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第477話 続・部下の腕比べですが何か?

 コーエン男爵の部下の大男とリューの部下であるミゲルの戦い方はとても対照的だった。


 筋骨隆々でパワー型の大男がその膂力でもって棍棒を振り回すのに対し、ミゲルは背は高いが体の線は細めの筋肉質で、その見た目通りの敏捷性で大男の攻撃を易々と躱す。


「逃げてばかりじゃ勝てないぜ!」


 大男は捕らえる事が出来ないミゲルを挑発して、正面からの勝負に誘い込みたいのだろう、だが魂胆は見え見えだ。


「若様、どの程度の加減でやっていいんですか?」


 ミゲルは大男の言う事には耳を貸さず、棍棒を躱しながら、リューに伺いを立てる。


「任せるよ。でも、手を抜くのは相手に失礼だからそれなりにね?」


 リューはミゲルが魔物を相手にするような緊張感がないから本気を出せないのだろう事を察して注意する。


「──わかりました」


 ミゲルはリューの言葉に一言返事すると、一段ギアを加速させるように先程よりも早い動きで大男に迫る。


「む!?」


 大男はそれを迎え撃とうと棍棒を手放して掴みかかった。


「その判断は良いけど、少し遅い」


 ミゲルはそう言うと大男の両腕を掻い潜り、懐に飛び込むと腹部に拳を叩きこむ。


 鈍い音と共に、突き刺さる拳に大男は「ぐはっ!」とくの字に体を折るが、やはり体力自慢だ。そこからミゲルに改めて掴みかかる。


「やるね」


 ミゲルは驚きと共にその手を躱して後方に飛ぶ。


「……見た目の細さに油断した。なんて力してやがる……!」


 大男は腹を押さえながら、ミゲルの拳の威力に驚嘆した。


「うちの若様が相手だったら、あんた、この程度じゃすまないぜ?」


 ミゲルはそう応じると、大男に向かっていく。


「そうかよ!」


 大男は今度は逃がさないように両手でミゲルに再度掴みかかった。


 ミゲルは何を思ったのかその手を躱さず手首を掴まれるが、その右手に手を添えると逆に捻り上げる。


 大男は手首の関節を極められたのだ。


 これには痛みのあまり悲鳴を上げた。


 ミゲルはその状態で大男を投げ飛ばし、地面に叩きつける。


「ぐおっ!」


 大男はあまりの激痛に声を上げた。


 しかし、そこで気を失うところか、大男は立ち上がって見せる。


「根性あるなぁ! ──ミゲルそこまで。──いいですよね? コーエン男爵」


 リューが二人の対決を止めに入って、伺いを立てた。


「あ……、ああ!もちろんだ!──……まさかうちのタイラーが何もさせてもらえないとは思わなかった……。タイラーも大丈夫か? その手首、折れているだろう?」


 コーエン男爵は大男タイラーの右手首がぶらりとしている事に気づいて心配した。


「リーン、治療してあげて」


 リューがそう言うと、リーンは無言で頷いて、大男タイラーの元に駆け寄る。


「……まさかこんな腕利きを回してもらえると思っていませんでした。心強いです」


 コーエン男爵はミゲルはきっとリューの部下でもトップクラスの人物だと思ったようだ。


 だが本当は、ミゲルはどちらかと言うと腕自慢というよりは部下を扱うのが上手な上司である。


 強さで言うと幹部のランスキー達と比べるとまだまだだったし、ランスキー配下の精鋭に入ると霞んでしまうところだ。


 だからと言ってミゲルが頼りないというわけでもない。


 前述通り、人を扱うのが上手で部下達から慕われる男であり、指揮官向きであるから、今回、連れてきたのだ。


 以前のミゲルは若者特有の野望の多い無鉄砲さと世間の全てに反抗する反骨精神、溢れるエネルギーを抑えきれない未熟さ、猿山の大将気取りの自信家であったが、それも祖父カミーザの元で更生して己を知り、何が自分に出来るかをきっちり叩き込まれている。


「それではうちのミゲルを領都ここに出来たうちの拠点に置いて行きますので、ミゲルにはあなたに協力するように言い含めていますから好きに使ってください。あ、もちろん、うちの部下なので緊急事態の時は僕の命令を優先するのでその時は協力出来ない時もあります」


「もちろんです。今は、一人でも戦力が欲しい時、とても助かりますよ」


 コーエン男爵はリューとその部下の実力の一端を知って、同盟を結べた事に満足する。


「では、話の続きをしましょうか」


 リューはリーンが大男タイラーを治療したのを確認すると、室内に戻るように促す。


「ええ」


 コーエン男爵もそれに同意して執務室に戻るのであった。



 それから一時間ほど簡単な情報交換が行われた。


 おもに一番の難敵になるであろう『赤竜会』全体の事と『黒虎一家』の上層部の話である。


『赤竜会』は隣国出身や北東部出身、東部出身者と色々な場所の出身者が多く、人種も多種多様で各獣人族から蜥蜴人族などのこの国では珍しいものが集まっているという。


 それをまとめるのが、『赤竜会』現会長である、レッドラという人物である。


 東部裏社会において、過去最大勢力に押し上げた人物であり、その実力は近隣でも有名でレッドラの逆鱗に触れたら、一族郎党皆殺しに合うと恐れられているらしい。


 敵に対しては容赦がないが、味方に対しては羽振りが良いので、打算的な者は『赤竜会』に寝返る者も少なくないようだ。


「うちの直系の組織からは裏切り者は今のところ出ていませんが、うちと手を組んでいた他の小さい組織は『赤竜会』のやり方に恐れをなして寝返る事はありますね。あの巨大組織相手ですからそれも仕方がないですが」


 コーエン男爵は『赤竜会』が厄介な相手である事を説明した。


「黒虎一家は?」


 リューは、もう一つの組織の事も一応確認する。


「黒虎一家は一族で各地を押さえている連中です。ボスが裏切りを異常に恐れていて幹部のほとんどが身内で占められています。外様で部下になっている者もいますが、それは大体人質を取られていると言われていますね。ボスの名は『クロトラ十三世』、──うん? 十四世だったか?」


「十四世です」


 右腕の男が、コーエン男爵の疑問に答える。


「その『クロトラ十四世』と現在同盟関係にあるわけですが、ミナトミュラー男爵のご指摘通り、裏切られる可能性が高くなってきました」


 リューも『黒虎一家』については多少調べ上げていたから、ほぼ情報通りのようだ。


 リューは自身が入手した情報もコーエン男爵に示しつつ、もうすぐやって来るであろう『黒虎一家』の裏切りについての対応策を練るのであった。

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