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第502話 実力差ですが何か?

 レオーナ・ライハート伯爵令嬢にジーロ・シーパラダイン魔法士爵の実力を知ってもらう為に始まった軽い? 手合わせはある意味予想通りの展開となった。


 ジーロが手にした一本の枝をレオーナ嬢に対して振るえば、その枝から鞭のようにしなる剣撃が生まれ、レオーナ嬢を襲った。


 枝から生まれた技だから威力は通常よりは控えめで、文字通り鞭の一撃でレオーナ嬢の体を打つ感じだ。


 ジーロは軽い威力だとわかっているから、次々に手にした枝を振るって技を繰り出す。


 枝での剣に模した技の次は枝を槍に模した突きの技だ。


 レオーナ嬢が長剣を振り上げてジーロに襲い掛かろうとしたが、その突きの技で右肩を見えない鋭い衝撃波の塊がしたたかに襲う。


「くっ!」


 レオーナ嬢は肩の関節部分を突かれた事で、振り上げた長剣を持ったままよろける。


 ジーロはその隙を逃すはずがなく、今度はメイスの打撃技とばかりに枝を振るうとレオーナ嬢の腹部を大きな衝撃波が襲い、レオーナ嬢は手にしていた長剣を離して後方に吹き飛ぶ。


 ジーロは間髪も入れず、そのレオーナ嬢に一瞬で距離を詰めると体術の技なのかレオーナ嬢の手首を掴んで吹き飛ぶのを止めて軽く関節を極めて地面に抑え込むのであった。


 レオーナ嬢は一方的な攻撃に何もさせてもらえず、地面に押さえつけられた事に、悔しさでいっぱいだったが、次の瞬間、ジーロの技を食らった体の痛みが引いていく。


 ジーロが回復魔法を使ったのだ。


「勝負あり! ──ジーロお兄ちゃん、会わないうちにまた、強くなってる!」


 流れるようなジーロの各能力を使用した連続攻撃にリューが感心して勝負を止めた。


「大丈夫かい、レオーナ・ライハート嬢。治癒魔法でその綺麗な体に傷は残らないと思うけど……、もし、傷が残っていたら言ってね。ちゃんと、治療するから」


 ジーロはそう言うと、レオーナ嬢の手を取って立たせる。


 ジーロが最後体術でレオーナ嬢を押え込んで勝利したのは、レオーナ嬢の勝気な性格を見抜いて、立ち上がるのを止める為だったのは明らかだ。


 レオーナ嬢もそれを理解したのか、圧倒的な強さのジーロに完全敗北した事をその身に刻み込む事になった。


「……参りました。リュー殿は私と中々手合わせしてくれないので、リーンお姉様の実力から測るしかなかったのですが、魔法士爵殿の実力の一端からさらにリュー殿の真の強さを少しは理解出来た気がします……」


 レオーナは脳筋だが、だからこそ強い相手には一目置き、それなりの姿勢を示す人物だから、その強さに感服するのであった。


「ジーロお兄ちゃんは相手の実力に合わせて手合わせする事が上手い人なんだ。枝を持たせた事は誇っていいよ」


 リューは褒め言葉なのか、レオーナ嬢にそう言葉を掛けた。


「リュー、それは『剣豪』持ちであるレオーナ嬢の自尊心を打ち砕くわよ」


 リーンが呆れてリューに告げた。


「……。──魔法士爵殿、また、手合わせしてもらってもいいでしょうか?」


 レオーナ嬢は打ちひしがれるどころかリューの言葉に何か理解するものがあったのか前向きな言葉を口にする。


「あなたがおっしゃるなら、もう少し相手をしましょう」


 ジーロはレオーナ嬢に好感を持ったのか笑顔で応じた。


 こうしてレオーナ嬢は、この後、ジーロを相手に夕方まで稽古をつけてもらう事になるのであった。


 その途中の休憩時間。


「ジーロ師匠は、リュー殿と互角の腕前なのですか?」


 普段無口なレオーナ嬢は剣の事になると口数が増えるのかジーロに対して沢山の質問をしていた。


「(師匠じゃないけど……)うーん……。どうだろう? リューは僕と違って能力だけでなく努力の才能でも優っているからなぁ。今、勝負しても僕は多分勝てないと思うよ?」


 ジーロはレオーナ嬢の質問にも真面目に答える。


「そうなのですか!? ジーロ師匠の強さは、我が父、ライハート伯爵に似たものを感じます。リーンお姉様や師匠を疑うつもりはありませんが、想像できません……」


 レオーナ嬢は普段、寛大で怒ることなく争いを好まないといった表向きのリューの姿にそこまでの畏怖を感じていないようだ。


 もちろん、それはリューの二面性を理解していないだけなのだが、今のレオーナではわからないだろう。


「レオーナはまだまだね。リューは貴族としての模範を示しているだけなのよ。それは他の貴族や庶民に対してのものだけど、それ以外に対しては苛烈で容赦ない事もあるわ」


 リーンはリューの良さが理解出来ない未熟な後輩に説教をする。


「お姉様を疑ってすみません!」


 レオーナ嬢は普段からリーンがリューを褒める事を身内贔屓だと思っていたようだ。


 だが、圧倒的な強さでレオーナに対するジーロの言葉に改めてリューがいかに強いのか想像するしかない。


 それをずっと、エミリー・オチメラルダ公爵令嬢も、聞いていた。


 彼女もレオーナ嬢がジーロにコテンパンに負けるところを見ていたから、リューがこのレベルより上という評価に、リューをジーッと観察するしかないのだが、どうしてもエミリー嬢が知っているのは、パーティーでの自分への親切や二年生の食事会での優しい面ばかりでやはり想像が出来ない。


「リューが直接二人共相手してあげれば? 見たところも、ライハート嬢もオチメラルダ嬢もどのくらい強いのか想像できていないみたいだから」


 ジーロが怖い提案をしてきた。


 リューはジーロに比べると加減が上手い方ではないのだ。


 ましてや相手は貴族令嬢二人、怪我をさせれば大事である。


「怪我は僕とリーンが治療するから多少加減しなくても大丈夫だよ」


 ジーロがそのおっとりした言い方で怖い事をまた続けて言う。


 それはつまり、いつものリューで相手してあげなというものだ。


「うーん、どうしよう?」


 今度はリューが迷う番だ。


「「私達からもお願いします!」」


 レオーナ嬢とエミリー嬢はリューの強さに好奇心が優ったのか一緒にそうお願いした。


「……ちょっとだけだよ?」


 リューはそう言うと、マジック収納からドスの長さの木刀を取り出すと構えるのであった。



 数分後、レオーナ嬢とエミリー嬢はマイスタの街長邸の庭の端で怪我を負って気を失い倒れていた。


 その傍でリーンとジーロが治療をしている。


「……上手く手加減しようとしたんだけど、やっぱり二人共かなり腕を上げてるから、ジーロお兄ちゃんのようにはいかなかった……!」


 リューは反省すると、二人が意識を戻すのを心配しながら待つのであった。

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