58話 また開拓ですが何か?
ある日の事。
この日も、リューとリーンは魔境の森に入って魔物討伐に励んでいた。
もちろん、カミーザも一緒である。
「そろそろ休憩にするか。ほれ、さっきそこで見つけた果実でも食べてろ」
カミーザが手のひら大の果実?をリュー達に投げて渡した。
「おじいちゃん、これって?」
どこかで見た事がある気がしたリューは祖父カミーザに聞いてみた。
「よく知らんが、カカオンの実とか言った気がするのう」
「カカオン……、もしかしてカカオ?まさか……ね」
リューは、『鑑定』スキルで確認してみてもカカオンの実と表示されている。
リューは、カカオンの実を短剣で半分に切ってみた。
断面は五個ずつ並んだ種子が見えた。
「あ、やっぱりこれ、カカオ豆だ……」
「カカオ豆?カカオンの実でしょ?」
リーンがリューの横から覗き込んで、カカオンの実を確認した。
「そうなんだけどね?もっと南の方で出来るもののはずなんだけど。まさかこんなランドマーク領に近いところで出来てるなんて!」
リューは素直に驚いた。
ランドマーク領は比較的に温暖な気候だが、カカオが出来る程の熱帯気候ではない。
「この魔境の森は魔素が濃いからのう。環境の変化が激しいのじゃ。ずっと奥に入っていくと氷の世界もあると聞く。まあ、伝説じゃがな」
カミーザが重要な事を教えてくれた。
「そっか、魔素が関係してるのか……。逆にそのお陰でカカオンの実が育つ環境が出来てるのならこんなに素晴らしい事は無いかも!」
リューの喜びように、リーンは不思議がった。
「この実がそんなに、嬉しいの?」
「この実が有ればチョコが作れるからね」
「チョコ?」
「そう、お菓子だよ。とても美味しいお菓子」
「お菓子!それは、水飴よりも美味しいものなの!?」
リーンは激しく反応した。
「水飴も使うけど、とても美味しいよ」
「きゃー!リューそれを作って!食べてみたい!」
リーンは興奮気味に急き立てた。
「でも、時間と手間がかかるよ?まあ、作るけど」
リューは、答えた。
「えー!時間かかるの?頑張って、十五分くらいで作ってよ!」
「……無茶言わないで。最低でも一週間はかかるから……!」
「そんなに!?」
「そうだよ。それだけ手間がかかる食べ物だから」
「……そうなんだ。残念……」
リューの言葉にがっかりするリーンだった。
だが、これでやる事が一つ増えたと思うリューだった。
リューは考え込むと一つの答えを出した。
それは、ここまで直通の道を作り、一帯を城壁で囲んでカカオンの実の栽培拠点にする事だ。
それができれば、チョコの製造が出来る様になる。
これはランドマーク家の新たな収入源になるはずだ。
「よし、リーン、おじいちゃん。早速だけど、カカオンの実があるという事はバナナの実もあるはずだから探して。あと、この一帯を城壁で囲んで開拓するね!」
リューは二人には突然過ぎる提案をした。
それも、大規模工事のお知らせだ。
「バナナの実?ああ、バナーナの実の事か?確かに前にこの辺で見かけた気がするのう。にしても、ここは魔境の森のど真ん中じゃぞ。どのくらいの規模で開拓するつもりじゃ?」
カミーザがリューの突飛な提案にさほど驚く事なく乗ってきた。
リューが木に登ると、ついて登ってきたカミーザとリーンに、
「範囲はあそこからあの辺りまでで……。あっちがあの岩山辺りまで……かな?」
と指し示した。
「かなり広いのう。とりあえず、囲いだけは邪魔が入らん様に作っておくか」
と、カミーザは言うと、地面に降りた。
カミーザは呪文を唱えると大規模な土魔法で雑だが石壁を広範囲部分に作り上げた。
「リュー、いつもの魔力回復ポーションを渡しておいてくれ。リーンはその間にバナーナの実を探してこい。リューは道を作っておけ。分担すれば少しは早く終わるじゃろ」
カミーザはリューの提案を疑う事なく、実行に移す事にした。
孫に対して全幅の信頼を置いてる証拠であった。
リューとリーンは頷くとすぐに作業に移る。
リーンはすぐにバナーナの実をみつけると一か所に集め出した。
「あ、リーン。今はバナーナの実もだけど葉っぱの方も必要だから。あと、カカオンの実も沢山集めておいて」
リューが道の為に、木を土魔法で根元から浮き上がらせるとマジック収納で回収する作業をしながら指示した。
「え?実だけじゃないの?バナーナの実、美味しいわよ?」
リーンがバナーナの実を頬張りながら言った。
「今は、チョコ作りに必要な材料が欲しいからそっち優先でお願い」
「?わかったわ。チョコ優先ね」
リーンはまだ見ぬお菓子、チョコを夢見てせっせとカカオンの実を集めるのだった。