第480話 全て……ですが何か?
夜が明け、リュー達が潜伏する元商家の大邸宅前の広場には、『蒼亀組』の主力と呼べる兵隊達が整列している。
リューとリーン、そしてその直属の部下は屋敷内で外の様子を窺う。
「『赤竜会』の監視と思われる者が近くの森から、こちらの様子を窺っているわ」
リーンが、広域索敵系能力で周囲を警戒して気づき、リューに報告する。
「じゃあ、ランスキー。それっぽく『蒼亀組』の兵隊に声を掛けて、送り出して」
リューは屋敷内で待機していたランスキーに『蒼亀組』の組長役を演じさせていたから、最後の仕上げをお願いした。
「へい!」
ランスキーは頷くと外に出て行く。
そして、『蒼亀組』の兵隊に向かって、「野郎ども、何も知らずに今日、のこのこと領都の本拠地を襲撃しに来る『赤竜会』の馬鹿共を迎え撃ってこい!」
「「「おお!」」」
『蒼亀組』の兵隊はランスキーが、当然ながらこれまで顔を見せなかった謎のボスであると思っている。
ランスキーの貫禄がそれに説得力を持たせていたから、『蒼亀組』の下っ端兵隊達はランスキーの一言に奮い立って喚声を上げると、続々と馬車に乗り込んでサクソン領都内に移動するのであった。
ランスキーはそれを見送ると、リュー達のいる屋敷内に引っ込む。
「ランスキー、ご苦労様。──あとは、あちらがここを襲撃するのを待つだけだね」
リューは笑みを浮かべると、屋敷に残された自分の部下達、わずか二十名を屋敷の見張りに回すと、リーンとランスキーの三人で二階の中心辺りにある特別室のソファーで寛ぐのであった。
「『黒虎一家』からの情報通り、『蒼亀組』の主力と思われる兵隊百名余りは、サクソン領都の本拠地に罠を張るべく向かいました。そして、『蒼亀組』組長と思われる特徴の男もあの屋敷に滞在しています」
リュー達が滞在する大邸宅から少し離れた屋敷。
ランスキーの動向を監視していた『赤竜会』の兵隊が上司と思われる髭面に隻眼という特徴の男に報告をしていた。
「まさか奴らも俺達が襲撃するのが本拠地ではなく、自分達のボスの隠れ家の方だとは思わないだろうな。はははっ!」
『赤竜会』の精鋭部隊を率いてサクソン領都まで遠征して来たのは、同会一の武闘派で、『赤竜会』のナンバー3に当たるゴートンという男であった。
そのゴートンは、今回の襲撃の為に、各幹部の傘下から腕利きで将来有望な者達を百名余りかき集めて精鋭部隊を組織している。
『赤竜会』にとって『蒼亀組』はまさに目の上のたんこぶであり、王都進出に一番邪魔な存在であったから、仲の悪い幹部達も今回ばかりは、進んで自分の部下をこのゴートンに貸し出していた。
それに、自分の部下がこれまで謎とされてきた『蒼亀組』のボスを討ち取れば、出世に繋がる大きな手柄になるから、幹部達は自分の右腕レベルを出している者がほとんどだ。
そう、このランスキー襲撃を目論む『赤竜会』の精鋭部隊はこの同会の将来を担う幹部候補が多くひしめき合っていたのだった。
「襲撃時刻は昼丁度だ。四方から領民を装って近づくのは打ち合わせ通り。功に逸って抜け駆けしようとしたら、自分のところのボスの顔に泥を塗ると思え」
そしてこの凶悪な部隊を率いるゴートンもまた、『赤竜会』ナンバー3としてそれだけの器量を持つ男である。
『赤竜会』発展の為に殺した敵は数知れず、幹部同士での出世競争にも勝ち続けた武闘派でありながら、頭も切れる人物だ、面構えが違う。
「お前ら、各組織の代表として命を惜しむなよ。『蒼亀組』のボスの命は、うちの会長が今、一番欲しがっているからな。取れば会長の覚えもいい。将来、幹部の道も見えて来るぞ。だがもし、お前らで取れないなら俺が取るぞ?」
大幹部としてどっしり構えているゴートンは集結している精鋭部隊に発破をかける。
精鋭達はその発破によって、静かに闘志を燃やしているのが伝わってきた。
やはりナンバー3、人の扱い方を心得ているというべきだろう。
「……それじゃ、そろそろ時間だ。配置に付け」
ゴートンの命令が下されると、精鋭部隊の者達は領民に変装した姿で外へと飛び出していくのであった。
「……リュー。敵が動いているわ。この屋敷を中心に四方から囲みを縮めている連中がいる」
リーンが広域索敵系能力で知らせる。
「みんな、指示通り無理に相手せず、ここまで逃げて来てね。じゃあ、持ち場について」
リューは直系の部下二十名にそう気楽に告げた。
「「「へい!」」」
部下達も心得たもので、緊張感のない返事を全員すると、屋敷内に散っていく。
そして、昼を迎えた。
するとタイミングよく四方から窓が割れる音がした。
扉を蹴破る音もする。
どうやら始まったらしい。
すぐにリューの部下達の怒声が響く。
「何じゃ貴様ら! どこのもんじゃい!」
もちろん、どこの襲撃犯かわかっている部下達であるが、屋敷の各場所で戦闘が始まる。
部下達には引く際に、敵が手強ければ各々の判断でドスの特殊機能の使用を許可していたから、特別室にいるリューの耳に「バチバチ!」という電撃音が複数聞こえてきた。
「思ったより、回数が多いね。──それだけ敵は手強いという事か」
リューがリーンとランスキーにそう声を掛ける。
そこへ、部下達が次々とリューのいる特別室に飛び込んできた。
「若、あいつら結構やりますよ。まあ、相手した手強そうな奴はドスで失神させてやりましたけど」
「若の言う通り、あいつらかなりの精鋭ですぜ」
「数が多いですし相手するのは大変ですね」
部下達は笑ってリューに次々に報告をする。
そして、二十人全員が特別室に飛び込んできたのを確認すると、リューは扉に閂をさせて、特別室に立て籠もるのであった。
「ゴートンさん、敵はボスと一緒に二階の中央の部屋に立て籠もってます! 扉が分厚くて中々破れません!」
「扉が破れないなら、壁を壊せ。真下の部屋から天井に穴を開けろ。やり方はいくらでもあるぞ!」
「「「おう!」」」
ゴートンの指示に、『赤竜会』の精鋭部隊は部屋に立て籠もるリュー達を仕留めようと全員が躍起になって部屋を囲む。
だが、壁も分厚く、床も扉も特別製で中々中に入れない。
ゴートンはその報告を屋敷の外で聞いていたがしびれを切らし、自分が対処しようと立ち上がった瞬間であった。
ドドドドドーン!!!
無数の爆発音が、目の前の大邸宅から起こり、屋敷はその爆発によって吹き飛んでいく。
ゴートンと周囲にいた数人の部下はその眼前の爆風によって数メートル以上吹き飛んだ。
爆音によって鼓膜が破れ、耳がおかしくなっているゴートンが起き上がって屋敷を見ると地面が抉れる程の更地になった土地だけが残っている。
そう、この理由のわからない大爆発によって『蒼亀組』のボスどころか、それを囲んでいた『赤竜会』の精鋭部隊も巻き込んで吹き飛ばされていたのであった。
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