49話 受験ですが何か?
新年を迎えランドマーク家は新たな門出を迎えた。
ジーロの受験だ。
スゴエラの街の学校は南東部では一番の学校で、近隣から貴族達も多数受験する。
長男のタウロは二年前に受験して一番だった。
今年はジーロの番だ。
流石に文武両道のタウロの様に一番とはいかないだろうが、いい成績を残して合格してくれるだろう、家族みんなが期待した。
……大丈夫だろうか?
ジーロは一抹の不安を持って受験を終えていた。
筆記試験は母セシルに教わっていた事が偶然問題に出ていた事もあって、ジーロは合格が微かに見えてきたかもとは思っていた。
だが、南東部のみならず、南部、東部の貴族やお金持ち、優秀な庶民も受験する学校だ。
油断は禁物、実技試験はさすがに筆記試験の様にはうまくいかないだろうと、気を引き締め直して臨んだ。
魔法試験では得意の治癒魔法を見せて自分が出来る最大の事をアピールしたが、試験官がぼくの駄目さに驚いていた、でも、気にせずに最後までやれたと思う。
武術試験では剣、槍、メイス、体術、これも自分の得意なジャンルでアピールした。
これは、全て試験官がわざと負けてくれた様で、驚く演技までしてくれた。
あまりの駄目さにきっと気を使われたのだろう、あんまり手応えがなかった。
武術は一番自信があっただけに、ぼくは自信を喪失しそうだ。
受験からジーロが帰って来てから翌日の事。
「……ジーロお兄ちゃん、試験から帰って来てから元気がないよね」
元気の無いジーロを心配してリューが父ファーザに聞きに執務室に顔を出した。
「……試験の内容があまり良くなかったらしい。手応えがあったのが筆記試験だけだったみたいだからな」
ファーザも心配なのかため息をついた。
「え?一番、苦手だと言ってた筆記試験が?」
「セシルから習ったところがたまたま出題されたらしい。本人はそれだけが良かったと漏らしていた」
これは意外な展開だった。
ジーロは、筆記は兄タウロに及ばないが魔法と武術は十分匹敵すると思っていたのだ。
なので、心配は全くしてなかったのだが、試験当日、緊張で本領を発揮できなかったのかもしれない。
そんなジーロは初めてだったのでリューも心配だった。
「もう、終わったものを心配しても仕方がないわよ」
二人の深刻な顔を他所にリーンが率直な事を言った。
「そうなんだけどね……?」
リーンの言う事も尤もだ。
だが、進路の事を考えなくてはいけない。
万が一、落ちてたら他の学校に行かせるのか、それとも一年待って再受験されるのか、悩むところだ。
スゴエラの街の学校は二十歳以下まで受験できるので一年待ってもおかしなことではない。
実際、そうする受験生も少なくないのだ。
ジーロはタウロと同じ学校を望んでいるし、来年を勧めていいかもしれない。
後で母セシルにも話さなくてはいけないが、ファーザとリューはその方針で答えを出した。
「まだ落ちたわけじゃないんだから、合格発表聞いてからにしなさいよ二人とも」
また、リーンが鋭い事を言う。
確かに、ジーロの落ち込む姿を見て、もう落ちた気分になっていたが、まだわからないのだ。
最悪、補欠合格もあるかもしれない。 望みを捨ててはいけない、受かればいいのだ。
一縷の望みに賭けてランドマーク家の面々は合格を祈るのだった。
合格発表当日にスゴエラの街に再びジーロと付き添いのセバスチャンが訪れた。
合格発表後、手続きなどもあるので本人がくる必要があるのだ。
遠方からの受験者などは、受験日から合格発表までの間、街に宿泊するらしい。
だから、この時期は一年中活気のあるこの街も異様な熱気に包まれる。
合格すれば箔が付き卒業後の就職にも有利に働く。
だが、落ちれば、それまでなのだ。
受験者は皆、必死だった、ジーロもその中にいた。
遂に広場の掲示板に合格者が張り出された。
受験者が受験票を握りしめて押し寄せる。
ジーロもその中に紛れた。
ジーロは自分の番号を探した、が肝心の自分の番号はそこには無かった。
愕然とするジーロ。
いや、まだ補欠がある、一番最後に張り出されているはずだ。
ジーロは最後の望みに賭けてそちらも確認したが、やはり番号はなかった。
ジーロは崩れ落ちそうになった。
そこにセバスチャンがジーロの肩を叩く。
「ジーロ坊ちゃん。あれをご覧ください」
セバスチャンの指さす方向には
『首席合格者:2801番ジーロ・ランドマーク』
と、張り出された紙だった。
そう、ジーロは受験者の中で一番の成績で合格していたのだった。