第514話 帰って来ましたが何か?
サウシー伯爵領の宿泊施設で一泊し、朝一番でシシドー達がエリザの街に戻るのを見送ると、リューはそこからすぐにランドマーク本領に『次元回廊』で訪問した。
そして、迎えに出てきたジーロにエマ・ノーエランド王女とソフィア・レッドレーン男爵令嬢の私物である装飾の数々を渡す。
「僕から渡すのかい?」
ジーロはおっとりしたいつもの口調で応じる。
「うん。ジーロお兄ちゃんが今回の立役者だからね。その締め括りだと思ってちゃんとお兄ちゃんの手から二人に渡してね?」
「わかったよ。ランドマーク本家の発展の為にもシーパラダイン家も頑張らないといけない立場だからね。リューの提案に乗るよ、ありがとう」
ジーロはリューの目的が自分の為である事を理解すると、ランドマーク家の両輪の一つにならないといけない事を理解していたから、リューの案を承諾し、感謝するのであった。
リューは、最後の仕上げを見届ける事無く、リーンとスードを連れて王都に戻る。
すでに学園を数日休んでいたからだ。
ちゃんと、学園側には数日休む事はあらかじめ申請して認められているが、休み過ぎて良い訳がない。
だからリュー達はランドマークビルまで戻ると、そのまま学園に通学する為に馬車に乗り込むのであった。
学園に到着したリュー達は数日ぶりの友人達に迎えられた。
「リュー、リーン、スード三人ともおはよう。ようやく戻ってきたか」
先に教室にはシズとナジンがおり、ナジンが先に挨拶した。
「……みんな大丈夫だった? お仕事大変だね……」
シズが三人を労って優しい言葉を投げかける。
みんなと学園には領主としての仕事が立て込んでいるので休みを取ったという形にしてあった。
まさか南西部地方で海賊討伐を行っていたとは誰も思わないであろう。
そこにランスやイバル、ラーシュが教室に続々入って来る。
「お、リュー達戻って来てたのか! やっぱり、リュー達がいないと学園生活も物足りないよな」
とランス。
「ランスはそんな事言って、実際は僕達の事忘れていたんじゃないの? はははっ!」
リューはランスに軽く冗談で応じた。
「部下の俺達としては、上司が留守にしている間、忙しかったけどな」
とイバルが意味ありげに言うと、兎人族のラーシュもそれに同意するように頷く。
「二人共ごめんね。こっちもちょっと忙しかったんだよ。その分、ちゃんと結果は残せたと思う。──今日から滞っている仕事はちゃんとやるから許して」
リューは部下であるイバルとラーシュに拝むような素振りで許しを請う。
「はははっ、冗談さ! こっちは忙しかったが、みんなでちゃんと協力してこなしていたから大丈夫」
とイバル。
「商会の方はノストラさんが忙しいとぼやいていたこと以外は、あまり問題無いです」
とラーシュが応じる。
「それなら良かったよ」
リューが笑顔で安堵していると、そこに王女リズが登校してきた。
「「「リズ、おはよう」」」
「みんな、おはようございます。──あ、三人は今日からまた、登校してきていたのね。ご苦労様」
王女リズはリュー達にすぐ気づいて笑顔で三人を労った。
「あ、リズ。ちょっと耳に入れておきたい事があるのだけど……、いいかな?」
「? 何かしら?」
リューが神妙な顔つきになって言うので、リズも笑顔から一転して応じる。
「リーン、ちょっと魔法をお願い」
リューはそう言うとリーンが教室の隅っこグループの席辺りの一部に防音魔法を唱えるのを確認する。
そして続けた。
「実は……、他所の国の王女様が今、このクレストリア王国に滞在しているんだ」
「え? ……私の下にはそのような報告は来ていないのだけど……。どこの国の王女なのかしら?」
王女リズは首を傾げると、興味を惹かれたとばかりにリューに顔を近づけて聞く。
リーンとスードはその二人の口元を隠すように壁になる。
「……それが、隣国ノーエランド王国のエマ王女様なんだよね」
「ノーエランドの? あの国とは、国交はあったけど、今では疎遠になっていたはず……。大使館も閉鎖されていて動向はわかっていないの。でも、エマ王女の名は聞いた事があるわ。確か、私達より年齢が二つ上で第二王女だったかしら?」
王女リズは少ない情報ながら、エマ王女の存在をちゃんと知っていた。
「そのエマ王女様をランドマーク本領の方で保護しているんだ」
「保護?」
リューは簡単に海賊討伐とその捕虜になっていたところを救出した事など説明した。
「……リュー君は、本当にいろんなところで驚くような事をしていますね」
王女リズはこの赤い髪の友人が、知らないところで英雄のような活躍をしている事に感心する。
「今回はジーロお兄ちゃんが活躍したんだけどね? ──それでなんだけど──」
「私がそのエマ王女の国内滞在における安全を保障すればよいのですね?」
王女リズはすぐにリューの言いたい事を理解して答えた。
「──なにしろ今は、王女様に付き添うのはメイドの男爵令嬢の一人だけだからね。国交があるとはいえ、疎遠になっている国で自国との交渉材料に使われはしないかと不安になっているようだから。王家が安全の保障をしてくれたら助かるよ」
「──わかりました。私が父に直接話をしておきます。ノーエランド王国は王都から遠い事もあり、疎遠にはなっていますが、南部王家直轄地であるエリザの街が出来た事で、改めて国交回復したいと思っていた国のひとつです。ランドマーク家は丁重に扱ってくれていると思いますが、エマ王女殿下の事をよろしくお願いします」
王女リズは友人の顔から王女の顔になるとリューにお願いした。
「うん! お陰で一つ肩の荷が下りたよ」
リューはホッとして答える。
「一つ肩の荷が下りたついでにもう一つ、大きな荷物があるのを忘れていませんか?」
王女リズが、今度は友人の顔に戻ってリューに聞き返す。
「大きな荷物?」
リューはわからず聞き返す。
「リュー君が提案した生徒会主催の総合武術大会の事です」
「あ! 忘れてた!」
王女リズの指摘に日程が迫っている事を思い出すリューであった。




