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第635話 ルールの穴ですが何か?

 魔術大会準決勝。


 二試合とも注目の好カードである。


 リーンは留学生の優等生サイムス・サイエンや前回準優勝者であるリズ王女も破っている実力者だ。


 それに対するシズは前回大会格上と思われたリズ王女を見事な作戦で出し抜き、優勝して見せた。


 観戦者達はその二人の戦いがどのようなものになるのか見当がつかないところである。


 そして、もう一つの試合が、リューVSイバルの試合だ。


 リューはノーマン戦、ナジン戦と好試合を展開したうえで、勝利してきている。


 だが、ナジン戦ではポイントを減点する場面があるなど、付け入る隙はありそうだ。


 対するイバルもラーシュやアリス・サイジョーとの対戦では正面から対峙し見事に実力差で勝ちあがる強さを見せており、この試合の結果も観戦者の予想は分かれるところだろう。


 というのが表向きでの予想である。


 表向きというのも裏で賭けをしている者達にとっては、試合を盛り上げる必要があるからだ。


 圧倒的な差で勝敗が付きそうだと、賭けにならないからである。


 リーンは正直なところ、加減しない試合運びで有力選手に勝利してきており、賭けでも一番人気であったから、シズとの対戦もリーンに分があることは、誰しもが予想していた。


 実際、当の本人であるシズも同じ考えであったので、試合前に幼馴染のナジンにリーン対策を相談していたのだが、二人とも良い案が浮かばずにいる。


「ナジン君、どうしよう?」


「うーん……。例のやつ、試してみたらどうだ?」


 ナジンがシズに何やらそう指摘する。


「……あれを? ……リーンが怒るかもしれないから怖いけどやってみる……」


 シズはどうやら、強敵用に何やら策を用意していたようだが、使わずにいたようだ。


「じゃあ、頑張れよ」


「……うん!」


 シズはナジンの応援を背に準決勝の舞台に上がるのであった。



 リーンとシズの戦いは意外な展開を見せた。


 試合開始当初、シズが試合の基本手段である下位魔法での駆け引きを捨て、いきなり上位水魔法を詠唱し始めたからだ。


 これはその間に攻撃してください、と言っているのようなもので、それも運動が苦手なシズは詠唱しながら相手の攻撃を躱せるという感じでもない。


 それだけに、リーンはこの間に、下位魔法で隙だらけのシズを攻撃すれば一瞬で勝利できる状態である。


 だが、リーンはこのシズに対して、下位魔法を使用せず、同じように上位魔法を詠唱し始めた。


 どうやら、シズに付き合うことにしたらしい。


 実はこれがシズの狙いだった。


 普通に戦っても負けは見えている。


 ならば露骨に隙を見せて力勝負を求めているかのように上位魔法を詠唱し始めたらリーンも付き合ってくれるのではないかと考えたのだ。


 つまりシズはリーンのその優しさに勝機を見出そうとしていたのである。


 シズは詠唱を終えると魔法を発動した。


 その上位水魔法は無数の水の光線がリーンを襲うものであった。


 威力は確かにありそうであったが、相当命中率が悪いのか、リーンに当たることなく地面を抉って破壊するなどシズはうまく操れていないようにも見える。


 リーンは自分を襲う一部の水光線を余裕をもって躱し、自分が詠唱していた魔法を止めた。


「シズ、どういうつもり?」


 どうやら、シズが精度の悪い魔法をこの舞台で使用したことに疑問を感じたようだ。


「……ここからだよ!」


 シズはそう言うと、今度は風の中位魔法を無詠唱で発動させる。


 それはリーンの周囲に突風を巻き起こす。


 ただし、リーンへの直接的なダメージはなく、リーンもその意図がまたわからず、


「?」


 とさらに疑問符を頭に浮かべた。


 だが、それも一瞬のことである。


 シズの目的がようやくわかったからだ。


 シズは最初に地面をわざと破壊して小石を無数に作り出し、次の魔法でその小石を巻き上げリーンへの物理攻撃に使用したのである。


 魔術大会である以上、物理攻撃は禁止だ。


 だから、直接攻撃は一度目で警告があり、二度目で失格になる。


 だが、魔法攻撃の際に生まれた小石の類はあくまで偶然であり、これはグレーゾーンになる。


 シズは前回大会に続き、またもルールの隙間を狙った方法でリーンを攻撃したのであった。


 もちろん、魔法による攻撃ではないから、ポイントはとれないのだが、それは目的ではない。


 小石による直接攻撃をすることで、魔法への集中を邪魔しているのだ。


 シズはその間に下級の水魔法でリーンを攻撃する。


 これが本命と言っていい。


「シズって本当にこういう戦い方考えるの上手いわね」


 リーンは無数の小石で小さな傷を全身に負いながら、感心する。


「でも、私相手にこれは通じないわよ」


 リーンはシズの小石による物理攻撃と本命の下位水魔法攻撃に動じることなくそう告げると、集中力を乱すことなく風の中位魔法を連続で発動させてみせた。


 一つはリーンの周囲に落ちた小石を巻き上げる風魔法に対して同級の魔法をぶつけ、霧散させるもの。


 次にシズが連発で発動する下級水魔法に対応するものである。


 それらは見事にリーンの狙い通り、シズの魔法を霧散させ、それどころか三発目の風魔法がシズに襲い掛かる。


 これにはシズも反応できず、直撃を受けると魔導具がすぐに赤く点滅し減点ポイントが溜まったことを示した。


「勝負あり! 勝者リーン選手!」


 審判が勝敗を宣言する。


「うぉー!」


「一時はどうなるかと思った!」


「ルールのグレーゾーンを突いた良い攻撃だったな」


 とリーン相手に奮戦したシズを称賛する声に包まれた。


 歓声の中、シズはリーンに駆け寄る。


「……ごめんなさい。すぐに怪我を治療するから」


 シズは慌てた様子で無数の小石で全身を負傷しているリーンを治療する。


「ふふふっ。シズの攻撃はとても参考になったわ。とても実戦向きで感心した」


 リーンは怒るどころかシズの戦い方を称賛すると自分で治癒魔法を使って負傷個所を治療して見せた。


「……リーンの優しさに付け込む戦い方だったのに?」


 シズは申し訳なさそうに聞き返す。


「ルールの範囲内で勝つ為にやれることをやっただけじゃない」


 リーンはこの小さい友人の勝つ為に全力を尽くす姿勢を再度褒めるのであった。



「さすが前回優勝者のシズ。リーンを自分の土俵に引き込んでルールの穴を突いた攻撃だったね」


 リューが控室にいたシズの幼馴染であるナジンに声をかける。


「ほっ……。俺が勧めただけに二人の仲にひびが入らなくて良かったよ……」


 相手の優しさに頼り、間接的な物理攻撃による負傷で魔法詠唱の集中力を奪うという半ば卑怯な作戦だったので、ナジンは二人が試合後揉めるのではないかと心配していたようだ。


「リーンとシズの友情には何の影響もないさ。逆にリーンにとって目からウロコの戦法だったんじゃないかな。ほら、二人とも笑顔だし。見事な試合だったよ」


 リューは試合後の二人の明るい表情を指差して、二人の健闘を改めて称賛するのであった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


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書き下ろしSSなどもありますので、お楽しみに!


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そちらの方もよろしくお願いします!


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これからも、書籍共々、よろしくお願い致します。<(*_ _)>

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