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第552話 恩人ですが何か?

 王城に向かう馬車内で有意義な話が出来たリューは、それだけで満足になっていた。


 そんな中、大きな水堀に囲まれた城壁が見えてくる。


 王城だ。


「これは立派なお堀ですね」


 リューが大きく広い水堀を縦断する橋の上を進む馬車の窓から外を眺めると、お世辞ではなく素直に賞賛の声を上げた。


「水の都ですから」


 案内人はそう自慢気に応じると、歴史などを簡単に語る。


 それを聞きながら、王城まで続く橋を渡り切り、城内に入った。


 王城内は王女リズ率いる親善使節団一行を歓迎すべく、王都の王侯貴族が一堂に会し、歓迎ムードだ。


「想像以上の歓迎ぶりだ!」


 リューが驚くのも仕方がない。


 もちろん、リズは王女だから国賓として迎えるのは当然だろうが、この規模は国王でも出迎えるような大袈裟ぶりである。


「我が国の『真珠姫』を助けてくれた恩人とその国の王族ですからね。国民もエマ王女殿下を救って頂いた事に感謝していますので、これくらいしないと示しがつきません」


 案内役は裏事情とばかりに、話しやすいリュー達に親近感を持ったのかそう説明する。


 王城の広い敷地を通って、王宮前に馬車が次々に横付けされ、王女リズと護衛役でもあるリーンが馬車から降りると、続いてコモーリン侯爵達も下車する。


 そして、リューとジーロ、スードも王宮正面に横付けされて下車した。


 その度に、周囲から拍手が起きて、歓迎の声が上がる。


「ようこそ、ノーエランド王国へ!」


「歓迎しますぞ、クレストリア王国のみなさん!」


「我々はエリザベス王女殿下を歓迎します!」


 各方面から声が上がる中、リューは王女リズ達と合流して赤い絨毯が敷かれた王宮までの道を歩く。


「……リズは王女だからわかるけど、僕達ランドマーク関係者は場違いじゃない?」


 リューは一緒に歩く次男ジーロに小声で話しかける。


「はははっ。お父さん達も来れたら良かったのにね」


 ジーロはいつも通りのおっとりした口調で、的外れな答えをした。


 どうやら、さすがに緊張しているようだ。


 そんな会話をしながら王宮の傍まで行くとそこには、ノーエランド王国の国王が、王妃と王太子、エマ王女ら王家の面々が共に王女リズを歓迎してくれた。


 しばらく、それを囲む貴族やその関係者に手を振っていたが、王宮内にようやく案内してもらい、沢山の拍手も小さくなり遠ざかるように聞こえなくなる。


 そこで、国王自ら王女リズに声をかけた。


「エリザベス王女殿下、長旅のところ歓迎式典に付き合わせて失礼した。我が国の気持ちの一端だと思って大目に見てもらえると助かる」


 国王はそう言うと苦笑する。


「盛大に歓迎して頂き恐縮です、国王陛下」


 王女リズは柔らかいもの言いで気遣いを見せる国王に、親近感を持って応じた。


「うちの妻が『娘の恩人なんだから、これくらいはしないといけないわ!』とうるさくてな。はははっ!」


 傍を一緒に歩く王妃を指差して笑って見せる。


「陛下、お言葉が過ぎますよ?」


 王妃は国王の発言を訂正するでもなく注意する。


 どうやら言ったのは本当らしい。


 リューは後ろから付いてきながら、エマ王女の両親は面白いなぁ、と感じながら歩く。


 そして、とても広い貴賓室に到着すると、それぞれ席に案内され国王の着席と共に全員も席についた。


「この度は我が娘エマ王女の命を救い、保護して頂き、父親として国王として心から感謝する。本来ならこちらから赴いて頭を下げるべきところだったのだが、使節団としてエリザベス王女殿下を派遣してもらった事にも感謝する」


 国王は公式の会見だが、そう言うと王女リズ達に頭を下げた。


「頭をお上げください、陛下。我が国も領内に海賊をのさばらせていた事が原因の一つですから礼には及びません。それにエマ王女殿下とは友人になれたのでこの出会いに感謝しております」


 王女リズはそう言うと笑顔で応じる。


 その後、エマ王女を直接救ったリューとジーロが紹介された。


「おお! 君達がエマを救ってくれた英雄達か! 報告は聞いていたが本当にまだ若いな!」


 国王は目に入れても痛くない娘を救ってくれた命の恩人達に驚く。


 そして、


「娘を手厚く保護してくれたランドマーク伯爵家とお二人、シーパラダイン男爵、ミナトミュラー男爵には後日改めてお礼をしたいと思っている、本当にありがとう。──それでは食事にしようか」


 国王は改めて感謝を口にすると、それを合図に歓迎の為の食事会になるのであった。


 しばらく食事と談笑が続き、その席でリューとジーロはエマ王女が改めて二人の凄さを主張するので話の中心になった。


「お二人共、この若さで武勇に優れ、それぞれの学校でも主席の成績なのですよ、素晴らしいでしょう?」


 エマ王女は自分の事のように二人を評価した。


「確かにその歳で叙爵され、海賊を討伐する活躍を見せるとは実に素晴らしい。それにその主家にあたるランドマーク伯爵もひとかどの人物だとサール侯爵から報告を聞いている。これからもエマと親しくしてもらえるとありがたいな」


 娘の言葉に国王は賛同する。


 これには、国王自ら誼を通じる事を願い出る事など滅多にないことであろうから、さすがにリューとジーロも恐縮した。


「夫にもそう伝えておきます。それにエマ王女殿下の事は、失礼ながら我が家でも闊達でよくできた素晴らしい女性だと感心しておりました。これからも親しくして頂けると家族一同嬉しい限りです」


 母セシルがこの場の雰囲気に呑まれる事なく笑顔で応じた。


「エマはそちらのご家族の事をずっと褒めていたから、一度は訪問してみたいものだ。はははっ!」


 国王も笑顔で満足気に応じると、笑って場の雰囲気は一段と明るくなるのであった。

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