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第591話 バーベキューですが何か?

 サバイバル合宿は、メイン行事であった『死の行進デス・マーチ』が無事? 最後まで行われた。


 参加した班は全部で三十組。


 途中棄権、もしくは失格になった班は八組。


 つまり二十二組の班は、到着時間に差こそあれ、目的地である滝のある広場に一人も欠ける事なく到着した事になる。


 残りの八班は、負傷者が出て続行不可能になった者がいた事で失格になったのだが、だからと言って引き返すという事ではなく、護衛の騎士や領兵隊の手を借りてしっかり目的地の滝前の広場に到着していた。


 当然、怪我等はすぐに治療され、大事になる事態は避けられている。


 つまり、生徒、教師、護衛などは一人も欠ける事なく集まっていた。


 ただし、全員集合まで丸二日を要しており、サバイバル合宿は残り三日間。


 当然、帰りの日数を考えるとこの滝前広場での滞在日数は残り一日であるから、この日はパーティーが行われる。


 と言っても、やる事はサバイバル料理なのだが、学園側から各班に肉やソーセージ、新鮮な野菜にデザートの果物などの材料が支給された。


 もちろん、順位ごとに支給内容の豪華さが変わってくる。


 一位のト・バッチーリ班をはじめとした上位は、領兵隊から、脂がのってとても柔らかく美味しいらしいという『竜もどき』の肉、ランドマーク家御用達の肉屋から仕入れた絶品のソーセージ、ランドマークの農家から直送した野菜、そして、これはリューがファイ島より直接仕入れている海鮮の数々、最後がランドマーク家が領内で作っている王都でも珍しい果物の詰め合わせが配られた。


 それに反して下位チーム、失格チームのお肉は、王都から持ち込んだオークの肉に同じく王都から持ち込んだ野菜と果物のみ。


 と言っても、王都から持ち込んだものも十分高級な食材なので、バーベキューにはうってつけであったのだが、ランドマーク側が用意したものが、あまりに群を抜いて良すぎたという話である。


 生徒達は上位班のレベチな食材に羨ましさを感じつつも、支給された食材は数日ぶりのまともな食材の数々であったから不満は出ないのであった。


「この肉、うまっ!」


「脂が美味しいと思ったの初めて!」


「これが上級魔物の味かぁ……!」


『竜もどき』のお肉にありつけた上位の班の生徒達は、そのおいしさに舌鼓を打っていた。


 さらに、


「海のものって塩漬けされたものしか食べた事がなくてあまりおいしいと感じた事なかったけど、新鮮だとこんなに美味しいのか……」


「だよな! 俺、正直、海の食べ物は嫌いだったもん」


「私はお父上が商人にお金を積んで新鮮な魚を王都まで仕入れてもらった事があるけど、それでもこれ程美味しく感じた事はなかったな……」


 リューが直接仕入れて上位に入賞班のみが食べられる海鮮の数々は高評価であった。


 それもそのはずだ。


 マジック収納を使って商人が仕入れると言っても、それは国の港街で入手したものだろう。


 それだと、遠い沖合で獲って港まで運び、市場で商人が仕入れ、そこでマジック収納に入れて王都まで運ぶという手順だろうが、それだとやはり多少は味が落ちる。


 だが、リューの場合、海に囲まれたファイ島の周辺で獲ったものはすぐにファイ島に運ばれ、その中から選りすぐったものを地元の料理長がリューの為に仕入れ、それをすぐにリューがマジック収納に入れて保存していたから、その新鮮さは段違いだった。


 だから不味いわけがなく、海の幸が苦手だと思っている者にとっても、その美味しさの前には、嫌いになれる者などほとんどいなかったのである。


 もちろん、中にはアレルギー持ちの者もいたかもしれないから、絶対とは言えないが、少なくとも上位班にはそのような者はいないようであった。


「……リュー、この魚やエビ、貝なんかは売らないのか?」


 ランスがエビの頭をねじ切り、その胴体に食らいついてその美味しさに満足すると、珍しく商売的な質問をしてきた。


「もちろん、これから色々と考えているよ。海鮮は陸の国であるこのクレストリアでは販路も未知数だからね」


「うちの親父が、多分、欲しがるんだよな、これ」


 ランスの言う親父とは、当然ながら国王の侍従長を務めるボジーン男爵の事である。


 それはつまり、国王の口に入るものだから、新鮮で良いものをというボジーン男爵の拘りだろう。


 そうなると、リューの仕入れた海鮮の数々がそれに相応しいと息子のランスも感じたのだ。


 それには横で、同じく美味しそうに魚の切り身を食べていたリズ王女も、大きく頷く。


 リズ王女はノーエランド王国までの旅でこの海鮮を味わい尽くしていたから、同じ事を考えていたようである。


「生ものだから王家に入れるにしても、慎重にやりたいんだよね。その為のシステムを考えてからかな」


 リューは珍しく少し躊躇うようにして答えた。


「……なるほど、間に何人か仲介が入ると当然傷むし、王族がお腹でもこわそうものなら、責任問題になる……か」


 ランスはリューの反応を見てようやく理解した。


「生ものは本当にいつ中るかわからない分、用意する側は慎重になるよな」


 イバルが『竜もどき』の肉を美味しそうに食べながら、話に入ってきた。


「でも、陛下は食べたらとても喜ぶと思うわ」


 リズ王女もこの海鮮の味は味わい尽くしていたから、国王である親に食べてもらいたい気持ちは強い。


「その辺りはボジーン男爵と要相談かな。中っても責任追及はしない、くらいの契約を交わさないとちょっと怖いよ」


 リューはそう言って笑うと、焼けたばかりの魚の串を掴んで頬張る。


「火を通せば、大丈夫なのではないか?」


 ナジンが同じく魚を食べながら、言う。


「そうなんだけど、新鮮なものは生も美味しいんだよね。だから、陛下もそれを試そうとするかもしれない……。問題なのは陛下の口に入る間までの時間なんだけどね? ──うちから仕入れ→王宮に搬入→食材検査→毒見→調理→毒見→陛下の下へ、だったっけ? これだけ過程があるとその間に傷んでしまう可能性も大いにあるから、生ものは勧めるわけにもいかないんだよなぁ」


 リューはそう言うと、旅先のファイ島で味わった刺身の事を告げる。


「……そうなの?」


 シズは前半の「生も美味しい」という言葉に、好奇心いっぱいに輝かせた瞳でリューを見つめた。


「あ、この魚で試しちゃ駄目だよ? 出してからもう時間が経っているから、焼くのが一番安全」


 リューは今にも生で食べそうなシズに注意する。


「……残念」


 シズはそう言うと、本当に残念そうな顔をした。


「はははっ。今度、また、新鮮な魚を仕入れておくからその時に、食べさせるよ」


 リューが笑ってそう応じると、シズだけでなく他のメンバーも、


「「「必ずだぞ(よ)?」」」


 と声を揃えて確認するのであった。

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