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第499話 次男の悩みですが何か?

 ランドマーク領都からジーロの通うスゴエラ領都の学校までは、普通の馬車では片道一日かかる。


 しかし、ランドマーク製最新の馬車なら半日だ。


 つまり、往復で丸一日。


 リューが父ファーザにお願いして出した使者は、ある人物を連れて翌日の朝にはランドマーク領都まで戻ってきた。


 丁度、リューが日課である朝の仕入れでランドマーク本領に顔を出していると、その馬車は帰ってきたのだ。


 その馬車から出てきたのは、なんと次男ジーロ本人であった。


「ジーロお兄ちゃん!? 学校はどうしたの!?」


 リューはこの日が平日の朝だから、当然の疑問を口にした。


「どうしたのって、リューが手紙をくれたんじゃない。だから学校を休んで来たんだよ」


 ジーロは当然のように答える。


「いやいや……。ジーロお兄ちゃんにはシーパラダインを代理で治めているギンに、海戦が得意な兵士を回してもらう為の許可状を書いて欲しかっただけだよ?」


 リューはジーロの学校を休ませる形になった事に驚いて理由を説明した。


「それってつまり死人が出る戦いに自分のところの領兵を出すという事でしょ? それなら領主である僕が責任をもって指揮しないといけないって思ったんだよ。あ、学校については大丈夫。成績についてはもうほとんど学ぶ事がなくなっているから、多少の休みは問題無いと校長にはお墨付きもらっているから」


 ジーロは責任感を見せつつ、その学校で一番の成績である優秀さも垣間見せた。


 さすがジーロお兄ちゃん。よく考えたら四年生は就職活動がメインだから、魔法士爵としてシーパラダイン領を治める立場だとその活動もしなくていいんだった……。


 自慢である次男の優秀さにリューは改めて感心する。


「それじゃあ、僕はこのまま、シーパラダイン領に戻ってから隊を編成するから、リューは王家直轄領であるエリザの街をうちの兵が通過する為の許可証を取っておいてくれる? この馬車の速さなら、エリザの街まで準備も含めて五日も掛からないと思うし」


 ジーロはリューから直接詳しい説明を聞く事もなく、派兵について乗り気だ。


「え? あ、ちょっと待って! ──シーパラダイン領都のギンには、僕からも一筆書いているから、ジーロお兄ちゃんの許可状が届き次第、エリザの街に向かって派遣する手筈はすぐに出来ると思う。だからお兄ちゃんはひとまず休んでよ。明日には僕が、『次元回廊』で王都を経由してエリザの街に案内するから、兵士が到着するの待ってよ」


「さすがリュー手際が良いね。──わかったよ。じゃあ、僕はギン宛てに派兵の為の許可状を書くね」


 ジーロはリューの手際の良さに納得すると、久し振りの実家である城館に入っていく。


 しばらくすると、ジーロが書状を持って戻ってきた。


 それをランドマーク家の使用人にお願いして早馬を出してもらう。


「──これで、手筈は済んだね。──それでリューはこれから学校なの?」


 ジーロはいつものリューの日課は知っているから、確認した。


「うん。もう時間がないから、リーンと一緒にこのまま、王都に戻るよ」


「それなら、僕も王都に連れて行ってくれるかな? 今日一日、あっちを見学して領地経営の参考にしたいから」


 ジーロが王都に行きたいというのはとても珍しい事だ。


 それも都会で遊びたいのではなく、統治するシーパラダイン領の為の視察目的なのがジーロらしいところである。


「もちろん、いいよ。シーパラダイン領から兵隊がエリザの街に到着するまでは数日かかるだろうから、その間王都で過ごすといいよ。マイスタの街も案内したいし」


 リューはご歓迎とばかりに頷くと、早速、『次元回廊』で次男ジーロを王都のランドマークビルまで移動させるのであった。



 放課後。


 リューはすぐにランドマークビルに戻ると、ジーロは管理事務所でレンドと話していた。


 どうやら、王都のランドマーク商会の運営について話を聞いていたようだ。


「──なるほど……。僕も見習ってシーパラダイン商会を作って家名をアピールできるようになりたいなぁ……。あ、リュー、リーンお帰り! あ、スードも久し振り。魔境の森以来だよね」


 ジーロはリュー達が帰ってきた事に気づいて出迎えた。


「ただいま! 今、商会設立を口にしてなかった?」


 リューは面白そうな話に食いつく。


「はははっ。まだ、仮の話だよ。うちの領地は元伯爵の領都だったから、人口はランドマーク本家並みに多いじゃない? その人の多さと特徴を生かせる商会が作れたら他所にシーパラダイン家の名をアピールできるかなって思っただけだよ」


 ジーロはまだ、考えがまとまっていないのか、ざっくりとした案を口にした。


「……シーパラダイン領都の特徴かぁ。あそこは武辺一辺倒な街だったよね」


「うん。今は執事のギンが領主代理として各本面にも可能性を広げてそれらの特徴を伸ばそうとしているんだけど、なかなか大変なんだ。でも、装備品等軍事関連の物資制作、生産に元々強いから収入はそれなりに安定していて、経済的にはかなり助かっているんだけどね」


 ジーロの言う通り、シーパラダイン領都は軍事関連に強く、街には数多くの道場がひしめき合い、切磋琢磨している。


 その領地を治めるジーロも武芸に秀でている事から、領民はジーロを歓迎し、領主として認めていたから、普段留守がちのジーロでも問題無く領主代理のギンで治められていた。


 もちろん、執事であるギンの手腕が優れている事も当然あったのだが、武辺の色が濃いシーパラダイン領都を治めるにはそれなりの強さが求められる。


「……ジーロお兄ちゃん。そのまま特色を生かしたシーパラダイン商会を設立しない?」


「え? 特色?」


 ジーロは聞き返す。


 特色の意味がよく理解出来なかったのだ。


「うん。シーパラダイン軍事商会ってどう?」


「ぐ、軍事商会!?」


 リューの突拍子もないと思われる提案に、おっとりマイペースのジーロも驚いて聞き返すのであった。

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