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第593話 長男の結婚式ですが何か?

 リューの兄であり、ランドマーク伯爵家の嫡男、タウロの結婚式当日。


 城館の外には領民が祝いの列を作り、それに対応する為に表にも会場が設置されていた。


 領兵隊も出て、問題が起きないように警備しつつ、食事や祝いのお酒も提供していたから、お祭り騒ぎである。


 実際、リューのところから部下を派遣して屋台を出していたので、文字通りお祭りになっていた。


 そして、本会場となる城館内の内庭にも屋台が出されて、招待客のうち貴族階級の者は珍しい庶民向けの食べ物に興味津々であったが、まだ、式が始まる前なので我慢しているようである。


「この香しい匂い……、挙式の間は我慢しないといけないか……」


「当然だろう。──披露宴になったら、自由だからその時が勝負だな」


「お前ら、同級生の結婚式で何を考えているんだよ」


 タウロと新婦であるエリス嬢の同級生だった貴族の子息達はそんな事を脇でこそこそと言い合っている。


「男子の食い意地は学生の時から変わらないわね」


「エリスが羨ましい。あのタウロ様を射止めて」


「本当にそうね。男子はまだ、学生の時のままでお子様ばかりだし、タウロ様は伯爵の子息。羨ましい!」


 貴族の令嬢達はまだ、婚約もしていない令嬢も少なくなかったので、タウロという高嶺の物件を逃した事を残念がるのであった。


 そんな中、挙式が始まる。


 神父による開式の辞の後、新郎であるタウロが先に入場した。


 参列者は新郎のタウロの親族や関係者が右側に、新婦であるエリス嬢の親族、関係者が左側に座っている。


 リューは当然、右側の二列目、兄弟の席に座っていた。


 その間を長男タウロは全身白というこの世界では見られない貴族服で神父の前に立つ。


 これには会場もざわついた。


 通常では赤や黒、金や銀といった派手な服装が好まれるからだ。


 白というのはそういう意味では一見すると地味なものであったかもしれない。


 そして、新婦エリス嬢が、父であるベイブリッジ伯爵に伴われ、入場する。


 そのエリス嬢の姿も白のドレス姿で、唇に塗られた赤い口紅が際立つ。


 ドレスの裾はタウロの妹ハンナに持ってもらい、バージンロードを進む。


 エリス嬢はお化粧で華やかになっている事も手伝い、周囲からは感動のため息が漏れる。


「エリス嬢ってこんなに綺麗だったのか……」


「タウロ、幸せな奴だな」


「エリス、綺麗よ!」


「白いドレスって、良いかも……!」


 そんな声が上がる中、新郎新婦の二人は神父の前に立ち、式が進行する。


 参列者による讃美歌が歌われ、神父によって結婚式にふさわしい言葉が二人に送られ、二人は笑顔でその言葉を拝聴した。


 そして、


「新郎タウロ、あなたは病める時も健やかなる時も──」


 と誓いの言葉が神父の口から告げられる。


「誓います……!」


 新郎タウロは笑顔で誓いを述べた。


 そして、新婦エリス嬢も、


「誓います」


 とタウロ同様迷う事無く答えた。


 そして、二人は笑顔で視線を交わす。


「──おほん! それでは誓いのキスを」


 神父は新郎に目配せしてそう告げる。


 タウロは新婦エリスのベールを上げると、二人は緊張した様子もなく、唇を交わした。


「ここに婚姻は成立しました。二人に祝福の拍手を!」


 神父は神と参列者にそう宣言する。


 その瞬間、会場は拍手の渦に包まれ、祝福の言葉が送られる。


 親族であるランドマーク家の人々とリューも感動に涙を流し、拍手を送るのであった。


「リュー、まだ、披露宴があるんだから、涙を拭きなさい」


 リーンが喜びの涙を流しているリューにハンカチを出して涙を拭かせる。


「ありがと……」


 リューは長男タウロの晴れ姿がよほどうれしい様子であったが、確かにまだ披露宴があり、まだ、自分の仕事は終わっていないから、気持ちを引き締め直す。


 新郎タウロと新婦エリス夫人は祝福される中、一旦、会場から退場するのであった。



「これまでの挙式と大分違ったけど、こっちの方が、内容は簡潔でいいよな」


「俺も思った。それに新郎新婦の服装もシンプルで二人が映えてたな」


「確かに……。俺は家族の結婚式何度が出ているけど、服装派手過ぎて新婦のイメージって、顔よりドレスしか覚えてないからこっちがいいよ」


 となかなか好評であった。


 これはリューが提案したものである。


 白のドレスは「あなた色に染めてください」の意味があると提案すると、エリス嬢(今は夫人だが)がそれをとても気に入ってくれたのだ。


 そして、新婦のドレスに合わせるのが普通だったから、タウロも当然白の貴族服で承諾した。


 それに二人は派手な服やドレスもあまり好まないところがあったので、満足してくれたようである。


 挙式もこの世界では普通だととても長いので、三十分くらいに縮め、今日の形にしたのだが、これも、両家共に効率がいい、と納得してくれた。


 その分、披露宴にお金と時間をかけるという事にも賛同してくれた。


 さすがにタウロとエリス夫人はお金をかけ過ぎるのは……、と渋ったが、ランドマーク、ベイブリッジ伯爵両家の婚姻だから、かけるところはかけた方が示しになると丸め込む事に成功する。


 こうして、お色直しの為に控室に引っ込んだ新郎タウロと新婦エリスのいない間に、リューは披露宴会場になる内庭に用意していた氷の彫刻をマジック収納から出して周囲に配置していく。


 これには列席者も「「「おお!」」」と驚きの声が上がる。


 新郎新婦の席の背後には二人を象った大きな彫像がドンと置かれ、その周囲には両家の紋章を象ったものなども、とても精巧で実に見事な出来であったから当然の反応だろう。


 そして、この季節このランドマーク本領は暑いのだが、披露宴会場の周囲に氷の彫像が置かれた事で、冷気が会場を涼しくしてくれるから、列席者は非常に喜んでくれた。


 そして、そこに、お色直しをした何も知らない新郎新婦が入場する事になるのであった。

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