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第531話 意外な二人ですが何か?

 クレストリア王家とノーエランド王家の非公式な会談は、ランドマーク家が間を取り持つ形で成功を収めたという形になった。


 それは与力であるミナトミュラー男爵家、シーパラダイン魔法士爵家の活躍あっての事であった。


 そして、その三日後にはその活躍を評価するように、王宮においてジーロ・シーパラダインの男爵への昇爵が行われた。


 これは国王も立会いの下行われたので少し異例な事であったが、さらにその場には、お忍びで非公式訪問中のノーエランド王家のエマ王女も立会う事になったから、シーパラダイン新男爵に対する両王家の期待が窺える。


 これはもちろん、エマ王女達は命の恩人であるジーロに対する感謝を込めて立ち会ったもので深い意味はないはずだ。


 ただ、ジーロは両家の友好関係再開のきっかけを作った人物として、両家から厚遇される事は間違いないだろう。


「エマ王女殿下はジーロの事どう思っているのかしら? イバルとの件もあるし」


 昇爵に立ち会っていたリューの横でリーンがひそひそと話しかける。


「うん? ──ああ。イバル君の事は初恋の相手ではあるけど、それ以上の意味はないみたいだよ? 傍付きのソフィア嬢がそう言ってたもの。イバル君も同じ事言っていたから問題ないみたい。ただ、エマ王女殿下はジーロお兄ちゃんに対してとても深い信頼を寄せているとは思うけど、それがどういった感情かと言われると難しいかなぁ」


 リューはランドマーク本領で一緒に過ごした事でジーロやランドマーク家の善良な人々に触れ、エマ王女はとても家族を信頼してくれていると感じていたが、こと恋愛においてはわからないという正直な感想を漏らした。


「私は良い雰囲気だと思ったのだけど……、やっぱりあちらは王女様だから難しいのかしら?」


 リーンがそう漏らすと、近くの父ファーザにそれが聞こえてきたのか注意するようにわざとらしく咳払いをする。


「「……(ぺこり)」」


 リューとリーンは怒られたとばかりに軽く頭を下げて謝ると、それ以降は黙ってジーロの叙爵を見守るのであった。



 まさかの両王家立会いの昇爵式が終わると、ジーロの下にはリューとリーンをはじめ、父ファーザも祝福の言葉を贈る。


 そこへエマ王女、ソフィア嬢、サール侯爵もやってきてジーロの昇爵を祝ってくれた。


 さらには王女リズもその場に残って、ジーロの下を訪れ、改めて祝福をする。


 これにはジーロも恐縮しっぱなしであったが、


「シーパラダイン男爵様、ミナトミュラー男爵様は我が国に招待して、改めてお礼をしたいと思っています。──サール侯爵、それでいいのですよね?」


 とエマ王女が述べて、サール侯爵に確認すると侯爵も頷いた。


 サール侯爵は今回、ノーエランド王家からエマ王女の保護と交渉の為に国王の代理として権限を与えられて訪問しているはずだから、その侯爵が頷くという事はノーエランド国王の判断という事になるだろう。


「ノーエランド王家に対し、クレストリア王家も使者を出す予定でいます。その時にはシーパラダイン男爵には使者団の一員として参加して頂きたいと思います」


 王女リズはそうお願いすると、親しくなったエマ王女とソフィア嬢に笑みを送る。


 ジーロは少し驚いた様子であったが、「ご命令とあれば喜んで」と、応じるのであった。



 エマ王女とソフィア嬢、そして、サール侯爵達は、クレストリア王家の申し出で数日間王都で滞在。その後、改めてランドマーク本領にリューの『次元回廊』で移動後、さらにまた数日滞在した。


 その間、ジーロとエマ王女、ソフィア嬢は友情を深めた様子であったが、それが恋愛に発展するものだったのかは、その場に居合わせなかったリューはわからない。


 そんな一同が帰国の為にサウシーの港街にリューが『次元回廊』で送り届けた日の事。


 この日は、王女リズも王家の代表として見送るという事でリューと一緒にサウシーの港街を訪れていた。


 エマ王女はクレストリア王家の配慮にとても感謝し、親しくなった王女リズに、


「私もミナトミュラー男爵と同じように、リズさんと呼んでよろしいでしょうか?」


 と、お願いした。


 リューは公式の場ではリズをちゃんと「エリザベス王女殿下」と呼んでいたはずだが、いつもの感じで気づかないうちに愛称で呼んでいたのを聞かれていたようだ。


「ええ、もちろんです。友人ですからそう呼んで下さい、エマさん」


 王女リズは応じると、自分からも敬称を付けずにエマ王女を呼ぶ。


「うふふっ。嬉しいです。リズさん」


 エマ王女は本当に嬉しそうに笑顔で応じた。


「ジーロ様、滞在期間中、私達へのお気遣いありがとうございました。ソフィアと二人、心細い期間も傍で励ましてくれた事を本当に感謝しています。──ねぇ、ソフィア?」


 エマ王女は感謝をジーロに述べると、後ろに控えめに立っていたソフィア嬢に急に話を振った。


「え? あ、はい。ジーロ様、ランドマーク家のみなさんには王女殿下の為に細心の配慮をして頂き、とても感謝しております」


 ソフィア嬢は話を振られて驚いた様子であったが、お別れの時が迫っていたからエマ王女の言葉に甘えて感謝の言葉を述べた。


「ソフィアったら、私の事はいいのよ。今は、自分の言葉で感謝をジーロ様に伝えないと」


 エマ王女はこの傍付きの親しい友人である男爵令嬢の背中を押すように言う。


 うん? え……、まさか……。そういう事なの!?


 エマ王女の行動を見て、リューとリーンは驚いて目を見合わせた。


 二人はエマ王女とジーロのラブロマンスが始まるのではないかと思っていたのだが、どうやら一歩下がってエマ王女を支えていたソフィア嬢の方が、ジーロの事を好きになっていたようだ。


 ジーロの方はどうなのかはわからないが、これは意外な展開である。


 王女リズもこれには目を見張って、リューやリーンと嬉しそうに視線を交わす。


 王女リズも他人の恋愛話には興味があるようだ。


「……私は一人王女殿下を守る為に気を張って過ごす日々を送る中、ジーロ様の優しいお気遣いに何度も救われていました……、心より感謝申し上げます……。もし、ノーエランド王国に来られる事がありましたら、その時は私が道案内しますので楽しみにして頂けると嬉しい限りです」


 絶世の美女であるエマ王女の横に立つと目立たないが、改めて見るとソフィア嬢は青色のショートヘアーに赤い目をした、化粧っ気はないが、こちらもかなりの美人であった。


 そのソフィア嬢はいつものエマ王女を守る為に気を張っている時の雰囲気はそこになく、頬を赤らめて一人の乙女になっている。


 これにはリュー達の目にも微笑ましく映り、ジーロの反応を窺う。


「あなたはいつも自分の事は後回しにして、エマ王女殿下に尽くしておられましたね。そんな王女殿下に対する忠誠心を示すソフィア嬢を僕はとても尊敬しています。そんなあなたに道案内をして頂けたらどんなに光栄な事か。その日を楽しみにしていますね」


 ジーロは屈託のない笑顔でソフィア嬢の思いに応えるのであった。


 ジーロお兄ちゃん、ちゃんとソフィア嬢の事を見ていたんだね!


 リューは内心で喜ぶと、その嬉しさのあまり、隣にいたリーンと軽くハイタッチする。


 こうしてお別れ直前で、意外な二人の関係性が深まり、エマ王女一行は帰国の途に就くのであった。

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