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第511話 正体ですが何か?

 サウシーの港街に戻ったリュー達の船は、先に戻っていたサウシーの領兵隊、ナナシー一家をはじめ、この海賊との決戦の行方を心配していた領民達に出迎えられた。


 海賊に囚われていた人々の中には、サウシーの港街の関係者もいたから、その人達を中心に輪が出来て涙を流す者もいる。


 そこへ領主であるサウシー伯爵が訪れ、リュー一行を絶賛した。


「ミナトミュラー男爵、シーパラダイン魔法士爵、領兵隊長から報告は聞きました。よくぞ海賊を討伐してくださった、ありがとうございます! それで、海賊のアジトでの戦果はどうでしたか? 捕虜がいないところを見ると、殲滅されたのですか?」


「はい、船上から魔法攻撃でアジトを攻撃、大ダメージを与えた後に上陸しましたが、残った海賊も抵抗したのでことごとく斬り捨てました。そして、海賊のアジトに溜め込まれていた戦利品も全て回収したので、先のお約束通り、報酬を差し引いた額を決められた割合で分配しようと思います。あ、それよりも今は、海賊に囚われていた人々の処置が先でしょう」


「おお! さすがミナトミュラー男爵! これでサウシーの港街は救われました、ありがとうございます! もちろん、戦利品は後で結構です。囚われた人の中には交易相手の商人や、船旅をしていた富豪も含まれていますからな。私もそちらを優先させる事に不満はありません。早速、人を派遣して無事を知らせましょう」


 海賊が人々から奪った戦利品は、奪い返した者の報酬になる。


 なぜなら奪われた時点で、自分のものではなくなるからだ。


 その中で貴重なもの、大切なものがあるならば、奪われた本人が改めてお金を出して買い戻すというのが通例である。


 それにこういった損害は大体、船を対象にした保険から被害は補填されるのが常であったから、保険料をケチった一部の者だけが大損害を被る事になるのであった。


 囚われていた人々もまた、そんな損害を被った被害者であったが、今は命があった事、そして、身代金を支払わずに済んだ事を喜ぶべきだろう。


 海賊の大きな報酬には、積載された荷の奪取よりもこういった身代金の方が大きな儲けになる場合が多い。


 なにしろ荷物の内容によっては、海賊には全く旨味がないからだ。


 海賊が荷物を売りさばくには限界があるから、大体はその船の船長や搭乗していたお客の質によって儲けが変わる。


 貴族が乗っていればラッキーだし、富豪も大当たり。


 一番、旨味が無いのはお金のない密航者だが、その場合は奴隷として他に売り飛ばし、多少のお金にする。


 だから、囚われた人々はそうならないように、自分の実家がいかに資産があるか説明して身の安全を確保するというのが通例であった。


 そして必死に身代金の額を海賊と交渉し、自国の家族からそれを支払って貰う形になる。


 だから、多額の身代金を支払わずに済んだ人々は、幸運であった。


「イメーギ伯爵のご令嬢とそのメイドを務めている男爵令嬢の身柄はこちらに任せてもらってもよろしいでしょうか?」


 リューはジーロと視線を交わすと、サウシー伯爵にお願いした。


「貴族のご令嬢が囚われていたのですか!? それは知りませんでした。──それにしては聞かない名ですね……」


「本人もあまり公にしたくないという希望があるようです」


 リューは意味ありげに告げる。


「……なるほど、女性ですからな。色々あったのかもしれませんし、その気持ちは想像に難くない……。──わかりました、その貴族のご令嬢方はミナトミュラー男爵とシーパラダイン魔法士爵にお任せします」


 サウシー伯爵は紳士として女性の身に何か起きた事を想像して、深く追及せずにリューとジーロの二人に任せる事にしたのであった。



「イメーギ伯爵令嬢、そろそろお話し頂いてよろしいでしょうか?」


 サウシー伯爵が用意した宿泊施設に馬車で移動してる際、ジーロがイメーギ伯爵令嬢のエマとレッドレーン男爵令嬢のソフィアに、話を切り出した。


「……話とは何の事でしょうか?」


 仕えているエマ嬢に代わってメイドであるソフィア嬢が答える。


「お二人の身元保証人には僕達がなったので、本当の事をお話し頂けますか? そうでないとこちらも正直扱いに困ります」


「エマ様は伯爵令嬢です、それ以上でもそれ以下でも──」


「ソフィア、もういいのですよ。この方々は信用出来ると思います。それに命の恩人にこれ以上嘘を吐く事には気が引けて心苦しいです……」


 エマ嬢はそう言うと、うつむいた。


「……わかりました。──ですが、この馬車内ではどこに情報が漏れるかわからないので静かにお話ができる場所でよろしいでしょうか?」


 ソフィア嬢は慎重に言葉を選ぶと答えた。


「ええ。こちらのリーンは一定空間の音を遮断する魔法が使えるので、今向かっている宿泊先でお話しいたしましょう」


 ジーロは同乗しているリュー、リーンと視線を交わして答えるのであった。



 宿泊先に到着すると、御者席に座っていたスードが馬車の扉を開けて、全員を下ろした。


 一行はすぐ宿泊施設の一番大きな部屋に通される。


「リーン、お願い」


 リューが言うと、リーンは頷き魔法を唱えた。


「……これで外部に音は漏れません。お疲れのところだとは思いますが、どうぞお話しください」


 ジーロが早速、進行した。


「それでは私が、エマ様に代わって説明いたします。──エマ様はイメーギ伯爵令嬢ではありません。いえ、イメーギ伯爵という貴族名はある方々が身分を隠す時に使用する名で、表向きは実在している事になっています。……つまり、エマ様はその名を使ってお忍びのご旅行中でした。その途中、海賊に襲撃を受けて囚われたのです」


 ジーロはまだ、どこまで話して良いのかわからない様子でこちらを探りながら話すソフィア嬢から目を離さない。


 その目は優しく見つめており、そんなソフィアを励ますようでもある。


 リューとリーンは次男ジーロに任せておいた方が良いと思って、沈黙を守った。


 ジーロの優しい視線に励まされたのか、ソフィア嬢は背中を押された気分になり、本題を語り始める。


「……このお方は、第八代国王ステファン・ノーエランドの第二王女エマ・ノーエランド様です」


 ジーロとリュー、リーンはこのソフィア嬢の突然とも思える重大発言に全く動じなかった。


 というのも、リューがこのエマ嬢に対して友人であるリズ第三王女と同じ高貴な雰囲気を感じて薄々わかっていたからだ。


 リーンもそれは同じでジーロも二人からの言葉で納得していたから、ソフィアの発言から、やっぱりだったかと納得するのであった。

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