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63話 収穫時期ですが何か?

 今年もランドマーク領の最大の行事、コヒン豆の収穫がやってきた。

 今までは生産量も少ないので同じ商人と契約を交わしていたのだが、生産量も増加したので複数の商人と契約してくれるよう商業ギルドから提案があった。


 これまでの取引商人は贔屓にしたが、一部を競売で出して他の商人も入れる事で独占を無くす事にした。


 価格は意外にもほとんど下がらなかった。


 いくら生産量が増えたと言っても需要に比べるとまだまだなのだ。


 その為、毎年収穫後、畑の開拓が行われ年々増産されているのだが、価格は下がらず収入はどんどん増えていた。

 もちろん、コヒン豆はランドマーク領で加工され『コーヒー』として商人に卸してるので付加価値も付いてるのだからある程度は当然なのだがやはり利益率は高い。

 ランドマーク家の紋章が入った黒い粉である『コーヒー』は完全にブランド化したのだった。


 国内の紅茶の生産で有名な名家アールグレン侯爵家と並んでランドマーク男爵家の『コーヒー』は評価され始めている。

 これは異例で恐れ多い事だが、『コーヒー』の卸し商人は、王室御用達の商人からランドマーク印の『コーヒー』を多く回して貰えるよう色々と打診があるそうだ。


 本当なら直接、ランドマーク家まで足を運んで、交渉したいのだろうが、王都まで3週間の距離があるので、卸し商人頼みになるのも仕方が無い。


 さらには、この新興貴族である”男爵風情”の躍進に、近隣の上位貴族からは、その生産や販売について圧力をかけてこようとする者もいたのだが、ランドマーク男爵家は寄り親であったスゴエラ侯爵の派閥にそのまま入ってるので守って貰えていたので安心だった。


「王家からの評判も良いし、ランドマーク家はまだなんとか安泰だな」


 ファーザはホッと胸をなでおろした。


 というのも貴族社会では、足の引っ張り合いも珍しくないのだ。

 他所の貴族からはうちの派閥に来ないかと誘いがある一方、わざわざ、「男爵風情が調子に乗るなよ!」という内容の手紙を書いて寄越す貴族も実際いたのだ。


 当主である父ファーザにしてみたら、調子に乗った覚えが全くない為、どこか違う男爵と勘違いしてるに違いないと思って返信を送って火に油を注いだ事があった事は誰も知らない。


 逆に言うと、国内において、ランドマーク男爵の名が知れ渡り始めているという事だった。

 ファーザとしては同じ有名になるなら、武門の家として有名になりたいという思いが、少しはあったが贅沢は言えない。

 今は『コーヒー』でランドマーク家の名と家紋が知れ渡る事に満足するのだった。



「収益増加で今年も右肩上がりだな」


 ファーザが執務室でみんなを集めて会議を開いていた。

 そこにはリューとリーンも混ざっている。


「では今年も収益の大部分は開発への予算に回しますか?」


 執事のセバスチャンが聞く。


「もちろんそうだが、リューとリーンの学費や、もしもの為にある程度貯金しておかないとな」


 ランドマーク領の開発は急速におこなわれ、この数年で目覚ましいものとなっていた。


 数年ぶりに訪れた商人や旅人はあまりの変貌ぶりに、訪れる場所を間違えたと思う程だった。

 確かに、広く城壁が築かれ、道は街道に劣らない石畳で整備され、領都は区画整理されて別の街の様だった。


 だが、訪れる者達は、領主の屋敷を見て思うのだ。


「あ、ランドマーク騎士爵領時代から変わらないところがあった」


 と。


 そう、未だに屋敷は騎士爵時代からのままで、領民もいい加減、建て直してもいいのでは?と、思っていた。


 何しろ屋敷を広く囲む壁は立派で、初めて訪れる者はランドマーク男爵家の近年の勢いを外観から感じていたが、屋敷に近づくと目を疑う程小さく古い作りの屋敷なのだ。


 そこで、セバスチャンとスーゴから提案がなされた。


「屋敷を新たに建て直しましょう」


 と。


 リューもそれを聞いて、失念していたとばかりに驚くと、


「そうだよ、お父さん。迎賓館の方が立派で、屋敷がみすぼらしいと流石に領民が恥ずかしい思いをするよ。豪勢な家はいらないけどそれなりの屋敷は必要だと思う」


 と、リューもこの意見に賛同した。

 リーンも同じくだった。


「一時、迎賓館にみんなで移って、その間に屋敷を建て直そうよ」


 と、リューが案を出すと、ファーザも頷く。


「では父さんや母さん、セシルにも相談しないとな。それに屋敷の設計図は誰に頼んだものか……」



 祖父カミーザ、祖母ケイ、妻セシルはすぐ賛成したので、呆気なく家が建て替えられる事が決定するのであった。

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