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第459話 重要なようですが何か?

 リューは裏通りに積極的に入っていっては、絡んできた相手を返り討ちにし、その事を許してあげる代わりに情報を頂くという合法的な取引(?)の元、行く先々の街で東部地方における裏社会の情報を次々に入手していく事になった。


 平日の夕方以降は帰りが遅くなるという事から相変わらずスードは先に帰し、リューとリーン、御者の三人だけであったが、狙い通り効率よく絡まれる。


 この日も、リューとリーンは御者に馬車と一緒に表通りで待機させ、二人で裏通りに入っていく。


「連日行く先々で同じ事してるけど、噂にならないのかしら?」


 リーンがリューにこのやり方について疑問を口にした。


「噂になる前にこっちは新しい街に移動しているからね。たった一日だと、隣接する街に噂はそう届かないよ」


 リューは裏通りの雰囲気に反して笑顔で答える。


 そこへ案の定、今日もガラの悪いチンピラ集団が絡んできた。


「おいおい、誰に断ってうちのシマで楽しそうにしてやがるんだ?」


「ご苦労様です!」


 リューはそう言うと、リーンと慣れた様子で、そのチンピラ集団を問答無用で返り討ちにしていく。


「ひぃ!」


 圧倒的な力の前にチンピラの一人が恐れおののき逃げ出そうとするが、リーンがそれに気づいて追いすがり、手刀でその男の後頭部を小突いて失神させる。


「これで全員みたいよ?」


 残りのチンピラをその場に正座させているリューに、リーンが声を掛けた。


「お疲れ様。──それで君達に聞きたい事があるんだけど──」


 リューはリーンを労うと普段の通り、見逃す代わりに情報を提供してもらう。


「──へぇ……。それは初耳」


 リューが今回のチンピラから聞いた話は興味深いものだった。


 ここまでの情報収集では当然ながら『黒虎一家』についてのものがほとんどであったが、それは気になる程の情報ではない事が多かったのだ。


 多少『黒虎一家』の組織が詳しくなったくらいであったから、情報としては芳しくなかった。


 しかしこのチンピラ集団は『黒虎一家』の幹部組織に所属する末端の兵隊で今までの有象無象のチンピラよりは情報通であったのだ。


「俺達もうちのボスから酒の席で冗談交じりに話してたのを聞いていただけですが、『勝ち馬に乗る予定だから、抗争もすぐ終わるかもしれない』と言ってました……。俺が知っているのはこれくらいです。もう、勘弁してもらっていいですか……?」


 腫らした顔でチンピラは、リューに懇願する。


「勝ち馬……ね? それはその君らのボスが親である『黒虎一家』を裏切るって事でいいのかな?」


「いや、うちのボスは組織でも末端の幹部なので、親を裏切り他に寝返っても大した戦力にはならねぇですよ……! 酒の席での冗談だし嘘かホントかわかりませんが、気になったのはそれくらいです……」


 チンピラは子供であるはずのリューに畏怖を感じてひたすら自分のところのボスを相手する以上に敬語で答えようとしていた。


 それはこの子供が自分のボス以上にヤバい相手だとその雰囲気から本能的に確信していたからだろう。


「……わかった。じゃあ、これで見逃してあげるよ。そっちも子供にやられたとあっては面子に関わるだろうし、今日の事はお互いの胸の内にしまっておこうか」


 リューはチンピラの立場をおもんばかるように言う。


 もちろん、これはいつもの口止めである。


 こっちは極力表沙汰にならないように立ち回りたいし、チンピラは指摘通り、面子があるから子供にシバかれたなどとは誰にも言えないのが本音だろう。


「「「も、もちろんです!」」」


 チンピラ達はやっと解放されるとわかって、明るい表情を浮かべた。


「それじゃあ、これ少ないけど治療代ね」


 リューはそう言うと、金貨を一枚ポンとチンピラのリーダーに投げて渡す。


「い、いいんですか!?」


 チンピラ的には自分達から絡んだつもりでいたから、治療費を貰えるとは思っていなかった。


 それだけにリューが良い人に見えてくる。


 これも、悪い人間が少し優しい一面を見せると、良い人に見えるのと同じ原理であったが、リューはこのチンピラのボスが幹部の末端の人間だから上に情報が広まらないように重ねて口止めしたようなものだ。


 だが、チンピラ達は自分達から絡んでおいて返り討ちに合っていたから、罪悪感はある。


 だから話の分かる相手で良かったとばかりに、一列に並ぶと立ち去るリュー達をお辞儀して見送るのであった。



「それでリュー。金貨まで奮発してあげるくらい良い情報だったのかしら?」


 リーンは組織内のよくある寝返り情報としか思えなかったのか、疑問を投げかけた。


「……うん。場合によってはとんでもない情報かもしれない。これからはこの『黒虎一家』の縄張りを出て西に向かおうと思う」


「西? ここから西って『蒼亀組』の縄張りよね? もう、ここの情報はいいの? それに向かうなら一番の敵になりそうな北の『赤竜会』の縄張りがあるシバイン侯爵派閥の領内に行く方がいいんじゃない?」


 リーンは増々リューの考えが読めずに聞き返した。


「そっちに本当は行きたいんだけどね。今はなるべく早く、西の『蒼亀組』に接触するのが先かな」


「もしかして……、そういう事なの?」


 リューが詳しく話していないものの、リーンは何か察したのか改めて聞く。


「あ、気づいた? まだ確証はないけどね。でも、もし、当たりだったらうちにも後々影響ありそうだから先に手を打とうかなと」


「そうね……。明日からは西に向かいましょう。それじゃあ少し早いけど、帰る?」


 リーンは表の通りの自分達の馬車のところに到着するとリューが乗り込むのを待ってから自分も乗り込んでいく。


「うん。──御者さん、いつも通りどこか人気のないところに馬車を入れてくれる? マジック収納で回収したら(次元回廊で)ランドマークビルに戻るよ」


 リューはいつもの御者に声を掛けると入手した情報に考えを巡らせるのであった。

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