第492話 二日目も熱いですが何か?
ショウギ大会二日目。
この日から、本格的な戦いが始まる。
特別枠としてこの日から参戦の前回優勝者であるフナリことノストラと準優勝者のケイマン男爵のそれぞれの対局がある為、観戦者の数は前日より一層増えていた。
フナリには平民を中心にその棋譜に惚れ込んだファンが多く、ケイマン男爵には知識人から貴族のファンが多い。
特にケイマン男爵は準優勝後、貴族のパーティーなどでショウギを多くの知識人と指すというイベントを数多く催しており、人気は絶大だ。
一方のフナリことノストラはそういったイベント参加はしていないが、ダークホースとして優勝を掻っ攫っていった実力から謎の商人ショウギ指しとしてその棋譜は多くの人の研究対象になっている程の人気がある。
だから、二人がそれぞれ対局を始めると、その周囲には多くの人だかりが出来ていた。
中央会場の舞台でも大きな盤を二つ用意し、その場で対局内容を中継する。
観戦者達はそれらを観て唸るのだ。
「前回大会以来初めての公式戦だが、フナリ氏の指しには淀みがない。短時間で何手先まで読んだら、ああもテンポよく指せるのか」
「ケイマン男爵はここまで有名貴族達とショウギを指し続け多くの棋譜(対局記録)を残して来ているが、一局一局を丁寧に指しているのがわかる。今大会にかける意気込みは多分、誰よりも上だろうな……」
「いやいや、今大会も前回のフナリ氏同様ギョーク侯爵を倒したダークホースの存在を忘れていないかな? 私はあの兎人族の少女が旋風を起こすと思うぞ」
観戦者達は対局経過を観て予想しながら、ああでもないこうでもないと、次どう指すかを語り合う。
そんな中、波乱が起きた。
有利に対局を進めていたケイマン男爵が一手、指し手を誤った事が原因で形勢が逆転され雲行きが一気に怪しくなったのだ。
対戦相手は仮面を付けた謎のショウギ指しである。
「くっ……。参りました……」
ケイマン男爵が負けを認めた。
「「「うぉー!?」」」
観戦者からは異様な驚きの声が上がる。
見方によってはケイマン男爵の指し損じからの形勢逆転だが、中央会場の舞台裏で中継の為の大きな対局盤を観ていたリューは仮面の謎の参加者の一手で誘発されたミスだと睨んでいた。
「老獪な一手……。やっぱり、近衛騎士団からの参加者の内の一人って……」
リューは確信がないが、予想は付いていた。
「誰なの?」
リーンがリューに予想を言うように促す。
「……他の四人はわからないけど、ケイマン男爵を破ったのは多分宰相閣下だと思う」
リューは苦笑してリーンに教える。
「え?」
リーンもさすがにそこまで予想していなかったのか、思わず謎の仮面集団を二度見した。
「まだ、わからないけどね。でも、近衛騎士団があの集団の行く先々で緊張が走るのはそういう事だと思う。……いや、でも、国王陛下の可能性も……」
リューはそこで驚くべき名を口にする。
「主、さすがに国王陛下はないですよ。もし、陛下だったらこの会場が混乱しますって」
ここまで静かにリューの背後で護衛を務めていたスード・バトラーがツッコミを入れた。
「スードの言う通り、陛下どころか宰相閣下でも大騒ぎになるわよ?」
リーンもスードに同意するとリューの荒唐無稽な予想をさすがに否定した。
「そうかな……?」
リューは自分の予想も案外当たっていると思うのか二人の言い分に首を傾げるのであった。
会場のあちこちでは、歓声が沸き起こっていた。
二回戦から出場して勝ち進んでいた強豪の貴族を今回のダークホースである兎人族のラーシュが打ち破ったのだ。
「あの子、本物だぞ!」
「とんでもない新星が現れたな!」
「まだ、学生だろ? 末恐ろしいな!」
観戦者達もラーシュの戦いぶりに本物と認め、大いにざわつく。
「だが、この予選での一番の注目は──」
「「「イチゴー氏だろ!?」」」
観戦者達の中で急遽注目されたのは、優勝候補の一人であるケイマン男爵を破った対戦相手謎の仮面集団の一人である参加者名「イチゴー」だ。
他にもニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーと合計五人が参加しているが、ケイマン男爵を破った事でイチゴーは注目を浴びている。
そんな中、予選対局は進み、あとは順当に優勝候補が勝ち上がっていく。
当然ながら優勝最有力候補であるフナリことノストラは最終日の準々決勝に残っている。
ラーシュも同じで、他には今大会の支援者の貴族も二人残っていた。
あとは一気に注目の的になっている謎の仮面集団のイチゴー、ニゴー、サンゴーが残り、一般参加の知識人が一人勝ち残っていた。
「三日目の対局はフナリ(ノストラ)VSサンゴー。ラーシュVS支援者貴族。ニゴーVS一般知識人。イチゴーVS支援者貴族2かぁ。謎の仮面集団が三人も残ったのは意外だったね……」
リューは想定外とばかりに呆れる。
だがこれで謎の仮面集団は王宮の地位のある人達だろうなと想像が付いてきた。
「……やっぱり国王陛下か宰相閣下なのかしら?」
リーンもさすがに二日目が終わってこの意外な結果に、明日に向けて動き回っていた総責任者のレンドを捕まえて声を掛ける。
「……何の事でしょうかね?」
完全にレンドは目が泳いでいるが、認めようとしない。
「レンドは口止めされているみたいだから、それ以上は聞いたら駄目だよ、リーン」
リューはレンドの態度で全てを察すると最終日である三日目を楽しみにするのであった。