第588話 続・死の行進ですが何か?
リュー達の班は、サバイバル合宿のメイン行事である『死の行進』を順調に終えようとしている。
途中、地割れの跡のような大きな裂け目があり、普通なら迂回するしか選択肢がないところもあったが、リューとリーンの土魔法で立派な橋を作り無事渡る事が出来た。
「この大きさの裂け目は初めて見たぜ……」
ランスが渡り切ったところで裂け目を覗き込みながら感想を漏らす。
「これではみんなも大きく迂回する事になっているかもしれないな……」
イバルもランス同様、崖から下を見下ろして言う。
「あ、それならずっと先の狭い場所に橋が架かっているから、そこをみんな通るんじゃないかな?」
何度か来た事があるのか、リューが渡った後だからこそ、事実を伝える。
「え? それじゃあ、ここもあんまり近道にはなっていないって事ですか……?」
ラーシュが橋を渡り終えて安堵していたが、その言葉に聞き返した。
「いや、ここは結構な近道だと思うよ?」
「……それじゃあ、なんでここには橋を作っていなかったの?」
今度はシズが不思議に思ってリューに聞く。
「それはね? この広い幅だと、橋を架けても耐久性に問題が出てくるんだ。だから安全を保障できないので、狭いところに橋を架けているんだよ」
リューはそう言うと、二人の土魔法で架けた橋をまた、土魔法で撤去した。
橋は呆気なく壊れると、奈落の底に落ちていく。
「……それってつまり、俺達が通る最中に壊れていたかもしれないって事かよ!」
ランスが一瞬で消えてなくなった橋のあった場所を指さして言った。
「失礼ね! リューと私が作った橋よ。みんなが通過する間の耐久性くらいには問題なかったわよ。長い時間に耐えられないというだけよ!」
リーンがリューに代わってランスに反論する。
「お、おう……。それはそれで不安になる話なんだけどな……」
ランスはリーンの勢いに呑まれて言葉を選んでそう答えた。
「とにかく、無事、橋を渡れたんだ。先を急ごう」
ナジンが両者の間に入ると促す。
「そうね。リュー君、リーン。先頭またよろしくお願いするわ」
リズ王女がリュー達に道をお願いした時であった。
裂け目の底から何かうなり声のようなものが、聞こえてくる。
「「「?」」」
一同は何の音かわからず、首を傾げた。
「リュー! 凄い勢いで何か上がってくるわ!」
何かを感知したリーンがリューに警戒を知らせる。
次の瞬間、裂け目から翼を羽ばたかせて魔物が飛び出してきた。
「「「ド、ドラゴン!?」」」
これには、リューとリーンも驚きのあまり目を見開く。
それはみんなも一緒で、護衛の近衛騎士、王国騎士、そしてランドマーク領兵も初めて見るドラゴンに腰を抜かしそうなくらいに驚いていた。
そのドラゴンは土色をしており、頭には橋の欠片と思われるものが、いくつか乗っている。
ドラゴンは、リュー達を肉眼に捕らえると、
「グオァーーー!!!」
と大音量で吠えた。
その衝撃波に周囲の木々は揺れ、一同も腰が抜けそうになる。
いや、実際、ほとんどの者が腰を抜かしたようにその場に座り込む。
「みんな、動けない人を担いで場から退避! 僕達の荷物もお願い!」
リューは鋭い声で、イバルや護衛のスード以下、領兵達に指示した。
その間に、リーンがみんなのいないところに移動し、そこから風魔法で真空波を唱えて土色のドラゴンに先制攻撃を仕掛けて標的になりに行く。
「「「りょ、了解!」」」
一同は動揺しながらもリューの言葉に正気に戻ると、二人の荷物を受け取り、立ち上がって崖から離れる為に走り出した。
ドラゴンはリーンの風魔法『真空波』を、咆哮一つで相殺してみせる。
「……ドラゴンなんて、伝説級クラスの魔物じゃん!」
リューは、これまで相手にした魔物は冒険者ギルドが指定するAクラス帯が最高だった。
いや、伝説であるSクラスの魔物など、存在さえも疑わしいレベルだったから、ここにきてその伝説クラスが現れた事に驚き、ツッコミを入れるしかない。
それもどうやら、リューが作って壊した橋の欠片が下にいたドラゴンに直撃して怒って上がってきたようだったから、そんな理由で遭遇する事になったので運がないと内心ため息を吐く。
一行がその場から退避したのを脇目に確認すると、リューもリーンの傍に移動する。
少なくともみんなを巻き込む方向だけには気を引きたくないからだ。
土色のドラゴンは、その鋭い目で、リューとリーンを睨み威圧する。
「くっ! 状態異常効果を持つ睨みだ……!」
リューは、そう言うと二人だからこそ耐えられているというレベルのドラゴンに対峙した。
土色のドラゴンは、二人に睨みが効かない事を悟ると、口を開き、そこからは予備動作無しで火炎弾を吐いた。
リューとリーンはその早い攻撃に対し、無詠唱の土魔法で、岩の障壁を作って防御する。
ドォーン!!!
火炎弾はその岩の障壁にぶつかると、大きな音と共に爆発してそれを砕いた。
リューはそれも予測していたのか、さらに別の岩の障壁を作ってその爆発で砕け飛ぶ岩を防ぐ。
その間に、リーンは上級風魔法を詠唱し始めている。
さすが息の合ったコンビネーションというところか。
ドラゴンは、リーンの風魔法を待つことなく、次の火炎弾を口から吐いていた。
だが、それもリューが作った岩の障壁で阻まれる。
その次の瞬間、詠唱が終わったリーンが、
「『大砂暴風斬』!」
と唱えた。
リーンの頭上に大きな三日月状の土煙りに覆われた風が形成され、それが勢いよく土色のドラゴンに向けて飛んでいく。
リーンが使える最大級の攻撃魔法である。
早さ、威力共に十分なはずだ。
ギャン!
リーンの攻撃魔法は、大きな音を立てると、土色のドラゴンに直撃したが、その場で弾け飛んだ。
いや、ドラゴンの胸の辺りの竜鱗に亀裂が入っている。
だが、それだけであった。
「「!」」
リューとリーンもさすがに仕留めないにしても大打撃は与えられると思っていたのだろう、驚かずにはいられない。
土色のドラゴンは、自慢の鱗に傷が入ったので、目の色が変わった。
土色のドラゴンは初めて、息を吸い込むような動作をする。
だが、それも一瞬だ。
次の瞬間、先程の火炎弾とは比べ物にならない土色の炎の塊が吐き出された。
あれは、まずい気がする!
リューはそう心の中で叫ぶと、
「『大鉄壁』×4!」
と魔法を唱え、二人の前に鉄の防壁を四つ並べた。
しかし、土色の炎の塊はそれも飲み込むように、リューとリーン、そして、その一帯を吹き飛ばしてしまうのであった。




