第530話 両国の会談ですが何か?
ノーエランド王国の王女エマとそれを迎えに来たサール侯爵はランドマーク本領において歓待されたのであったが、その二日後にはクレストリア王家からの招待で王都に向かう事になった。
もちろん、リューの『次元回廊』で、南東部の辺境から中央の王都に一瞬で運ばれるのだが、一度経験したにも拘らず、サール侯爵などは未だ半信半疑であった。
「こんな事が実際にあるなど、あり得ない……」
そこは王都ランドマークビルの前であり、サール侯爵にしたら、片田舎のランドマーク本領から王都の最先端の建物の前に一瞬で運ばれたので、そのギャップにそう言うしかなかった。
リューは驚いている間にもノーエランド王国の近衛兵やメイド、そして、エマ王女とソフィア・レッドレーン男爵令嬢と次々に運ぶ。
最後に、父ファーザと次男ジーロが到着する。
二人はエマ王女を救出、保護していたという事で、今回の両国の会談に同席する事が許されていた。
ランドマークビルの前に全員が揃ったところで、王家からの出迎えの馬車が次々にやって来る。
それらがランドマーク製というのはリューにとって誇らしい事であったが、今は自慢している場合ではない。
エマ王女、サール侯爵、お付きの人々と馬車に乗り込んでもらい、リュー達も自前の馬車で同行する。
ジーロはエマ王女の希望で一緒に同じ馬車に同乗していた。
それだけランドマーク本領での滞在で信用を得ているという事だろう。
エマ王女の周辺には常に目を光らせていたソフィア嬢でも、ジーロには信頼を寄せていたのだから、その信頼度は計り知れない。
サール侯爵もランドマーク家に二日滞在して、人たらしな父ファーザ、長男タウロはもちろんの事、次男ジーロについても非常に良い印象を持っていたが、馬車に同乗するとなると止めても良いところだ。
しかし、エマ王女の希望を聞いて、承諾していた。
「さすが、うちの家族。滞在期間中に信頼を得ているね。でも、サール侯爵は僕に対して警戒心が強いんだけど……?」
馬車の中でリューは同乗しているリーンに愚痴を漏らす。
「サール侯爵は私が見る限り、察知系の能力を擁し、人を見る目がある老獪な貴族という感じがするわ。リューの場合、裏の気配を感じているから、『次元回廊』も含めて警戒しているんじゃない?」
リーンが察知系が得意な人物と判断してそう批評した。
「そうなの? うーん……、僕、悪いスライムじゃないよ?」
リューは昔やった某ゲームの台詞を口にする。
「スライムに良いも悪いもないと思うけど、色んな顔を持つリューに対してサール侯爵が警戒するのも仕方ないんじゃない?」
リーンは時折リューが口にする理解不能な台詞の一つだと理解した上で、答える。
リューはその答えに苦笑してから、リーンのいつもの対応に落ち着くのであった。
一行の馬車は王城に入っていく。
そして、エマ王女をはじめとしたノーエランド王国の人々、続いてランドマーク家、関係者達と続いて王宮内に案内された。
リュー達はよく王宮には来ているので、結構慣れたものであったが、エマ王女とソフィア嬢、サール侯爵達はさすがに緊張している様子だ。
他国の王家との会談だから仕方がないだろう。
それにクレストリア王国とは疎遠になっていた上に、非公式な訪問である。
今後の関係性も考えると緊張も当然であった。
貴賓室でしばらく待機していると、そこに国王以下宰相、リズ王女がやってきた。
これにはエマ王女やサール侯爵は意表を突かれたのか、慌てて立ち上がり出迎える。
「ようこそ、お出でくださった、エマ王女殿下。この度は非公式な招待だから、こういった形で会談をさせてもらうが、よろしいですかな?」
クレストリア国王が、直接、エマ王女に声を掛ける。
「お気遣いありがとうございます。こちらもクレストリア王国に非公式な訪問をする事になった身です。そんな私の身の安全まで保障して頂き感謝しております」
エマ王女は国王に会釈すると感謝を述べた。
「いえ、我が領海に海賊が縄張りを持って活動していた事はこちらの不手際です。ご迷惑お掛けしました。──そうだ、こちらの情報は少し古くてですな……。ノーエランド王国内の内紛はとうに収まり、今は安定していると考えてよろしいのでしょうか?」
宰相が、国王に代わりエマ王女に謝罪すると、続けてその横に立っているサール侯爵に視線を向けて確認する。
「ええ。現在は国内も安定し、交流が途絶えていた国々とも関係の再開を目途に動いているところです」
サール侯爵はその辺りは包み隠さず、答えた。
そのやり取りの間、リューとリーン、父ファーザ、次男ジーロは蚊帳の外である。
時折、国王の横に立っているリズ王女がリュー達に視線を送って微笑んでいた。
「……余裕があるなぁ、さすが、リズ」
リューは王女リズの行動に笑ってリーンにつぶやく。
国王とエマ王女はその後も会話を重ねて和やかな雰囲気になってきた。
そこでリューとジーロの話が会話の中に再浮上してきた。
「ミナトミュラー男爵、シーパラダイン魔法士爵、そして寄り親であるランドマーク伯爵には大変お世話になりました。クレストリア王家はとても素晴らしい家臣をお持ちですね。お陰で私とソフィア嬢の命が助かりました。改めて感謝いたします」
エマ王女がそう言いながら、リュー達に視線を向ける。
「我が娘エリザベスの学友でもありますが将来が楽しみな若者達なのです。今回、海賊討伐に他国の要人救出と無双の活躍をしてくれた事で、こうしてノーエランド王家の方とまた、非公式ながら会う事が出来た事はとても良かった。──宰相、どういう評価が良いと思うか?」
国王は日頃から買っているランドマーク伯爵家一派の活躍に満足な笑みを浮かべると、宰相に確認する。
「ははっ。報告ではこの度の活躍の中心はシーパラダイン魔法士爵だったとの事。先程のエマ王女殿下からのお話からも魔法士爵の活躍は明らかですので、この機会に準男爵への昇爵がよろしいかと思います。その上で、ミナトミュラー男爵の活躍と王家に代わりエマ王女殿下を保護してくれたランドマーク伯爵には金品の授与でいかがでしょうか?」
「……ふむ、そうさな……。──この度の活躍はもちろんの事、両国の縁を取り戻すきっかけになった事は、非常に大きい働きである。男爵まで上げても文句を言う者はおるまい」
国王は宰相の控えめな評価から一転、次男ジーロを一つ飛びの評価をした。
それに、国王にとって次男ジーロは初めて面会した時からのお気に入りでもあったから、今回の活躍は当然と思っていた。
まぁ、宰相も国王に花を持たせる為に控えめに評価して見せた側面もあったのだ。
その辺はノーエランド王国王女の立場を尊重しての評価でもあった。
控えめな評価だとエマ王女の命はそんなに軽いのか? ともなりかねないし、高過ぎてもクレストリア王家の権威が軽く見られる。
国王と宰相のやり取りはその辺りも計算してのさじ加減であった。
こうして、リューの狙い通り、次男ジーロの男爵への昇爵が叶い、そして、両国間の友好関係が改めて結ばれるきっかけになるという最高の形でこの会談は終えるのであった。
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