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第483話 東部抗争一時終結ですが何か?

『赤竜会』の精鋭部隊による『蒼亀組』組長襲撃未遂事件は、東部裏社会に想像以上の衝撃を与えた。


『赤竜会』は『蒼亀組』との間に決着を付ける好機と睨んで勝負に出て、将来の幹部になる若手の精鋭達を全投入したのに、『黒虎一家』の裏切りでそれらを一瞬で失ったのだ。


 精鋭部隊はほぼ全員が爆死。


 それを率いていた『赤竜会』随一の武闘派である大幹部ゴートンは『蒼亀組』の兵隊に一対一サシの勝負で討ち取られ、サクソン侯爵の警備隊に引き渡されると、その罪状の多さから、即日処刑されたという。


 これで襲撃犯全員が亡くなった事になる。


『赤竜会』の大きさを考えると数だけなら少なく感じるが、傘下である各組織の若頭クラスが全員いなくなったと考えればその被害の大きさがわかるだろうか?


 中軸が完全に失われたら抗争どころではない。


 それも、ナンバー3のゴートンは会長のお気に入りで近い将来、『赤竜会』を背負って立つ人物だったかもしれないのだ。


 それが捕らえられ処刑されたばかりか、『蒼亀組』の無名の兵隊にサシで負けた事も、問題であった。


 それはつまり、『蒼亀組』の兵隊は『赤竜会』よりも質に優れている可能性が高いという事だ。


 これまでは『黒虎一家』と組む事で巨大な『赤竜会』を相手に対抗する知恵者の一面が際立っていたが、それだけではないという事である。


 東部裏社会において、これを知らしめたのはとても大きい。


 東部地方には巨大な三組織以外にもまだ、中堅以下の組織やグループが存在し、三組織の今後の勢力について注目していたから、これを機に『蒼亀組』に降る流れが生まれそうであった。


 そして、そんな流れを作った事になっている『黒虎一家』と言えば、ナンバー2のオジンが事の次第を家長に全てを報告していた。


「なんて事をしてくれたんだ、オジン! 『赤竜会』会長はうちが密約を破った事に怒り心頭だぞ! どう責任を取る!」


『黒虎一家』のトップである家長はナンバー2であるオジンの兄に当たる。


 だから親族を裁くというのは、非常に難しいところだ。


「違うんだ、兄貴! 俺達の『蒼亀組』への真の襲撃情報があっちに漏れていたんだ。俺は決して『黒虎一家』に泥を塗るような事はしていない!」


 オジンも必死である。


 現場にいた自分しか証言できない事だが、全ての結果は自分に不利に働いていたから、絶望しつつも実の兄に弁明した。


「……こうなったらもう一度、『蒼亀組』と同盟を結び直して『赤竜会』に対するしかないぞ?」


 兄である家長は厚顔な意見を口にする。


「さすがにそれは無理だ、兄貴……。『蒼亀組』はうちが裏切ろうとした事を知っていた。あっちもうちを恨んでいるよ……。それにあっちはどこか他の組織と同盟を結ぶらしいからうちはそもそも相手にされていない」


「何!? うち以上の同盟相手はいないだろう!? それに『赤竜会』とうちが潰し合っても最終的にはどちらかが相手を飲み込んで大きくなるだけ。それは『蒼亀組』も望まないはずだ」


「それが『蒼亀組』の奴ら、やけに余裕を持っていてさ。背中を心配する必要もなくなったって言ってた」


「『蒼亀組』の背中……、だと? まさか……。『赤竜会』は王都進出を狙っていたな……? それが潰えて喜ぶのはどこだ?」


「? そりゃあ……、王都の──。……ま、まさか!? 最近その名をよく聞く『竜星組』、……か?」


「……そういう事だ。……マズいぞ。これは非常にマズい! うちと『赤竜会』が潰し合っている間に『蒼亀組』は『竜星組』と組んでこちらが狙っていた漁夫の利を得るつもりだ。『蒼亀組』単体なら何とかなったかもしれないが、これじゃあ、うちは本気で『赤竜会』を正面から叩き潰し、飲み込むしか生き残る術がない……」


 家長であるクロトラ十四世は絶望的な選択肢しか残っていない事を悟った。


 全ては自業自得であったが、この後、『黒虎一家』と『赤竜会』は泥沼の抗争に入っていく。



 リューはコーエン男爵領領都の街長邸を訪れていた。


「ミナトミュラー男爵、この度の協力誠にありがとうございます」


 コーエン男爵は深々と頭を下げると、リューに感謝の意を示す。


「こちらこそ、折角の大邸宅を跡形もなく吹き飛ばす事になってすみません。それにあそこは百人以上もの『赤竜会』関係者を吹き飛ばした跡地だから縁起も悪いでしょうし」


「いいえ、お陰でこちらは被害を全く出さず、敵のみに大打撃を与える事が出来ました。敵にしたら無慈悲で残酷な計略になるのでしょうが、それも『黒虎一家』の裏切りで成立したものと『赤竜会』は考えていますから、うちを相手にしている暇はない様子。こちらが恨まれず、被害を一人たりとも出さないで、絶望的な立場全てをひっくり返したその策略は見事としか言いようがありません!」


 コーエン男爵は『蒼亀組』組長としてもリューを絶賛した。


「僕も本当はあんな手段は取りたくなかったのですが、敵の精鋭相手にこちらの想定できる被害を考えると非情な判断を取るしかありませんでした」


 リューは反省している素振りを見せる。


「お陰で寄り親であるサクソン侯爵に良い報告が出来ましたし、『蒼亀組』としても絶体絶命の危機から脱する事が出来たので、その責は私が負うべきものです。ミナトミュラー男爵が心痛めるべき事ではありません。それに──」


 コーエン男爵はリューがまだ子供である事を思い出し、その心労を労うと続ける。


「アドバイス通り、『黒虎一家』から得た情報で今回の策が成功したと声高らかに吹聴して回っています。全ては『黒虎一家』の浅ましさが招いた事と世間も『蒼亀組』の行為には理解を示しています。実際、こちらの状況ではミナトミュラー男爵の策が最善だったと今でも思いますよ。助けて頂き、本当にありがとうございます」


 コーエン男爵はそう言うと、リューに握手を求める。


 リューもいつまでも暗い顔は出来ないと、その握手に応じた。


「コーエン男爵。『蒼亀組』は今、世間を味方につけ、『赤竜会』は『黒虎一家』との間の終わりのない抗争に突入します。このチャンスを逃さず、あなたはこの東部地方最大の勢力になってください。『竜星組』もその後押しを行います」


 こうして、東部地方裏社会における三大組織抗争の均衡が崩れ、滅ぼされる手前であった『蒼亀組』はリュー率いる『竜星組』の活躍によって生き残ったばかりか、一転して不動の立場へとその勢力を伸ばしていく事になるのであった。

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