第535話 テスト期間終了ですが何か?
リュー達の期末テスト期間終盤の王都では、一つの噂が話題に上がり始めていた。
それは貴族内のみならず、王都民の中でも広まり始めていたから、どちらの動きにも敏感な下級貴族などは、その状況に驚いていた。
「聞いたか、アイロマン侯爵の話」
「アイロマン侯爵? 何の話だ?」
「人を使ってライバル飲食店の運搬馬車を襲わせたって話さ」
「そうなのか? でも、アイロマン侯爵と言ったらそんな黒い噂は以前からあっただろ。その度にお金でもみ消しているっていうのが有名だろ」
「それが今度の相手はランドマーク伯爵の与力貴族の飲食店だったらしくて、王家が事実確認の為に王国騎士団を動かしているらしい」
「よりによって、何でそんなところに、手を出すのかな……。ランドマーク伯爵と言ったら、『王家の騎士』の称号を与えられ、その商会も王都で今、大商会に名を連ねているところじゃないか。いくらアイロマン侯爵のところの大商会でもそんな相手に間違えたやり方をしたら、無傷では済まないだろ?」
「だから問題になっているんだよ! 完全にアイロマン侯爵側の暴走だし、今、この情報が王都中に広まり始めているから、アイロマン侯爵程の大貴族でも、もみ消せなくて大慌てらしい」
「でも、なんでそんなに噂が広まっているんだ? 普段なら大貴族相手の犯罪調査は密かに行われるのが普通だし、大事になる前にほとんどはもみ消されるだろう?」
下級貴族だからこそ、上級貴族のやり方も心得ており、鋭い指摘がなされる。
「おいおい、知らないのか? 最近、ニュース商会というところが、この手の貴族関連情報を新聞という形で路上で売っているんだよ」
下級貴族の男はそう言うと、懐から折りたたんだ新聞を取り出して、友人に渡して見せる。
「新聞で? どれどれ……。──え? この情報本当なのか……? アイロマン侯爵と裏社会の組織との繋がりまで詳しく書かれているぞ!?」
「この新聞を発行しているニュース商会というのは、最近、出来た商会なんだけどな。内容がかなり面白いから、お気に入りで毎回購入しているんだ」
「信憑性は大丈夫なのか? こんな大貴族の裏側まで深掘りした内容、逆に怪しいだろ?」
「俺も最初はそう思ったんだがな。いくつか俺も自分の情報網で確認したんだが、事実ばかりだったよ」
「『王都新聞』、か……。これどこで売っているんだ?」
「週に二回、王都内の大きな広場なら、どこでも朝から子供がベルを鳴らし、声を張り上げて売っているよ。一部銅貨六枚とかなり値は張るが、それ以上の情報が書かれている事が多いぞ。特に俺達下級貴族にとっては欲しい情報が多い」
「そいつは良い事を聞いたよ。──それにしても、貴族の情報を商売にしようと思う奴がいるとはな。さすが商人、何でもお金にしやがる」
下級貴族はニュース商会の代表を勝手にただの商人だと思って評価する。
「違いない。お陰でこっちは王都の情報についてお金を出せば、定期的に入手できるんだから、ありがたい話さ」
下級貴族達はそう評価すると、改めてその『王都新聞』を読み直すのであった。
「期末テスト終わった……」
リューは期末テスト最終日を終えた教室で、燃え尽きていた。
リーンも今回はリュー同様、テスト期間中はろくにテスト勉強が出来なかったから渋い顔をしている。
「何だ、二人共。テスト期間中ずっとそんな渋い顔してたけど、そんなに内容が悪かったのか?」
二人とは対照的に絶好調そうなランスが声を掛けて来た。
「ちょっと、勉強する暇がなくて、忙しかったんだよね……、はぁ……」
リューは溜息を吐く。
リーンも今回はさすがに出来が悪かったので、一緒に溜息を吐いた。
「これはもしかして俺が上位に食い込むチャンスか!?」
ランスは笑って二人を茶化す。
「ランス、そう言ってくれるなよ。二人は本当に仕事上の問題の対応に追われて忙しかったみたいだからな。俺とラーシュはテスト期間、休みをもらっていたから問題なかったが、リューとリーンはそうもいかなかったみたいなんだ」
イバルが二人を庇うようにランスの冗談を窘める。
「そうなのか? それなら冗談にならないな、すまん」
ランスは茶化した事を素直に謝る。
「良いんだよ、別に。──僕も部下に任せておけばいいのに、ちょっと張り切っちゃったからね……」
リューはアイロマン侯爵に止めを刺すチャンスとばかりにランスキー傘下のニュース商会を積極的に動かしてこの数日、号外を出してアイロマン侯爵の悪事を喧伝しまくっていたし、わざわざ王家への献上品を持って王宮を訪れ、その時に使用人に聞かれるように、リーンと二人で秘密の情報を話して王宮に広めるなど、細かいやり口で情報戦を展開していた。
そのせいで結局、テスト期間中はろくにテスト勉強できずに終わっていたのだ。
しかし、日頃から勉強している二人であるから、テスト内容が悪いと言っても、どの程度悪いのかはわからないのであったが……。
「二人共、テスト期間中に王宮に献上品を届けに来ていたでしょ? あれはテスト後でも良かったと思うわ」
王女リズは二人が王宮に来た事を知っていたのか、そう指摘した。
「ははは……、気づいてた? まあ、あれはあれで必要な事だったというか……」
リューはリーンと苦笑しながら応じる。
「あの直後に、とある大貴族の問題情報が流れて陛下と宰相が大慌てになっていたわ。その内容にはリュー君の名前も入っていたからそういう事なんでしょう?」
王女リズはリューが何をしに王宮に来たのか本当の目的にも薄々感づいていたようだ。
「お陰様で、王国騎士団に動いてもらって感謝しています」
リューは笑って王女リズに会釈する。
「本当にリュー君達は忙し過ぎね。でも、そのお陰でもしかしたら私が上に行けるチャンスなのかしら?」
王女リズはリューとリーンを珍しく茶化すように言った。
「「うっ……」」
リューとリーンは王女リズの言葉に言葉が詰まる。
その珍しい姿が、隅っこグループの一同にはおかしくて、みんなで大笑いするのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
「裏家業転生」3巻が、12月20日より発売中です!
書き下ろしSSなどもありますので、お楽しみに!
よろしければ、各書店でお求め頂けると幸いです!
あとお手数ですが、★の評価、ブクマなどして頂けると、もの凄く励みになります。
これからも、書籍共々、よろしくお願い致します。<(*_ _)>