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第537話 簡易ですが何か?

 期末テストの結果を控えたある日のランドマークビルでの事。


 リューは、リビングで以前に脳内で響いた『世界の声』の検証を行っていた。


 検証と言っても、


「『次元回廊』のレベルアップを確認しました。おめでとうございます」


 という声が聞こえて以来、どこがレベルアップしたのかわからないままであったので、その確認の為の検証である。


「これまでは、『次元回廊』のレベルアップと言えば、出入り口の設置数と一度に運ぶ重量が増える事だったんだけどなぁ」


 リューは、変化のない『次元回廊』の使い勝手に首を傾げていた。


「でも、『世界の声』はレベルアップって言ったんでしょ?」


 リーンがリューと一緒に悩みながら、確認をする。


「そうなんだよね……。でも、設置数は増えていないんだよ。ランドマークビル、ランドマーク本領自宅、南部サウシーの港街、東部コーエン男爵領都、この四か所と普段用の一か所の計五か所で打ち止めなんだよなぁ。確かに一度に運べる人の数は増えてはいるんだけどこれだけなのかもしれない……」


 リューは久し振りの『世界の声』だったので、大きな期待をしていたのだが、ここのところ検証を続けていても何も分からずにいたから落胆は大きい。


「でも『次元回廊』のレベルアップなら、『瞬間移動』が追加されるとかあっても良さそうなのにケチね」


 リーンが『世界の声』に愚痴を漏らす。


「はははっ、それなら嬉しいけどね? でも……、今の五か所設置だけでも十分役には立っていたから、贅沢を言ったらいけないか……。──いや、まてよ……?」


「どうしたの?」


 リーンがリューが何か思いついた様子なので聞き返す。


「もし、五か所設置が『次元回廊』の限界だとしたら、あとは何が追加できるのかなと可能性の一つとして以前から考えていたんだけど……。『次元回廊』の特性として一度行ったところに出入り口を設置できるわけだよね?」


「そんな事、リューが十一歳の時に覚えて以来、検証済みでしょ?」


 リューが何を言いたいのかわからず、言い返す。


「もし、一度行ったところに離れていても出入り口が設置出来たら助かると思わない?」


「……そういう事?」


 リーンもリューが何を言いたいか理解した。


『次元回廊』は、行った場所にその場で出入り口を設置して、移動を可能にする。


 だから、一度解除すると再びその場所に行って設置し直さないと移動は出来ないのだ。


 だが、もし、今回のレベルアップで出入り口の設置の仕方に変化があったとしたら……?


 リューはそう考えると、早速、その場で『次元回廊』を開いて、姿を消した。


「あっ! 私も連れて行きなさいよね! ──うん? なんだ、表に移動しただけね?」


 リーンはリューが消えたので愚痴を漏らしたが、すぐに彼女の『索敵』系能力にリューが引っ掛かってどこにいるのかがわかった。


 リューの気配はランドマークビルの表の通りからだったのだ。


 そこからまた、一瞬リューの気配が消える。


 しかし、すぐにリューの気配にリーンが気付く。


 それは自宅のリビングにまた、リューが一瞬で戻ってきたのだ。


「やっぱりだ!」


 リューは嬉しそうにリーンに嬉しそうに言う。


「出入り口を設置していないこの部屋に戻れるという事は、リューの予想が的中したって事ね?」


 リーンがリューの喜ぶ姿で全てを理解した。


「うん、そうみたい! これで一度行って出入り口を設置していない場所も頭の中で想像して『次元回廊』を開くと移動できそうだよ! もう一度、試してみるね」


 リューはそう言うと、どこかを想像して、『次元回廊』を開き飛び込む。


 だが、見えない壁にぶつかるように顔をぶつけた。


「痛っ!」


 リューは顔を押さてその場にしゃがみ込む。


「大丈夫、リュー!?」


 リーンは鼻血を出しているリューを治癒魔法ですぐに治療した。


「ありがとう……。──あれ……? さっきは移動できたのにいきなり壁が出来て拒否された感じだよ……。どういう事だろう?」


 リューはそう言って不思議に思いながら、『次元回廊』を開くと今度は慎重に手で確認する。


 やはり先程と同じように、見えない壁が現れていた。


「……。じゃあ、これは?」


 リューは何かを察したのか改めて『次元回廊』を開き直すと、飛び込みその場から消える。


 数秒後に、リューはまたランドマークビルの表に移動して今度は、階段を上がって五階の自宅に戻ってきた。


「ただいま」


「リューどうしたの? さっきみたいに下からここまで『次元回廊』で移動すればいいじゃない。さっきは成功したでしょ?」


 リーンはリューの不可解な行動に疑問を口にする。


「今、ランドマーク本領まで行って戻ってきたんだけど……。さっきみたいにこの部屋に戻ろうしたら、駄目になってた。……これってもしかしたら、出入り口を設置できる数は五か所。これは自由に移動可能は変わらずなんだけど。今回増えた機能は、頭で想像して一度行った場所に行けるのは一度きり、もしくは一日の回数制限がある感じなのかも……」


 リューは検証を踏まえて推測して見せた。


「それってつまり、新たな機能は一度っきり? 一度成功したのに、二度目はもう行けないわけでしょ?」


 リーンが納得いかないとばかりに聞き返した。


「そうだね……。これからも検証が必要だけど、回数制限が一時間ごとなのか、一日ごとなのか、それとも一か月、一年かはわからないけど、制限時間によっては使い方次第でとても良いレベルアップなのかもしれないよ?」


 リューはようやくレベルアップした『次元回廊』の新たな性能に少し満足気に笑みを浮かべた。


「でも、それって、もし、海賊島に『次元回廊』の新機能で行ったとして、帰りは出入り口を設置した場所にのみ移動可能だけど、海賊島に物を忘れたりとかしたら取りに戻るには一時間後とか一日後、一か月、一年かかるかもって事でしょ? 凄く不便じゃない?」


 リーンが例を出して説明して疑問を口にした。


「それも使い方だよ。この機能を『簡易回廊』とでも名付けようか? この『簡易回廊』で、海賊島に移動、そこで『次元回廊』の出入り口を設置して戻ってくればいいわけだからね。不要になれば出入り口を閉じればいいわけだし。それを考えると制限があっても使い方次第でかなりの武器になるよ!」


 リューはわかりやすくリーンに説明すると、新たな能力『簡易回廊』の可能性に喜ぶのであった。



 翌日、『簡易回廊』はまた、使用できるようになっていた。


 どうやら一日に一度だけ『簡易回廊』が使用可能なようだ。


 つまり、頻繁に行く事がない東部コーエン男爵領都などは、『次元回廊』の出口を閉じておいても問題がないという事である。


 そして、必要な時にだけ、一日一回のペースで『簡易回廊』を開いて移動できるから、一日以内に往復する時だけ、『次元回廊』の出入り口を設置すればいい。


 こうしてリューは『簡易回廊』のお陰で緊急事態時の移動が、より一層楽になるのであった。

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