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第551話 朗報ですが何か?

 ノーエランド王国王都は、通称・水の都と呼ばれる程に水が豊富で王都内を沢山の川が流れていた。


 その流れは穏やかで幾重もの水路になっており、区画もその水路で仕切られている形だ。


 だから橋が多いのだが、小舟がその下を潜っていく姿が至る所で見受けられる。


「荷物の運搬は陸と水路が利用されています」


 と王城に向かう馬車の中でリュー達は自分達に付けられた案内役にそう教えてもらう。


「(あっちの世界以外では)こんな豊富に水が流れている都を知らないなぁ」


 リューは感心して馬車の窓から外を眺めた。


 馬車には次男ジーロとスードが乗っていて、後ろの馬車には母セシルとハンナが乗っている。


「ノーエランド王国は島国ですが、山と森が多い事から水が豊富で川が干上がった事は一度もありません。そして、とても綺麗なので上流の水は煮沸しなくてもそのまま飲める程です」


 案内役は誇らしげに王都自慢をした。


「水に困らないというのは羨ましいね、リュー」


 ジーロも感心して、リューに同意を求める。


「うん。魔境の森だと井戸を深く掘らないといけない事が多いもんね。川の水は汚れているところも多いし」


 リューはそう答えながら、一つの期待が心を占めていた。


 それは、水が豊富な地域ならあり得るであろう稲作である。


 もちろん、クレストリア王国でも稲作はなされているが、それは家畜用の餌としてであり、リューがニホン酒の為にかなり拘って酒米を探したものの、まだ、完全に満足がいくほどとはいかないのだ。


 やはり、元日本人だからお米への拘りは強い。


 もし、ここで稲作がなされているなら、期待が出来るというものである。


「魔境の森ですか! 噂では四大絶地と呼ばれている場所ですよね?」


 案内役はリューの言葉に驚いて思わず質問する。


「ええ。よくご存じですね。かなり、ローカルな名称ですけど」


 リューは四大絶地の名称はあまり有名ではないから案内役が知っている事に驚いた。


「このノーエランド王国にはその一つである地下迷宮が存在するので、結構知られていますよ。魔境の森は確かクレストリア王国東南部の辺境に位置するとか」


 案内役は意外に詳しいらしくリューやジーロと会話が弾む。


「地下迷宮が!? それは凄いですね。地下迷宮は宝の宝庫だと聞いていますよ!」


 ジーロも魔境の森以外の知識があったのか聞き返す。


「ええ、そう言われています。しかし、我が国の地下迷宮は侵入不可能な状態ですから、探索出来ないのですよ」


 案内役は極秘の情報になりそうな事を平然と答える。


「そうなんですか?」


 ジーロは案内役の話の邪魔にならない程度に聞き返す。


「この王国は水が豊富だと言いましたよね? その水が地下迷宮に流れ込んで大半は水没しているのです。だから、地下迷宮は侵入不可能地域なのです」


 案内役は残念そうに答える。


「それは残念な事ですね。ちなみにその出入り口などは見学できますか?」


 ジーロは本当に残念そうに応じると、国家機密になりそうな場所の見学を打診した。


「うーん……、一応、私の方からも上に聞いてみましょう。エマ王女殿下のお客人ですし、許可が下りるかもしれません」


 案内役はジーロの難しい打診にもその人柄の良さを感じたのか前向きに応じてくれるのであった。


 ……国家機密を簡単に聞きだしてしまうジーロお兄ちゃんの人柄が凄い……。


 リューは世間話をするように聞きだしてしまった次男ジーロに改めて感心した。


 さすがにリューはそんなジーロのような真似は出来ないが、聞きたい事はある。


 それはやはりお米だ。


 場合によっては、家畜の餌を知りたがる残念子供と思われそうで聞いて良いものか迷うところであったが、ジーロと同じように自然体で聞けば大丈夫かもしれないと聞く事にした。


「米ですか?」


 案内役はリューの質問に意表を突かれたようにポカンとした顔をする。


「ええ……」


 しまった、変な質問する子供だと思われたかぁ。


 リューも王国の親善使節団の一員である。


 あまり変な子供だと思われるとそれはイコールクレストリア王国の評判に繋がりかねないから、失敗したと内心で反省しそうになった。


「よくご存じですね。わが国では家畜用に稲作も力を入れていまして品種改良まで行って餌を吟味しています。確かクレストリア王国では、稲作はあまりなされていないと聞いていましたが、最近では注目されているのでしょうか?」


 案内役は相手が子供とはいえ、使節団の一員だから、何か国に関わる質問だと思ったようだ。


「あ、いえ。僕個人が商売として興味があるもので……。でも、品種改良も行われているんですね!」


 リューは意外に好反応だったので嬉しくなって案内役の話に喰いついた。


「ええ、餌を吟味する事で、家畜の肉付きやその味が変わる事がわかっています。ですから我が国ではお米の改良には力を入れていますよ。うるち米だけでも品種改良したものは沢山ありますし、もち米、その他の種類もかなりの数、試行錯誤して家畜用に作っています」


 案内役はそちらにも精通しているのか、リューが喰いついてきたので快く教えてくれた。


 リューとしては新たなニホン酒用の酒米や、よりおいしい食用のお米選別など出来ればと考えていたから、この情報は非常に嬉しいものである。


 クレストリア王国で入手できるお米の種類は限られており、その中でも酒米の選定は非常に大変だったから、このノーエランド王国がミナトミュラー家の為の宝の山に感じるリューであった。

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