第482話 立場逆転ですが何か?
リュー達が『赤竜会』の精鋭部隊を文字通り壊滅させていた頃、サクソン領都にある『蒼亀組』の偽の本拠地には、表向きは『赤竜会』の襲撃を迎え撃つ為に『蒼亀組』、『黒虎一家』の兵隊が集結していた。
その中にはリューの部下であるミゲルとその部下も潜り込んでいる。
『蒼亀組』の兵隊を率いるのは、一番の力自慢で大男のタイラーだ。
以前にミゲルと勝負をして負けたが、同盟関係である『黒虎一家』の兵隊や敵である『赤竜会』でも一目置かれている人物だ。
『黒虎一家』が知らせてきた『赤竜会』の襲撃時間を過ぎても何も起こらず、待ちぼうけを食らっている状況で、領都郊外からここまで聞こえる爆発音が響いて来た。
聞く限りだと郊外で魔法花火をやったのかとも思える音である。
「「……」」
何の音かおおよそ密かに見当がついているリューの部下のミゲルと『蒼亀組』のタイラーはその音に目で頷き合う。
「なんだ……?」
『黒虎一家』の兵隊を率いて来ていたナンバー2で副家長である男、オジンは『赤竜会』が本物の『蒼亀組』組長を郊外で襲撃しているはずの方向から聞こえた音に不審な面持ちでつぶやいた。
『蒼亀組』のタイラーは襲撃が未だないのに、イライラする様子もなく落ち着いているので尚更であった。
オジンはタイラーが『赤竜会』の襲撃がない事にしびれを切らして自分に言い募って来ると思っていたから、それに応じる準備もしていたから当然である。
『蒼亀組』、『黒虎一家』両者ともしばらく待機していたが、そこに『蒼亀組』の伝令が飛び込んできた。
「成功みたいです……!」
ミゲルとタイラーに耳打ちする。
その言葉は『黒虎一家』側の指揮官オジンの耳にも聞こえた。
「成功って何の話だ?」
「ああ、オジン殿には言っていなかったか? ここで『赤竜会』と戦争を始めるとサクソン侯爵に目を付けられるから、違う場所に敵をおびき寄せたんだ。お陰で無事、別動隊によって殲滅させる事が出来たらしい」
タイラーは『黒虎一家』が情報を漏らしていた事を当然知っていたから、わざと報告ミスのように告げた。
「なっ!? そんな話聞いてないぞ!」
当然『黒虎一家』のオジンは、目を剥いてタイラーに言い募る。
「いやー、すまんな。伝達ミスがあったようだ。──お、さらに報告が来たようだ」
タイラーがなお、とぼけて応じるとそこにまた伝令が走り込んできた。
そして、
「『赤竜会』のナンバー3、ゴートンを討ち取りました!」
と今度は大きな声で報告する。
タイラーとミゲルが反応する前に、
「なんだと!? そんなはずは……!」
とオジンは思わず伝令に言い返す。
「そんなはずとは? そちらは今回の作戦については何も知らないはずですが、その口ぶりだと『赤竜会』が郊外にある『蒼亀組』の屋敷を襲撃するのを知っていたみたいですね?」
タイラーに代わり、リューの部下のミゲルが『黒虎一家』のオジンを追及した。
「い、いや……、そのようなわけがあるまい。こちらはそんな話を聞くのも初めての事だ。そ、それで……、そちらの被害状況は?」
オジンはとぼけると、『蒼亀組』の被害状況を『蒼亀組』の伝令に確認する。
本来なら、『蒼亀組』組長の命を取った後、『赤竜会』の精鋭部隊と力を合わせて残党狩りを行う手はずになっていたから、『黒虎一家』としては作戦失敗でも『蒼亀組』の被害状況によっては、このままタイラー達を襲って形勢逆転を狙う算段もこの場でし始めていた。
「被害状況は……、大変残念ですが屋敷は大破により、跡形もありません。ただし、それ以外の被害は皆無です」
「か、皆無だと!? そんな馬鹿な! あの『赤竜会』の大幹部連中の部下から精鋭を集めた襲撃部隊が、少しも被害を与えず全滅などありえないぞ!?」
オジンは思わず、当人以外知るはずもない情報を口にしていた。
「ほう? 敵の襲撃部隊とは、そんな凄い連中だったわけだ。──それであんたはなぜそれを知っているんだい?」
ミゲルが尻尾を掴んだとばかりにオジンの言葉尻を捕らえて追及する。
「い、いや、そういう情報を掴んでいたのだ。『蒼亀組』側にその情報を話さなかったのは……、そ、そう……、作戦前に怖気づかれても困るので伏せさせてもらっていた」
オジンは自分に対するミゲルの言葉遣いにも気づく事なく弁明に必死だ。
「なるほどね。それはお気遣い感謝する。だが、『黒虎一家』さんは気を付けた方が良いな」
ミゲルは笑みを浮かべると警告する。
「な、何をだ……?」
「今回の件に付いて『赤竜会』はどう考えると思う? どこかの誰かと密かに示し合わせた作戦が駄々洩れで、自分のところの将来を担う幹部候補で占めた精鋭部隊が跡形もなく全滅してしまったとあっては、裏切りを疑うだろうなぁ……。そうなると標的が『蒼亀組』からその誰かに移ってもおかしくない。これは大変だな。怒りに燃える『赤竜会』を単独で相手する事になったら、どちらかが滅びるまでの殺し合いだろう」
ミゲルが今後起こるであろう最悪の展開を口にした。(これは全てリューから吹き込まれた台詞だが)
「! ば、馬鹿な! 我々は裏切ってなど……。いや、そういう意味ではなくてだな?」
オジンはミゲルの指摘に顔を青ざめつつ混乱する頭で言い訳をする。
『黒虎一家』が『蒼亀組』を裏切って『赤竜会』側に付き、その『赤竜会』も裏切って罠に嵌めた事になってしまっているこの状況では、裏社会はおろか、表との関係性についても信用信頼などあったものではない。
『黒虎一家』の兵隊も上層部のこの判断にはさすがに疑問を抱くだろうし、何がしたかったのかと不信感を覚えるだろう。
もちろん、『黒虎一家』の方針は『赤竜会』に協力して『蒼亀組』を亡ぼし、漁夫の利を得る事であったのだが、『蒼亀組』は『黒虎一家』から『赤竜会』の真の襲撃情報を売ってもらったと一言証言すれば、『黒虎一家』は『赤竜会』と明日から殺し合いの始まりである。
「判断を見誤ったな、『黒虎一家』は。『蒼亀組』の信頼も失い、『赤竜会』を罠に嵌めたとあっては、……詰んだな」
「うちは『赤竜会』を罠に嵌めてなどいない!」
「おいおい、この状況でそんな言葉を誰が信じる? うちの(若様)に代わって言わせてもらおうか。──組む相手を間違えたな。ここからはうちも追い込み掛けさせてもらうぞ、『黒虎一家』!」
ミゲルはこれもリューの台詞を代弁する。
「!」
『黒虎一家』のナンバー2であるオジンは、この言葉で自分達の裏切りが最初からバレていて、手のひらの上で踊らされていた事にようやく気づいた。
そして、その裏切りの代償は大きく、自分達が東部地方裏社会で完全に孤立し、潰される側になった事をオジンは悟るのであった。
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