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第503話 最初の契約ですが何か?

 エミリー・オチメラルダ公爵令嬢とレオーナ・ライハート伯爵令嬢は、二人がかりでリューに勝負を挑んだが、圧倒的な力で返り討ちに合った。


 当然、リューは加減したつもりなのだが、相手に合わせての力の入れ具合が兄であるジーロに比べると大雑把なので怪我をさせてしまった。


「レオーナ嬢は前回の勝負からかなり成長したね。エミリー嬢も元々強いとは思ってたけど、二人同時に相手だとちょっと(加減が)大変だったよ」


 リューはリーンとジーロに治療してもらった二人にそう声を掛けた。


「……この短期間でかなり上達したつもりでいましたが、前回以上に圧倒された気持ちです」


 レオーナ嬢はがっくりと頭を項垂れた。


 この短期間、リーンに時折相手をしてもらっていたから、成長を感じて自信がついていたのだろう。


 だが、それが実らず、反省しきりであった。


 それはエミリー嬢も同じで上達したレオーナと二人なら、勝てるだろうと思っていただけにリューの強さには歯が立たないと完全敗北を認めるしかない。


「二人共、まだ一年生だし、勇者エクス君達と切磋琢磨すればきっとこれから伸びていくよ。それに、数日はジーロお兄ちゃんも相手してくれると思うよ」


 リューは自分では練習相手にならないだろうと反省してそう答えた。


「師匠、お願いできますか!?」


 レオーナ嬢は完全にジーロを尊敬の眼差しで見ている。


 エミリー嬢は実力差に大きな開きがある事を、この一度の対決で十分に把握したのかレオーナ嬢のように不屈の闘志で燃える様子はない。


 彼女にとって強くなる事よりもオチメラルダ公爵家の立て直しが先だと思っているから、自分が強くなる事にそこまで執念を燃やす必要性を感じないのだ。


「……数日間はリューのところでお世話になりつつ、このマイスタの街の良いところを吸収したいから別にいいけど……」


「ありがとうございます! それでは師匠滞在の間は、学校を休んでご一緒します!」


 レオーナ嬢はジーロに密着修行するつもりのようだ。


「学校には行きなさい」


 ジーロが珍しく厳しい表情でレオーナを注意する。


 普段のおっとりから想像できない反応だが、これも、ジーロの一面であった。


「……はい」


 獅子人族であるレオーナ嬢は耳をシュンとさせると反省する。


「……これで私から乳離れできそうね?」


 リーンがそんなレオーナ嬢を見て、リューに小声で漏らす。


「リーンお姉様、私がお姉様を尊敬する気持ちは変わりません!」


 レオーナ嬢はリーンの言葉を聞き逃さなかったのか、そう答える。


「はははっ!残念だったね、リーン」


 リューは笑ってリーンを茶化すのであった。



 数日後の朝、マイスタの街、街長邸執務室で、リューが一つの報告をしていた。


 それはシーパラダイン軍事商会が王都において申請手続きが済み、正式に創設される事になった事をだ。


「ありがとう、リュー。お陰で僕も商会を持てる事になったよ」


 次男ジーロは許可証を手にしながらリューに感謝する。


「早速、僕のところと契約を結んでね」


 リューはそう言うと、執事のマーセナルから契約書を受け取ってジーロに渡す。


「今回の派遣から契約するの? 今回はサービスでいいよ?」


 ジーロはそう言うと契約書を返そうとする。


「いや、ジーロお兄ちゃん。今後の仕事の為にも実績作りは大切だから、今回からお願いします。それに、今回のサウシー伯爵の救援要請は結構大きな案件だから、南部におけるシーパラダイン家の立場的にも大事だと思う」


 リューはそう言うと改めて契約書にサインをお願いした。


「……そうだね。ちょっと考えが甘かったよ。シーパラダイン家の当主としてちゃんとしないといけないね」


 ジーロはそう答えるとサインをしてリューに渡す。


 それを確認したリューは頷くと、


「それでは、王家直轄領であるエリザの街に行くよ」


 と告げて『次元回廊』を開き、ジーロ達と共に南部王家直轄領エリザの街へと向かうのであった。



 エリザの街の『シシドー一家』事務所前広場にはすでに、シーパラダイン領都から派遣されてきた泳ぎが達者な猛者達百名と、『シシドー一家』の腕利き百名が待機していた。


「シシドーお久し振り。元気にしてた?」


 リューは到着するなり、シシドーにひと月振りの挨拶をする。


「若、ジーロの伯父貴もお疲れ様です! 俺は元気も元気。月の定例報告通り、順調に南部で勢力を伸ばしていますよ! ただ、今回は海賊が相手という事で、勝手が全く違いますが大丈夫ですかね?」


 シシドーは久し振りのリューやジーロとの再会に嬉しそうであったが、今回の件について心配している様子だ。


「今回その為にシーパラダイン軍事商会と契約を結んだからね」


 リューはそう言うと、ジーロに視線を向ける。


 シーパラダイン領都から執事であるギンの命令で派遣された百名の猛者達は、シーパラダイン軍事商会という名には寝耳に水であったから、全員が「?」を頭に浮かべていた。


 百名の猛者を率いてきたギンの手下、つまりジーロの部下の一人である左腕がかぎ型の義手で、黒い長髪を後ろで束ねた青い瞳に浅黒い肌のザンという名の男がみんなを代表して主君であるジーロに聞く。


「お頭、軍事商会とは?」


 ジーロがお頭と呼ばれている事に、リューは少しおかしかったが、ジーロがそれを否定する事無く、簡単に軍事商会設立について部下達に説明をすると、百名の猛者達は「おお!」と興奮気味にその事を歓迎した。


「シーパラダインの街にうってつけの商会ですね!」


 ザンもちょっと誇らしげに納得する。


「今回はそのシーパラダイン軍事商会、初めての仕事という事になるから、みんなよろしくね」


 気の抜けそうなおっとりした口調でジーロが告げると、ザンたちは慣れているのか「おお!」と息を合わせて声を上げるのであった。

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