第513話 全ては計画通りですが何か?
リューはサウシー伯爵領の宿泊施設にソフィア・レッドレーン男爵令嬢と一旦戻ると、エマ王女に安全を報告、今度は一緒にランドマーク本領に『次元回廊』で移動してもらった。
次男ジーロにも一緒に移動してもらい、エマ王女の護衛として傍に居てもらう。
部下のザンとその他の部下には、サウシーの港街からシーパラダイン騎士爵領に戻ってもらう事にした。
リューはサウシー伯爵に兄ジーロが用事で先に帰路についた事を知らせ、部下であるシシドー達が海賊島から戻るのを待つ。
シシドー達はリューの命令で海賊島の事後処理を行っていたが、半日でそれも済ませ、夕方にはサウシーの港街へと戻ってきた。
「サウシー伯爵、それでは海賊島で接収した戦利品の分配も終わりましたし、後を任せてよろしいでしょうか? 一応、うちの部下も連絡員としてここに数名おいて行きますので」
リューは領主邸で歓迎ムードの中、そう申し出た。
「ミナトミュラー男爵、もうお帰りになるのですか? 男爵にはこちらの事を配慮して頂き、奪取した大型船三隻も譲ってもらえて感謝しかないですからな。準備が出来次第、その感謝の為のパーティーを開こうと思っていたのですが」
サウシー伯爵はホクホク顔で応じた。
サウシー伯爵は領兵隊を出したのでそれなりの分配をしてある。
それに海賊襲撃によって港を放火され、大型船はことごとく焼かれてしまい、被害が大きかったから奪取した大型船三隻全てはサウシー伯爵に所有権を譲ったのだ。
大きな船は建造費がとても高く、それだけでかなりの財産であるから、満面の笑みで喜ぶのも仕方がないだろう。
海賊島には大型船の他にも中型船が五隻、小型船が二十隻ほどあったが、ナナシー一家に中型船を報酬の一部として一隻渡している。
残りはシーパラダイン家の所有としてサウシーの港に停泊させる権利ももらっていた。
リューはというと、海賊島にあった戦利品をかなり貰っている。
船を報酬としてもらわなかったのは、単に次男ジーロとの住み分けをはっきりさせる為であった。
シーパラダイン軍事商会には海上にも力を持ってもらう為に、元海賊船長のヘンリーを付けたのだ。
自分はそれを今回のように雇う形でお金を出し、利用させてもらう形でいい。
それに戦利品の中には、エマ王女とソフィア嬢の私物もあったので、それを回収しておく為でもある。
だから最初に一番の活躍をしたリューが戦利品の中から半分を頂く時に、エマ王女の私物である首飾りや指輪などの高価な品を先に選んだ。
それらは全て、無償でエマ王女とソフィア嬢に返却するつもりだから、最終的なリューの利益は少なくなりそうなものだが、実のところ救援依頼の報酬もサウシー伯爵から出ていて、結構な額を貰っていた。
その一部はもちろん、シーパラダイン軍事商会への派遣報酬になるのだが、それに今回は一番の活躍したのはあくまでジーロとその部下という事になっている。
実際、ジーロの部下達は一番活躍していた。
特に海戦では大型海賊船を沈めるのに、リューが考えた小舟で突っ込んで炎上させる捨て身の作戦を実施してくれたから、その活躍は一目瞭然だ。
さらに、海賊島戦は、リューとジーロの部下だけで行ったのだから、その場にいない者には誰が活躍したかなどわからない。
そこでもジーロの部下達が最初に上陸したのは事実であり、戦功も一番だとリューが証言している。
ここまで次男ジーロにリューが戦功を譲ったのは最初からそのつもりだったからだ。
この海賊討伐は、ジーロのシーパラダイン軍事商会の初陣だったから、当然、華々しい活躍をさせる為に今回の作戦も練ったし、実際、そうなった。
海賊島を攻める時は、こちらの被害を抑える為に前もって攻撃魔法が得意なリューとリーンが敵の戦意をくじいた状態で攻め込んだが、最終的にはジーロの部下ザン達の速やかな上陸と制圧のお陰だと思っている。
あとでヘンリーが降伏しようと白旗を振っていたという証言を聞いたが、それは聞かなかった事にしていた。
それだと、ジーロ達の活躍が無駄になるからだ。
こうして、リューの作戦で海賊討伐最大の功労者はジーロとシーパラダイン軍事商会であるという実績を作って、終了したのであった。
これにより、サウシー伯爵にはジーロの昇爵について王家への推薦をしてもらう。
もちろん、海賊討伐により、捕らえれた人々の解放という美談も付け加えてだ。
さらにリューはもういくつかの手柄も次男ジーロに渡すつもりで話を進めている。
一つはエマ王女の私物を取り戻し、返却する役目をジーロに任せる事。
もう一つは、そのエマ王女とソフィア嬢を国から迎えにくるであろう者にジーロの手によって安全に引き渡す事。
その上で最後に、そのエマ王女とソフィア嬢の命を救った事を公式に発表して英雄として評価してもらう事である。
これによりエマ王女の祖国であるノーエランド王国からも公式にジーロを称賛してもらえればクレストリア王国もジーロの昇爵に前向きに対応してくれるだろうとリューは考えていた。
「また、悪い顔してるわよ。リュー」
リーンはリューが何か企んでいるのがわかって指摘する。
リューはジーロの昇爵の為の作戦をリーン達に全て説明した。
「……確かに、リューの言う通りに上手くいったら、ジーロの昇爵も確実ね」
リーンも納得する。
実際、このうち半分は達成し、あとはエマ王女に関わる事だけであったから、ほぼ筋書き通りにいくだろうと思えた。
「さすが主です!」
領主邸から宿泊施設に戻る馬車の中、スードがリューの計画を絶賛するのであった。