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第636話 本気っぽいですが何か?

 盛り上がったリーンVSシズの準決勝戦から引き続き、リューとイバルの対戦が行われた。


 イバルはシズの頑張りを見て自分も諦めずに戦おうと決意すると、リューが得意な土魔法に対抗すべく試合開始と共に弱点である風の下位魔法で立て続けに攻撃を仕掛ける。


 もちろん無詠唱だから、発動まであっという間であり、リューに反撃の隙を与えない戦法だ。


 だが、リューはそれも想定内だった。


 何より同じ無詠唱、短い時間で土の中位魔法を発動してイバルの攻撃全てを防いでしまい、イバルの下位魔法による弱点を突く戦法も梨の飛礫にしてしまったのだ。


 イバルはならばと、さらにその上である風の中位魔法を無詠唱で発動する。


 リューは当然ながら、さらにその上をいくべく、今度は土の上位防御魔法を無詠唱で発動し軽々と防いで見せた。


 この非常識とも思える無詠唱魔法のオンパレードに観戦者達も、


「上位魔法まで無詠唱ってどこの賢者様だよ!?」


「なんかこっちの感覚がおかしいのかと思ってしまうぞ!?」


「レベルが違い過ぎて引くんだが……!」


 と驚きを口にする。


「一番辛いのは、それを相手にしている俺だ……」


 イバルは学園でも魔法全適性に優れている天才である。


 だが、そのイバルをもってしても、リューには通じないのだ。


「イバル君、ドンドン来ないと僕が反撃するよ?」


 リューは同級生であり友人であり、部下でもあるイバルの成長を見るべく、軽く挑発する。


「ああ、もう! こうなったら破れかぶれだ!」


 イバルはそう言うと隙も露わに魔法を詠唱し始める。


「そんなに隙のある詠唱、僕が待つと思うの?」


 リューは容赦なくそう告げると、土の下位魔法『石礫』を大量発動するとそんなイバルを攻撃した。


 詠唱中で隙だらけのイバルは、それに気づいても躱す素振りも見せない。


 しかし、直撃する直前、光の障壁がその『石礫』を弾き返した。


 どうやら、詠唱しながら光の防御魔法を無詠唱で発動したようだ。


「これは、僕の読みが甘かった……!」


 リューは自分の攻撃が防御が容易い下位魔法であり、それが全て弾き返されたので、反省を口にする。


 そこにイバルの詠唱が終わり、魔法を発動した。


「『火竜双撃』!」


 それは、得意である火の上位魔法であった。


 それも二つを同時に発動し合わせることで、さらに強力な魔法へと昇華させたのである。


 文字通り、火の竜が絡みつくように回転しながらリューを襲う。


「これはヤバい!」


 リューもその威力が想像できたのか、無詠唱で土の上位防御魔法を即座に発動し、さらにそれと同時に雷の上位魔法をその土魔法に混合させるというとっさの判断をする。


 雷を帯びた岩の障壁は火の竜を迎え撃つように、防ぎながら雷で火の竜を攻撃するという斬新な防御を見せ、お互いの魔法は相殺させれた。


「くっ……! あれでも届かないのかよ!」


 イバルは悔しさよりも、呆れるに近い言葉を吐く。


「次の手も用意しておかないと駄目だよ、イバル君?」


 リューは相殺された直後、すでに次の魔法を発動準備していた。


「ちょっと待て! そんな魔法使って、この結界壊れないだろうな!?」


 イバルはリューが用意していた魔法を見ると顔を引き攣らせて思わず心配する。


 そう、リューが発動準備していた魔法は、上位魔法のさらに上と思えるものであったのだ。


 リューの頭上には雄々しい姿の土の大精霊(タイタン)が具現化され、岩製の三叉槍を手にイバルに投げる準備をしているのだが、その土の刃の三つの刃先には、火、風、水を宿している。


「多分、大丈夫だと思う!」


 そう応じリュー自身が投げる素振りを見せると、頭上の土の精霊もその三叉槍を振りかぶる。


「ま、参った! 降参だ! 審判、止めてください!」


 イバルはそれを防げる魔法を使える自信がなかったし、リュー以上には結界を信用できていなかったので、慌てて負けを認めた。


「そ、そこまで! ミナトミュラー選手の勝利!」


 審判もリューの魔法がとんでもないものかもしれないと感じたのか、慌ててイバルの負けを認め、リューの勝利を宣言する。


 リューは残念そうにすると頭上に具現化された土の大精霊は消失した。


「ほっ……。──いつの間にそんなヤバそうな魔法を覚えたんだよ……」


 イバルは消失するのを確認して安堵すると、勝者のリューに問うた。


「前の試合で実は土魔法の属性限界突破を知らせる『世界の声』が聞こえたんだよね。あとは感覚でとっさに試してみたんだけど、うまく出せたよ」


 リューは笑顔で答える。


「おいおい……。そんなもの、本番でいきなり使おうとするなよ! 結界や魔導具が持たなかったら俺が死ぬだろ!」


 普段冷静なイバルもこれにはお怒り気味だ。


「なんでだろう、大丈夫だと思ったんだよね。それに、この結界を張った当人がこの試合も観ていると思ったら、『多分いけるな!』ってね?」


 リューは全て本能的な感覚によるものだったが、大丈夫だと思ったようである。


 イバルは当然納得できるわけがなく、控室に戻ってもリューに愚痴を漏らすのであった。



「驚いたのう……。どうやって限界の壁を越えてきたのじゃ? ──ふむ、あのスキルのせいか。道を極めるスキル・ゴクドー、か……。にしても、あの歳であの領域に達するとは並外れた努力をしてきたようじゃ。実に面白い」


 観客席の隅で見ていた人物は、リューの様子を見て一人そうつぶやく。


「だが、あれはまだ、不完全。我も暇ではないが、少し見守ることにするのじゃ」


 そう続けると、その影は気配を消し、誰もその存在を確認できなくなるのであった。

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