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第508話 降伏させますが何か?

 敵の大型海賊船三隻は、リューの戦術によって、火の海に包まれていた。


 この時代、大型の船はとても貴重な財産だったから、敵船でも拿捕して再利用するのが通常だったが、リューは敢えて、人的被害を出すくらいなら、燃やしてしまうという選択を取った。


 これは敵の海賊も船乗りとしての常識を覆す戦法だったから、対応できずに炎上する船を諦め、海に飛び込まざるを得なかった。


 リュー達はそんな海に飛び込んだ海賊達を中小の船で、捕らえて回る。


 だが、敵も泳ぎの達者な者達ばかりだ。


 捕らえようと寄ってきた小舟を下からひっくり返し、水夫を海に落とすと、船を奪い逃げる者達も現れた。


 数隻の船がリュー達の船団から離れ、群島のある海域へと逃走を試みる。


「若! 予定通り、船を奪った海賊がアジトに向けて逃げ始めましたぜ!」


 シシドーがリューの乗る中型の船に自分の船を寄せて報告する。


「じゃあ、作戦通りここはシシドーとサウシー伯爵の領兵隊とナナーシ一家に任せるよ」


「へい! 残った海賊の捕縛は俺達に任せてください! それではお気をつけて!」


 シシドーはそう言うと、リューと船を焼くのに活躍したシーパラダイン兵の乗る船団に海路を譲る。


 リューとリーン、スードが乗った船とジーロが乗った船を先頭に、百名程が乗船している中小の船団が逃げる数隻の船を追って群島の複雑な海域に入っていく。


 群島には大小無数の無人島が存在する。


 その為、海流の流れが複雑で初見の船が座礁する事はよくある事で、地元の漁民でさえ余程の事がない限り、奥に分け入ろうとはしないところだ。


 その複雑な海路を海賊の残党達は奪った小舟を操って通り過ぎていく。


 リュー達もその進んだ後をしっかり先頭のリーンが見極め、座礁しそうなところは、後続に警告する。


「ここから急に左舷の方が浅瀬になっているから、後ろは気を付けて!」


 その声が、続く船団に逐一伝言ゲームのように伝わっていく。


「……よし。今のところ脱落する船はいないみたいだね。あとは逃走中の海賊だけど……」


 リューは後続の船を確認すると正面を向く。


「この複雑な海域をよくあんな大型船で通れるものですね……」


 スードが、船酔いしたのか青ざめた顔で感想を漏らす。


「それだけ腕が立つ連中って事だろうね。──あ、どうやら着いたみたいだよ」


 リューは追いかける海賊の小舟数隻が、島の影に隠れたのを確認して、その島陰に船首を向けて進んでいると、視界が開け、そこには断崖絶壁の島が現れた。


 その絶壁に沢山の穴がくり抜かれ、光が無数に見える。


 どうやら、アジトに到着したようだ。


 そこは湾のようになっているが、周囲はほとんど絶壁のようになっている。


 湾を形成する左右も三日月形に絶壁になっていて、大型船が一隻通れるくらいの幅のところから入るようだ。


 その出入り口の両脇上部には見張り台があって、そこの見張りに逃走中の海賊達は、追いかけてくるリュー達を指差して警告しているのが確認できた。


「逃げ込まれちゃったね」


 リューが残念そうには聞こえない調子で言う。


 そこに次男ジーロの乗る船がリューの船に寄せる。


「リューここまでは作戦通りだけど、あの要塞のような砦を攻めるのはこの数では普通難しそうだよね」


 ジーロもリューと同じく難しそうに聞こえない口調で応じる。


 湾を形成する左右の絶壁には大型の弩が備え付けられ、こちらにいつでも放てるように準備してあるようだ。


 リュー達は船をその射程外で停泊する。


「多分、あの要塞にも対魔法魔道具を完備しているんだろうけど──」


 リューはそう言いながら、リーンと二人、船首に立つ。


 そして続ける。


「「相手が陸地なら関係ない!」」


 二人がそう宣言すると魔法を詠唱し始めた。


 ここからだと距離がかなりあるが、それは気にしていないのか、二人は長い詠唱をし終える。


 そして、


「「『土流爆砕』!」」


 と魔法を唱える。


 すると、海賊のアジトに備え付けてあった対魔法用防御魔道具の効果が弾け飛び、左右の絶壁が内側から爆散した。


 敵アジトからは悲鳴が上がり、まさかの魔法攻撃に蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている。


 湾の出入り口はリューとリーンの合わせ技の大魔法で砕かれ大きく広がっていた。


「さすがリューとリーン。また、会わないうちに土魔法の威力が格段に増しているね!」


 ジーロはこの驚くべき光景に素直に感心して褒める。


 一緒に船を並べるジーロの部下の傭兵隊長ザン達は、呆気に取られていた。


 それはそうだろう、絶望的な絶壁で覆われた海賊のアジトの出入り口を想像を遥かに超える威力の土魔法で爆散させたのだ。


 その威力を物語るようにその振動で起きた波が、リュー達の元まできて船体を大きく揺らす。


「……こんな魔法、初めて見ましたよ。お頭の弟さん達はとんでもないです……」


 ザンがお頭であるジーロに月並みな感想を漏らす。


「それじゃあ、敵への警告も済んだし、乗り込もうか!」


 波が通り過ぎて穏やかになったのを確認したリューが、ジーロ達に声を掛ける。


「あ、あれで警告なんですか!?」


 ザンは再度、驚いて思わずリューに聞き返すのであった。



 海賊の頭、ヘンリー・ストーロは、小舟を奪取し、アジトまで逃げ込んでようやく一安心していた。


 そして、


「野郎ども! 表に追手が来ているが、この難攻不落の要塞に引きこもれば、何の問題もない。接近して来たら、魔法と矢の餌食にしてやれ!」


 と留守を守っていた海賊達に声を掛けた。


「「「おう!」」」


 と海賊達が声を上げるのと同じタイミングで、


 ズドドドーン!


 というお腹の底に響く大きな重低音の地鳴り響き、目の前の絶壁が爆散した。


 その絶壁には穴をくり抜き、足場を作り、見張りと敵を迎撃する為の大きな弩や火炎放射器が備え付けられていたから、それもろとも吹き飛んだ形だ。


 そこに常駐していた部下達も一緒に吹き飛び跡形もない。


 あまりの非現実的な光景にヘンリー・ストーロはいつの間にか腰を抜かして座り込み、呆然としていた。


 それは部下達も一緒であったが、そこにリュー達が船団を率いて湾に侵入してくる。


「お頭! 敵が侵入してきました!」


 ヘンリー・ストーロは、部下に揺さぶられて、正気に戻る。


「む、迎え撃て! 対魔法防御用魔道具はどうしている!? 作動していないぞ!?」


「全機作動していました! ですが敵の魔法が強力すぎて壊れました!」


「な、なんだと……!?」


 そこに、敵船から火魔法が飛んでくる。


 ヘンリー・ストーロの脇を通り過ぎて、後方に着弾すると大爆発が起こった。


 その爆風にヘンリー・ストーロは吹き飛ばされる。


 報告していた部下はヘンリー・ストーロに覆いかぶさるように絶命していた。


「これではとてもじゃないが俺達の手に負える相手じゃない……。──白旗を振れ! 降伏だ! あとは俺が交渉する!」


 これ以上の抵抗は無駄と判断したヘンリー・ストーロは次々と爆発で吹き飛ぶアジトを尻目に大声で部下達に降伏を宣言するのであった。

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