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第637話 決勝の行方ですが何か?

 魔術大会決勝戦は、ほとんどの者が予想したであろう対戦となった。


 リューVSリーンの勝負である。


 前回の剣術大会で批判を浴びたことから、チューリッツ学園長はこの大会の模範演技者という特別扱いされていたリューとリーンを大会に出場させること、さらには全員のシード権を無くしてくじ引きで対戦表を決定したのだが、それが結局裏目に出てリューとリーンの圧倒的な強さを見せての決勝戦となっていた。


 もちろん、二人に対し善戦した生徒もいるにはいたのだが、イバル戦でやはり次元が違うのもはっきりした形になり、特別扱いしなければいけない程リューとリーンの実力はずば抜けていると、参加者どころか観戦者全員が確認する大会になってしまったのである。


「……つまり、前学園長の評価は大袈裟なものではなく、正当に評価されたものであった、ということか……」


 チューリッツ学園長は、自分の中の公平公正の価値観が崩壊する音を聞きながら、そうつぶやく。


 教頭であるコブトールも、眼下で繰り広げられるリューとリーンの、生徒同士とは思えない次元の違う試合を前にしては、いつもの通り学園長が喜ぶようなことを言えないのであった。


 確かに、前学園長の報告書は、リューとリーンの評価は学園の歴史においてありえない文言ばかりが並び、二人を特別視しているとしか思えないものであった。


 だから、実際にそれを目にしなければ到底信用できるものではないというのも仕方がないことであったかもしれない。


 チューリッツ学園長にとっては、特別扱いを受けていいのは王家くらいのものであり、その王家でさえも学園においては平等に扱うというのが学園の規則で、忠実にそれを元として運営していたつもりでいたのである。


 しかし、学園長のリューとリーンを公平公正の名のもとに扱うということは、その才能を頭から押さえつけることでしかなかった。


 もちろん、チューリッツ学園長の偏ったやり方はそもそも間違いなのだが、彼にとっては特別扱いで増長したものに対する制裁と正常な状態に戻す為なら多少の無理は仕方ないという判断の下に無茶な決定が行われていたようである。


 だが、それも二人の桁違いの能力を示す試合内容を観ることで、自分の間違いを目の当たりにすることになった。


 剣術大会では、派手さがない分、チューリッツ学園長も二人が特別視される程の才能を判断できなかったのが、魔法という派手でわかりやすく貴族の中でも理解が進んでいる力については学園長もある程度は判断ができる。


 それだけに今、繰り広げられている試合は後頭部を思いっきり殴られたような衝撃を受けていたのであった。



 リューとリーンの試合は、強力な結界に守られているとはいえ、舞台会場も無傷とは言えず、二人の足元以外はほとんど破壊尽くされていた。


 幸い他の舞台までは結界の力もあって巻き込まれる危険性は無さそうであったが、さすがにこの二人の試合のせいで他の一年生、三年生の決勝戦はかすんでしまったことは言うまでもない。


「リーン、そろそろ決着を付けないと、みんな飽き始めているみたいだよ。声援がなくなっているもの」


 リューは先程までの声援がなくなっていることに、気づくとリーンに告げる。


「え? そうなの?」


 リーンはリューとの対戦に集中していたのか指摘されて初めて気づいた様子であった。


 聞き耳を立てると、確かにみんな静かになっている。


 ほとんどの観戦者が黙ってこちらを見ているのが感じられた。


 だが、それも二人の限度を超えた魔法対決に驚き息を呑んで見入っていただけであり、飽きたということではなかったのだが。


「だから、そろそろ本気を出して決着をつけよう。──いい?」


 リューはリーンに勝負をつける提案をする。


 どうやら二人は盛り上げることを前提に流れで試合を行っており、本気は出していなかったようだ。


 ただし、それはお互い下位魔法から上位魔法まで駆使した駆け引きもある白熱した戦いであったから、観戦者達には到底本気を出していないとは思えないものであったのだが……。



「今、なんかヤバい会話してなかったか……?」


 ランスが控室から試合を観ていたが、リューとリーンの会話に聞き耳を立ててそう告げる。


「俺にもそろそろ本気を出すとか言ってるのが聞こえた気がする……。幻聴じゃなかったのか……」


 耳がいいイバルもランスの言葉に聞き間違いじゃなかったことがわかり、愕然とした。


「……あれで本気じゃなかったの? 二人とも次元が違い過ぎるよ……」


 準決勝でリーンと対戦したシズもこれには呆れるしかない。


 自分の時とは明らかに違う規模で二人が戦っていたのに、それも本気ではないらしいとか驚く以外のリアクションを取れるわけがないのだ。


「二人が本気を出すとどうなるのかしら?」


 リズ王女がみんなの驚きを他所に興味津々とばかりに二人の動向に注目した。


 そのタイミングで二人が詠唱を始め、その下に魔力が集束されていくのがわかる。


「怖いくらい魔力が二人の元に集まっているぞ!? これはヤバくないか!?」


 ナジンが目を見開いて、二人を凝視して周囲に注意を喚起する。


 ナジンの言葉に反応するように、周囲を覆う結界にも変化があった。


「あっ……。結界がさらに強度を増しました……」


 ラーシュが変化に気づいてそう指摘する。


 その瞬間、リューとリーンから土魔法と風魔法が同時に発動されそれがうなりを上げて衝突した。


 あまりの威力に衝撃音と爆風が周囲に巻き起こり、結界がなかったら巻き込まれていたであろう威力であることは容易に想像がつくほどだ。


 観戦者達も結界内で行われているこの絶大な威力の魔法同士の衝突に、茫然とする。


 そして、全員の視界を奪う程の衝撃が生んだ光が会場を覆う。


 観戦者達は視界が眩み、勝敗がついたのかどうか目をこすって確認する。


 するとそこには二人が何事も無かったかのように、立っているのであったが、その腕に付けてある魔導具が赤く光り続けているのがわかった。


 つまり、それは両者が魔法によるダメージを受けて減点ポイントが限界を超えてしまったことを示す。


 それを確認した審判は手を挙げ、


「両者魔導具の減点ポイントによる限界を確認。──この勝負、両者引き分け!」


 と宣言する。


 その瞬間、観戦者達から地響きのような歓声が巻き起こった。


 それは二人の試合を心の底から称賛するものであり、いかに彼らの心を揺さぶるものであったかを証明するものである。


「ちょっと! 先に魔導具が反応したのは私なんだから、勝者はリューでしょ!」


 と大音量の歓声の中、リーンが大きな声でその判定を批判した。


 しかし、その声は大きな歓声によってかき消される。


 そこに、リューが駆け寄ると、


「この状況では微妙な差は審判にはわからないよ! もう、同時優勝でいいんじゃない!?」


 と大きな声でリーンに聞こえるように告げた。


「……もう、リューがそれでいいならいいわよ……」


 リーンはリューの決定に異議を唱えることなく承諾するのであった。

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