第538話 ギリギリの結果ですが何か?
リューが『簡易回廊』と名付けた能力を得てから数日後。
そろそろ期末テスト結果の発表が間近であった。
「ミナトミュラー君、リーンさん。この後、職員室まで来てください」
担任のビョード・スルンジャー先生が授業後にリューとリーンを職員室へと呼んだ。
「「?」」
二人は職員室に呼び出される理由が思いつかず、首を傾げるのであったが、二人は素直に従って職員室に向かった。
職員室で作業をしていたスルンジャー先生は二人が来たのに気づくと「こちらへ」と言って人気のない生徒指導室に案内する。
そして、二人が席に着くとスルンジャー先生が口を開く。
「二人共、最近何かありましたか?」
ざっくりとした質問にリューとリーンは答えようがなく「「?」」という表情でスルンジャー先生を見返す。
「担任としてお二人の変化に気づいてあげられなかったと、反省しています……。それでどうですか、何か困った事はありませんか?」
スルンジャー先生は真面目な顔でそう言うと、二人の最近の変化について反省しきりであった。
「「?」」
二人は増々どういう事? という表情で顔を見合わせると、
「……あの……。言っている意味が……」
とリューが確認する。
「うん? ──あ、そうでした。……実はまだ、発表前ですが今回の期末テストの成績についてお二人の点数が前回よりかなり落ちていました。担任としてその原因が何なのか気づいてあげれず、申し訳ない。……それでどうですか? 何か悩んでいる事でもあるのではないですか?」
スルンジャー先生はそう言うと改めて二人の抱えているであろう悩みについて心配する姿勢を見せた。
「ああ……! そういう事ですか! 今回、僕達テスト勉強があまり出来ていなかったんです。ミナトミュラー男爵として領主の仕事や商会の業務などで忙しく、その余裕がなくて……、ね?」
リューは具体的な原因については言葉を濁してリーンに相槌を求める。
「それに生徒会の仕事まで押し付けられたら、大変でしょ? リューの勉強する時間がないのも仕方がないわ」
リーンはリューに頷くと、歯に衣着せぬ物言いで学校批判の声を上げた。
「うっ……。そうだったのですか……。そんなにお仕事が忙しかったのですか……。担任としてそれを把握できなかった事について反省するしかないです……」
スルンジャー先生はうな垂れる。
だが、それも仕方がない。
リューの場合、それに加えて竜星組の仕事まで加わっているのだから、把握できるわけがないのだ。
「あ、今回は仕事面で特殊な問題が起きて、その対応の為にテスト期間中動く必要があったからというだけですので、普段は部下がしっかりやってくれているので学業にも支障が無いようにしていますからご安心ください。──リーン言い過ぎだって!」
リューは反省する担任を励ますとリーンを窘める。
実際、部下が優秀だから余程の問題がない限り仕事も学業も両立できているし、今回はリューがノリノリで動いていたという理由もあったから、生徒会の仕事が原因で支障が出る状況にはないのだ。
「そうでしたか……。それで問題は解決したのですか?」
担任としてそれが心配なのか確認する。
「はい。原因については二度と起きないように徹底的に対処しましたので問題ありません。ご心配をお掛けしました!」
リューは安心させるように応じた。
スルンジャー先生はそれを聞いて安心するのであったが、それがまさか王都の飲食業界のドンであるアイロマン侯爵の失脚とは想像もつかないのであったが……。
「それは良かった。なんでしたら、生徒会の仕事については私から学園長に辞職を願い出る事も可能ですので、無理なようならいつでも相談に乗りますよ」
スルンジャー先生はそう言うと、ほっと安心する素振りを見せた。
そして続ける。
「ああ、そうでした。お二人の成績について先に伝えておきましょう。順位はミナトミュラー君が一位、二位がリーンさんで変わりはありません。しかし、三位のエリザベス王女殿下とは、総合点がほとんど変わらないくらいまで迫られていたので職員会議でも問題になった次第です。ですが原因が解決していて良かった。それでは二人共戻ってよろしいですよ」
スルンジャー先生はそう言うと起立する。
「「ご心配をお掛けしました」」
二人はそう恐縮すると生徒指導室をあとにするのであった。
「二人共、どうだったんだ?」
ランスが職員室に呼び出された二人をどこか楽しそうに聞く。
「嫌な事聞くなぁ」
リューは苦笑して応じる。
「なんだ、本当に説教か何かで呼ばれたのか? 二人共何をやったんだ?」
リューとリーンが問題を起こした覚えがないのでイバルは不思議そうに聞く。
「いや、今回の期末テストの内容が良くなかったみたいで呼ばれたんだよ」
リューは隠しても仕方がないとばかりにみんなに打ち明けた。
「おお!? これはリズの下克上あるのか!? 王女だから下克上になるのかわからないけど」
ランスが順位に大きな変動がありそうだと期待を胸に立ち上がる。
「順位は──」
「それは発表までのお楽しみという事で」
リーンがランスの言葉に反応して答えようとしたので、リューがそれを制して言葉を濁す。
「……これは変わらないですね」
ラーシュが鋭い指摘をする。
「だな。焦っていない時点で順位は変わらず、か」
ラーシュの言葉にナジンも賛同する。
「……リズのぬか喜びを返して」
シズが冗談でリューを批判した。
「シズ、私は別にぬか喜びはしてないからね? ちょっと期待した分ショックだけど……」
王女リズはそう言うと苦笑する。
それをぬか喜びというのでは?
全員が内心でツッコミを入れるのであった。
後日、成績発表が行われた。
結果は以下の通り。
一位リュー・ミナトミュラー
二位リーン
三位エリザベス・クレストリア
四位イバル・コートナイン
五位ラーシュ
六位シズ・ラソーエ
七位ナジン・マーモルン
八位ランス・ボジーン
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十八位スード・バトラー
この成績には、普段落ち着いているイバルが思わずガッツポーズ。
そして、シズが幼馴染のナジンを抜いて六位に入り、ぴょんぴょんとジャンプして喜び、ナジンが過去最低の七位転落でがっくりと肩を落としていた。
多分、この辺りは全員僅差の戦いなのだろう。
そしてついにランスが前回の九位から八位へとランクアップしてみんなを射程圏内に捉えたのが不気味であった。
さらにはスードも前回の二十八位から十八位とこれもランスの時のような快進撃をしているので、今後の台風の目になるかもしれない。
こうして、期末テストの成績発表も無事? 終わり、あとは夏休みに向けて生徒達は心躍らせるのであった。