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第509話 占拠しましたが何か?

 海賊のアジトであった海賊島の要塞部分は、リュー達の圧倒的な火力の前にかなりの部分が破壊尽くされてしまった。


 と言うのも海賊達はすぐに降伏する為、白旗を振ったのだが、爆炎の煙の中ではすぐに気づいてもらえなかったのだ。


 だからリューとリーンは海賊が最後まで抵抗するつもりなのだと判断して容赦なく魔法を駆使して攻撃を続けていたのだが、最初の方の攻撃で防衛機能はあっという間に失われていたから抵抗出来ようはずもなく、とにかく逃げ回っていた海賊達はその奥底に圧倒的な恐怖を植え付けられる形となった。


 すでに日は落ち、時は深夜に差し掛かっている。


「消火活動は済んだみたいだね。──それで、捕虜の中にヘンリー・ストーロはいるかな?」


 リューは海賊島の住居になっていた島の反対部分に、捕虜を全員避難させていたのでそこで今回の当事者を探した。


「……俺がヘンリー・ストーロだ」


 火で一部燃えたボロボロの水夫服に煤で汚れた顔の男が、縛られた状態で声を上げた。


 リューは海戦の時に一瞬だけ見かけた船長らしき男とヘンリー・ストーロを名乗る男の面影が似ている気がした。


 リューは生活魔法の水でその顔の煤を簡単に洗い流すと、じっくりその顔を確認する。


「……うん。本人みたいだね。意外に良い目をしているなぁ……。──ジーロお兄ちゃんどうしようか?」


 リューは海賊島の完全占拠を指示して傭兵隊を指揮していたジーロに処分の確認をする。


「まずは雇い主をしゃべってもらわないとね。処分はその後だよ」


 ジーロはリューの言いたい事が何となくわかったが、先に肝心な話をする。


「……俺はどうせ海賊行為を指示した者として縛り首は免れない。雇い主を庇う義理はないが、墓場までその名は持っていく。それが俺の最後の意地だ……。それにこっちにも交渉材料はある……。貴様達だけでは隠している人質は見つけられないぞ!」


 ヘンリー・ストーロはそう言うと、自白しない姿勢を示し、人質の命をチラつかせた。


「ここの海賊島を占拠したのは、僕達兄弟の傭兵隊だけだから、いくらでも報告を変える事は出来るんだけどなぁ……。そっかー、部下を助ける気はないか……、それは残念。それに、人質については救出要請受けてないから別に関係ないしなぁ」


 リューは意味ありげにそう言って嘆息すると、ヘンリー・ストーロの顔をちらっと見る。


 人質の事は当然ハッタリだが、現在、リュー達の魔法攻撃から生き残って捕虜になっている海賊達は、五十名余り。


 意外に多くの者が助かっていたが、焼死した者も多い。


 情報よりもこのアジトにいた海賊の数が多かったという事だろう。


 だが、それは情報より多かった分は誤魔化せる事を意味する。


 リューは、このヘンリー・ストーロの船乗りとしての腕を評価していたから、雇い主を証言すればその代わりに命を助けてもいいと考えていた。


「……馬鹿な!? 人質の命が関係ないだと!? この外道め……! ……もし、証言すれば、人質とここにいる部下は助けてくれるのか? どうなんだ!?」


 ヘンリー・ストーロは、根っからの悪人ではないのか、本当は自分の側の交渉材料であるはずの人質と部下の命を救う事を前提に交渉に出た。


「内容にもよるけど、入手した情報よりここの島にいた海賊の数が多いんだよね。その分を差し引くと君達は存在していない事にしてあげる事は出来るかもしれない。──ただし、そっちの条件にもよるけどね?」


「せ、船長……」


「お頭……」


「し、死にたくねぇ……」


 捕虜の縛り上げられている海賊達はボスであるヘンリー・ストーロに一縷の望みをかける。


「……隠し部屋の奥に海賊行為で拉致ってまだ、身代金が支払われていない人質が二十名程隠してある。それを助ければあんたらは命の恩人だ、特別報酬ももらえるはず。それプラス俺が持っている雇い主の情報でどうだ……? これで、こいつらだけでも命を助けてくれないか?」


 ヘンリー・ストーロは覚悟を決めているのか自分まで助かる気はないようだ。


 というより、海賊の親玉として自分だけは縛り首は免れないであろう事は重々承知している。


 だから、発見されていない人質を交渉材料とし、部下の命を助けようと動いた。


「命は助けてもいい。でも、さっきも言ったけど、情報内容によるし、こちらにも条件がある。それを書面にするから、それに目を通して納得できたらサインしてくれるかな?」


 リューはそう言うと、リーンに頷いて書類の用意をお願いする。


「船長、ちょっと待て! 雇い主の情報は墓場まで持っていくのが条件だったはず! それを破ったら契約違反だぞ!」


 捕虜の中に、ヘンリー・ストーロの部下ではない者が混じっており、その者がこのままでは裏切りそうな船長を問い質した。


 多分、雇い主から送られてきた監視役だろう。


「……スード君。今、発言した人と、ヘンリー・ストーロを焼け残った離れの家に案内してあげて」


「はい、主!」


 スードは短く答えて応じると、縛り上げられている監視役とヘンリー・ストーロを立たせて離れの家に移動させる。


 その連行される間、監視役はヘンリー・ストーロの裏切りを激しく罵倒し、契約を守れと責め立てていた。


 だが、その声も遠ざかっていき、離れの家の中に連行され、そこにリューとリーン、ジーロも入っていき、しばらくすると微かに聞こえたその声も止んだ。


 室内で何が起きたのかわからないが、縄を解かれたヘンリー・ストーロが離れの家から出てきた。


 その姿は血で汚れていたが、どうやら返り血のようだ。


 捕まっていた海賊達は船長であるヘンリー・ストーロがリュー達を殺したのかとざわついたが、室内からリュー達も出てきたからどうやらその心配はないようだった。


「これでヘンリー・ストーロは死んで、ここにいるのは、ただのヘンリーです。そして君達の命は僕が預かる事になりました。残念ながら海戦で捕まった彼らの縛り首は免れられませんが、君達はどうしますか? ヘンリーの嘆願で君達の命を助ける事は出来ます。その代わりうちの部下になるか選んで下さい。嫌な人は、もう、海賊行為をしないと誓約して頂き、その後解放します」


「……船長はどうなるんで?」


 海賊の一人がボスであるヘンリーの今後について聞いてきた。


「俺はこの方に仕える事になった。お前らにはそれを強制しない。聞いた通り、お前らの命は保証してもらったから、故郷に帰りたい奴は帰れ」


 ヘンリーがジーロを指差して答えると、海賊達は目を見合わせた。


 縛り首から一転、命が助かったのは嬉しいが、故郷に帰っても、食い扶持が稼げなければ、また、海賊業に身を落とす事になるだろう。


 頼りになるのはボスであるヘンリーだけだったから、彼らは身の振り方を迷うのであった。


「……俺はボスに付いて行きますぜ!」


「俺も……」


「故郷に戻ってもつま弾きに遭うだけだしな」


「自分もだ!」


 ほとんどの海賊が縛られた状態で声を上げていく。


 一部の者は大事な家族がいて故郷に帰りたいという。


「四十人くらいか……。じゃあ、残りの帰りたい人は、中型の船を一隻渡すからそれに乗って帰ってください。そして、当面の食料や水、生活費も出して上げるよ」


 リューはヘンリーとそういう交渉もしていたのだろう、あっさりそう告げると、ジーロが部下にその準備を命令する。


「それでは残りのみんなは、ジーロ・シーパラダイン商会の部下としてこれからは働いてもらうのでよろしく」


 リューはそう告げる。


 しばらくすると東の地平線から、朝日が昇り、リュー達を照らし始めた。


 ヘンリー達はそのリュー達に忠誠を誓うように、跪くのであった。

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