、この家族に恵まれて幸いとさえ思っているが、実際に転生したとして素直に喜べる人はそう多くないだろうと想像したのだ。

 明らかに前世は恵まれた世界だ。

 それを失ってこちらの世界に来たら困る事の方が遥かに多い。

 自分はそれに馴染めたが、文明が一気に落ちるこの世界に慣れるのは便利さを知ってる者には難しいだろうと思うリューであった。



 リューはハンナに薬草採取と調合、ポーション作りを教えた。

 道具も一式用意してハンナにプレゼントした。

 ポーション作りは覚えて損はない。

 まして『賢者』のスキル持ちなら魔力回復ポーションは必須だろうと思った。


 ハンナはやはり頭が良いので呑み込みが早く、リューは味が不味い魔力回復ポーションしか作れないのに、ハンナは後味スッキリなものを完成させてしまった。


「ハンナ凄いな!」


 リューは素直に驚くと、ハンナにその作り方を教えて貰うのであった。



「……で、この薬草を抜いて、こっちの薬草を代用すると味が良くなって効果も変わらないよ」


 教えて貰いながら、リューはハンナの凄さに改めて感じ入った。

 ハンナはゴールを教えて上げると、その過程を最良なものにする為に知識をフル活用して導き出す才能があるのだろう。

 ただし、学んでいない事は出来ない様で、リューのこれまでのコーヒー作りや、手押し車、リヤカー、馬車、けん玉、チョコ作りなどこちらには無い知識と発想にはついていけないらしく、


「リューお兄ちゃんは凄いのよ!」


 と、その事でハンナは街の同世代のお友達に自慢してるらしい。


「確かにリューは、発想が私達には無いものがあるからね」


 ハンナが言う事に誇らしげに頷くリーンがリューにはおかしかったが、それは言わず褒めてくれた事に素直にありがとうと感謝するのだった。


 街ではリューとリーンそしてハンナの三人が各所に現れるのが新しい光景になりつつあった。

 街の労働者達は昼時に、街の食堂で三人が揃ってうどんを啜ってる姿に遭遇したし、学校で校長先生でもあるシキョウと四人で話し込んでるのを子供達が目撃していた。


 コヒン畑では農民達が新たな開拓予定地についてリュー達とみんなで協議していた姿が村の者達に見られていた。


 ある時は、製麺所でうどん麺の売れ行きを心配する3人に近所の主婦達が出会っていた。


 工房では馬車の製造工程をハンナが食い入る様に見ているのを休憩中の職人達が和んで見ていた。


 あらゆるところでこの三人は目撃されるようになり、領民達の当り前の光景になっていくのであった。




「ハンナ、今日はこの後、魔境の森に僕達は行くから、お家に一旦帰るよ」


「……わかった!」


 ハンナは素直に頷くとリューとリーンの手を繋ぎ、スキップして家路に就くのだが、この光景が領民達からは一番尊いと言われていたのだった。

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