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第539話 夏休み前の出来事ですが何か?

 夏休みを前にしたある日の学園。


 職員室が急に慌ただしくなると、その日の午後の授業が休講となった。


「期末テストも終わってるしラッキーだけど、どうしたんだろう?」


 リューは担任のスルンジャー先生が、深刻な顔つきで理由を告げず休講を生徒に伝えたので心配をしていた。


「うちだけでなく、他のクラスもだぜ?」


 ランスが他所のクラスから戻って来て全員に伝える。


「……つまりこれは、スルンジャー先生だけでなく学園全体に関わる何かが起きたという事なのか?」


 ナジンが可能性を口にする。


「私が確認してきます」


 王女リズがそう言うと席を立ち、職員室に向かう。


「じゃあ、僕も行くよ」


 リューがそう言うと当然ながらリーンとスードも付いて来る。


 四人は職員室に到着すると、先生達だけでなく学校職員全員が職員室に集まって深刻な顔で何かを話し合っていた。


「……よろしいですか、先生方。何が起きているのでしょうか?」


 王女リズが職員室の出入り口で声を掛けると、先生達は相手が王女リズだから答えた方が良いのかと目を見合わせて悩んだ。


 そこにスルンジャー先生がやってきた。


「……実は学園長が、先程お倒れになったんです」


「「「え!?」」」


 リューとリズ達はそれを聞いて当然ながら驚いた。


 確かに高齢だが、とても元気な人だと思っていたから余計である。


「教頭先生が付き添って王立病院に緊急搬送しましたが、胸を抑えていたとかで少し危険かもしれないと話していたのです。学園長も高齢ですからね……、もしかしたらこのまま引退かもしれません……」


 スルンジャー先生は溜息を吐くと、学園長の心配も当然ながら、今後の学園の事も考えると、先生達が深刻な表情なのも仕方がない事であった。


 そして続ける。


「学園長が倒れた事以外は、他の生徒達には黙っておいてください。まだ、どうなるかわからないですから。それに、もうすぐ夏休み。その期間に学園長が休養を取って復帰する事も十分あり得るので、間違った情報は流したくないですからね」


 担任の言葉にリュー達も同意する。


 学園長にはリュー達もお世話になっていたから、心配ではあるが病気の類はどうしようもない。


 専門家に任せて自分達は学業に励むしかないだろう。


 それが学園長が望む事のはずだと、リューと王女リズ、リーンとスードの四人はその場で結論を出して、スルンジャー先生に同意すると、教室に戻るのであった。



 学園長、倒れる! の報は、すぐに学園全体に広まった。


 だが、ほとんどの生徒は朝礼や行事以外ではほとんど顔を合わせる事がないだけに、あまり心配する様子もなく夏休みまでの間も普通に時間が流れていく。


「この学園の改革を行った功績がある人だから、復帰して欲しいなぁ」


 リューはそのきっかけになった生徒ではあるが、改革自体は学園長が行ったものであり、かなり風通しが良くなったのは確かに学園長の采配あってこそである。


「でも、高齢だし、改革を行って目的は果たせたのだから、他の人に任せて引退というのが学園長の為だと思う」


 もう一人の改革のきっかけになった生徒であるイバルが現実的な事を指摘した。


 イバルにとっても学園長はここに戻る為に色々と骨を折ってくれた人物だからこそ、無理をして欲しくないと思っていたからこその言葉であった。


 リュー達の心配する祈りが届いたのか、学園長は一命を取り留める事になるのだが、学園長は高齢を理由に引退を宣言、夏休みの間に新たな人選が行われる事になるが、それを知るのは新任の学園長が挨拶をする新学期の事であった。



 夏休みを前にリューは忙しい日々を送っていた。


 それはいつもの事ではあるが、この間にアイロマン侯爵が裏で密かに行ってきた悪事の数々が公になって王家から正式に降爵処分が伝えられたのだ。


 もちろん、現アイロマン侯爵、あらためアイロマン伯爵自身は引退。


 息子に爵位を譲る形で家名は守られたが、同商会は解体処分を受けた事により、王都の飲食業界は最大勢力がいなくなった。


 これにより風通しの良い業界へと変わっていく事になる。


 ちなみに解体後のアイロマン商会グループはランスキーの作ったニュース商会の発行する『王都新聞』によって散々叩かれていたので、各店舗はそれを避けて勝手に独立。


 アイロマングループ店の看板も全ての店舗が変更したので、王都にはリニューアルオープンのお店でごった返す事になった。


 これにより、リューのラーメン屋は王都の飲食業界を生まれ変わらせたお店として、縁起の良い食べ物という扱いになっていくのだが、その為、何かあるとお店に行列がすぐできて忙しくなっていく事になる。


「王都内にはすでに十店舗もあるのにどこも行列って……。──ノストラは王都の各城門近く、各学校、学園付近に支店を作りたいって、言ってるんだよなぁ」


 リューはマイスタの街長邸の執務室で、報告書を見て傍に座って控えているリーンに愚痴を漏らす。


「別にいいじゃない。お客さんも食べたいって言っているんだし」


 この大波に乗るしかないでしょ? とリーンは笑って応じる。


 リューは嬉しい悲鳴だが、その為には王都郊外での食材作り工場を増築する必要もあるし、なにより、人材育成も必要だから、急に店舗の倍増は難しいところなのだが、報告書を読んでいくとノストラはすでにそれを見越して話を進めていたらしく、あとは予算だけらしい。


「……ここまで話を進められているなら、出すしかないよね、予算。それにしてもノストラは、最初から支店を倍増する気で話を進めていたとしか思えないくらい、用意周到だなぁ。──まあ、お陰でこっちの手間が省けていいんだけどさ」


 リューはノストラの優秀さに感謝しつつ、予算請求書にサインをするのであった。



 こうして夏休みの間に新たなラーメン店が王都内に増えていく事になる。


 ミナトミュラー商会の飲食業界進出は順調に行われるのであった。

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