53話 完成ですが何か?
学校の設立が完了したリューは次の事案に移っていた。
長旅に必要な馬車の地面から伝わる衝撃を緩和する為の改造だ。
職人達を集めてリューが描いた設計図を元に技術的に可能なレベルに仕上げていく事にした。
リューが考えたのは馬車の車輪部分と車箱(人が乗る部分)を別にして、前後4か所をアーチ状の衝撃を緩和する鉄と木製のフレームに車箱を吊り上げる構造だ。
もちろん車箱と車輪の間にも鉄製のスプリングと木製の弓型の簡単なサスペンションを入れる。
これで、上からの人や荷物の重さを緩和し、下から上への衝撃を抑える。
問題は強度面で実際作ってみて確かめなければならない。
職人達はリューのこの提案に目を輝かせると喜々として作り始めた。
これが完成すれば、史上初の馬車になる確信が誰もにあったからだ。
それくらい、リューの提案した馬車は革新的だった。
リューにすればサスペンション有りきで最初から考えたので出てきた案だが、現在の馬車の構造から考えたら中々思いつかないものだろう。
それだけに職人達にすると、この十歳の領主の息子は天才に映っていた。
新型の馬車の製作と共に、リューはもう一つ、馬車よりは簡単なものを考えていた。
手押し車とは別の利用目的を持った2輪の引き車「リアカー」である。
手押し車は1輪車ならではの小回り、機動性を持っているが、リヤカーは小回りは利かないが安定感がある。
これは、リューが土魔法の鉄精製で形を作ると、車輪を付けてすぐに職人達にみせた。
これは、物珍しくなかったようで、何となくみんな思いついていたようだった。
が、形にしている物は木製で重く、ほとんど広まる事なく終わっていたので、すぐに商業ギルドに登録する事にした。
今更人が引かずとも馬に引かせればよいと思うところだったが、わざわざ馬に引かせる事も無い力仕事や、そもそも馬が無い者にとっては人力以外にないので、鉄で骨組みを作り、薄い板を貼っただけに軽量化されたリアカーは魅力的に映るはずだ。
リューはこれもすぐに商品化させて商人に宣伝して貰った。
予想に反して街ではあまり売れなかったが、これは、主に農村部で売れる事になった。
やはり、馬や牛の様に餌を必要としないで軽い力で引けるリアカーは魅力的に映ったのだ。
「うーん。街では何で売れないのかな?」
リューが原因を考えていると、リーンがひとつ指摘した。
「街は狭くて道は馬車が通るから、リヤカーは場所を取って邪魔になるんじゃない?それなら、今まで通り小回りが利く手押し車でいいもの」
そう言われて、リューは前世の物に例えてみた。
「それは、日常で普通車と原付の使い分けをしてると、今更、軽自動車はいらないって事だね!」
「ケイジドウシャ?よくわからないけど納得したなら良かったわ」
リーンはリューの説明を理解できなかったが、聞かない事にした。
リヤカーは静かに農村部で火が付くと行商人達の間でも、流行しだした。
馬車を借りるお金は無いし扱う商品も多くないが、リヤカーなら丁度、商品が多めに運べて元が取れるから便利と話題になったのだ。
各地を行き交う行商人の実践込みの口コミで、より一層、村々に広まる事になる。
馬車は試作品が出来たがうまくいってなかった。
車箱を支えるフレームが鉄がメインだとコスト的にも技術的にも厳しいという話になったのだ。
そこで、木製フレームに変更、鉄板でそのフレームを補強して車箱を支える形に変更した。
その車箱を支えるサスペンションは板バネ方式を取り入れた。
板バネを何枚か重ねて両端をボディーにつなぎ、弓なりとなった板バネの中央に車軸を固定する構造で衝撃を吸収するものだ。
これは、最初に考えていたスプリングを、職人に提案したのだが、今の技術では無理だと判断された結果、絞り出したものだった。
そういった試行錯誤の末、『乗り心地最高4号改』(仮)が完成した。
リューのネームセンスは置いておいて、職人達の技術とリューの知識が詰まった馬車に父ファーザと母セシル、そしてリューが一緒に乗り込むと街を走らせてみた。
「おお!衝撃がほとんどないじゃないか!」
ファーザが驚いた。
木製強化フレームの吊り上げ式と板バネで大きい衝撃は吸収されていた。
散々王都との往復を体験した父の発言だ、これ以上の評価は無い。
「本当に乗り心地が良いわね!振動が柔らかいもの」
セシルも今まで突き上げるような衝撃をクッションで誤魔化していたので感心しきりだった。
二人とも満足してくれたので、リューはそのまま商業ギルドに向かうと特許登録するのだった。