59話 祭りで出しますが何か?
リューとリーン、祖父のカミーザは魔境の森との領境に築いてある砦に一旦戻って、泊まる事にした。
見張りの領兵も駐在している施設なので、住み心地は悪くない。
「何だか思い付きでごめんなさい」
リューは二人に頭を下げた。
「構わんさ。リューがこのランドマーク領の為になると思ったんじゃろ?それにこういう作業は楽しいからのう」
カミーザは笑うとリューの頭を撫でた。
「それよりリュー。たくさん集めたカカオンの実はどうやってその「チョコ」にするの?」
リーンが楽しみが止まらない、という様にワクワク感を表に出して聞いてきた。
「それじゃ、下準備しとこうかな」
リューはマジック収納からカカオンの実を取り出すと「種のみ収納」すると、それを改めてマジック収納から取りだした。
山の様なカカオンの種をリューは手に取ると、
「取りだしたらバナーナの葉っぱで包みます。そして、放置!」
と言うと、リューはその場に置いてみせた。
「え、放置なの?それにマジック収納に直さないの?」
リーンが不思議そうに聞いた。
「うん、収納しちゃうと発酵が進まないからね。1週間かけて発酵させるよ」
「だから1週間かかるって言ってたのね」
「そう。そして、この分は今年の豊穣祭の屋台で出すお菓子の為の材料にするよ」
そう言うとリューは葉っぱに包まれたカカオン豆を指さした。
「じゃあ、私も手伝う」
リーンは納得すると、一緒にカカオンの種を葉っぱで包む作業を手伝うのだった。
翌日からもまた、3人は分担して作業を行った。
時折魔物が出現するが、リーンが前もって察知し、カミーザに知らせるので問題になる前に処置された。
一度、家に戻って報告をした日を含めて1週間が経った。
カミーザのカカオン畑予定地を囲む仮の城壁作りがひと段落した。
そのタイミングで、リューも道を引き終わったのでリーンの回収作業も一端終了にした。
「じゃあ、1週間前に下準備したカカオンの種が良い具合に発酵したので葉っぱから取り出して乾燥させます。今回は早く終わらせる為に火魔法の熱と、風魔法の風で熱風を起こして早く乾燥させるね」
そういうと、リューは最近腕を上げてきている火魔法と風魔法を無詠唱で同時に使うと熱風を起こしてカカオンの種を乾燥させ始めた。
カミーザはリューの魔法の上達に目を細めて感心し、リーンも一緒に負けじと苦手な火の精霊魔法に苦戦しながらも、同じく熱風を起こしてカカオンの種を乾燥させるのだった。
魔力回復ポーションを飲みつつ、乾燥作業を続けると、リューが
「いい具合に乾燥できたから、次の作業に移るね」
と、リーンに声をかけた。
リーンは頷くと魔法を解いた。
「長く持続するの地味に大変ね……」
リーンが次の段階に移行するのに安心して一息をついた。
「それでは、完成したカカオン豆の胚芽をマジック収納で回収して……と」
カカオン豆の突起してる芽の部分が一瞬で消えた。
「マジック収納をそういう発想で使う人、……多分いないわよ?」
呆れる様に言うリーンだったが、それと同時にこのリューの発想に感心してもいた。
「このカカオン豆を加熱してローストします」
リューはフライパンと竈をマジック収納から出すと、竈に火を入れてカカオン豆に加熱しだした。
その作業が済むと、
「これを砕く為に風魔法の『真空の刃』の低威力版を使います」
そういうとリューは手の平の上で小さく細かい真空の刃を起こし、球体にすると容器に入れたカカオン豆を粉砕しだした、前世で言うところのフードプロセッサーといったところだろうか。
カカオン豆が跳ねない様に、風の薄い壁を容器の周囲に作る事も忘れない。
魔力操作をセシルから学んでるので細かい操作はお手のものだった。
「こりゃ凄いな。ワシには出来ん芸当じゃわい。わはは!」
カミーザがこの魔法に感心してリューを褒めた。
「風魔法は得意分野だから私も出来るわよ!」
リーンもリューに負けじとチャレンジする。
最初、操作に失敗して砕いた豆が飛んだが、すぐに風の壁を修正してうまくカカオン豆を包み込む様に使い、丁寧に砕き始めた。
「二人ともやるのう!」
孫達の成長に嬉しくなるカミーザだった。
見る見るうちに砕かれたカカオン豆はドロドロになっていく。
「え?粉じゃなくてドロドロになったんだけど?」
リーンが慌てた。
「大丈夫だよ。それは豆から油分が出た結果だよ」
リューはそういうと、そのドロドロの液体にマジック収納から出した全脂粉乳と水飴を混ぜ込んだ。
「これを固めたらチョコの出来上がりだよ。今回はバナーナに絡めて完成させるよ!」
そういうと、同じくマジック収納からバナーナを出してチョコを絡めると風魔法で風を起こして冷やした。
それをカミーザとリーンに渡す。
食べる様に勧めると、二人はその「チョコバナーナ」を口にした。
「甘くて美味しい!チョコの苦みがある甘さとバナーナの果物の違う甘さが合わさって最高よ!」
「ほほう。このチョコの苦みがわしは好きじゃのう!水飴の調節で色々と楽しめそうじゃ」
二人から良い評価がされてホッとするリューであった。