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第453話 歓迎ですが何か?

 ラーシュの躍進は二年生の間で、すぐ話題になった。


 なにしろ西部地方の名門校からの編入とはいえ、王立学園は国内随一の学校である。


 そんなところに来たばかりでは、普通に考えたら勉強していた内容も違うだろうし、周囲に追いつくだけで大変なはずなのだ。


 それにラーシュは平民という事で、他の貴族の生徒達からは、リズのグループ(厳密にはリューが作った隅っこグループだが)に、編入したばかりのラーシュがメンバーに入った事を密かに、「相応しくない」と陰口を叩かれていたから、集中して勉強をする環境としては、必ずしも良いとは言えないものであった。


 寮生活にしても、ラーシュと同じように地方から集まった生徒達が中心だが、中には地方貴族の者も多くいたので、地味な嫌がらせをされているらしい。


 だが、ラーシュはそれを黙らせるだけの結果を出して見せた。


 これには、ラーシュの存在を良しとしない者達も、ぐうの音も出ない状態であった。


「ラーシュ、今、寮生活だけど、ミナトミュラー酒造商会王都本店ビル内の空き部屋に住む気あるかな?通学はうちの馬車でしてもらう事になるけど」


 リューはラーシュの寮生活が必ずしも恵まれた環境ではない事を知って、テスト結果発表の翌日、そんな提案をした。


「え?」


 ラーシュは突然の提案に驚いて聞き返した。


「あ、こっちからの提案だし、学園の寮程はお金かからないよ?食費はうちの社員食堂で済ませれば基本タダだよ。どうかな?」


「……何で! ……何で私にそこまでしてくれるのですか?」


 ラーシュは少し感情的に聞き返しそうになり、少し自分を抑えると改めて質問した。


 リューの厚意が不思議で仕方がなかったからだ。


 ラーシュの中では、リューはなぜかランドマーク伯爵という貴族の三男でありながら、『竜星組』幹部の下で関係者に名を連ねるという異色の人物だったし、自分は完全に足を洗ったとはいえ、それに敵対した『聖銀狼会』会長の孫である。


「うん?──だって友達だもの。それにうちの従業員でもあるからね。それってつまり、家族みたいなものだから。あとは、空き室は埋まっている方がお金になるじゃない?」


 リューはラーシュの質問に笑って答えると最後は冗談っぽく付け加えた。


「……家族、ですか……?」


 ラーシュはリューの言葉にまたも驚かされて呆然と聞き返す。


「あ、でも、今はアルバイトだから、感覚的には友人で親戚の感じかな? あ、正式にうちの社員になるなら、イバル君やスード君同様ミナトミュラー家の家族決定だよ。どう?うちの子供になってみる気ある?」


 リューはラーシュの驚く顔が楽しいのか冗談たっぷりに笑って聞く。


「ちょっとリュー、私の名前が入ってないじゃない!」


 横で聞いていたリーンが、家族の名前に自分が入ってない事に不満を漏らした。


「リーンは元からランドマーク家の家族じゃない。はははっ!」


 リューは当然とばかりにリーンの不満に答える。


「あ、そういう事ね? ──じゃあ、ラーシュ。ミナトミュラー商会の社員になりなさいよ。ノストラもあなたの事気に入っているみたいだしね」


 リーンはリューの答えに満足すると、ご機嫌な状態でラーシュを誘う。


「……友人としてこれからも扱ってもらえるのでしょうか?」


 ラーシュは急に他の事が気になって聞いた。


 どうやら、社員という形で正式にリューの部下になると、これまでの関係性が壊れるのではないかと思ったようだ。


「もちろんだよ!イバル君なんて、僕直属の部下にあたるのだけど、友人である事を優先しているから言葉遣い変わってないでしょ? あ、スード君はちょっと特殊だけどね?──僕としては逆にラーシュにはもっと打ち解けてもらいたいくらいだよ」


 リューはまだ周囲に気を使って他人行儀なラーシュと親しくなりたかったから、イバル達を例に出して説明するのであった。


「ラーシュ、リューに気を使うという事は、リューに気を使えと言っている事と同義だぞ?社員になるかどうかはラーシュの都合次第だが、友人としてこれからも一緒にいるなら気を使わない方が良いと思うぞ」


 イバルがそれまで黙ってリュー達の会話を少し離れて聞いていたが、近づいて来てそう助言した。


「気を使えと言ってるのと同義……。実はノストラさんからも社員に誘われていたんですが、やっと出来た友人関係が気になって迷ってました……。──私で良ければ……、私で良ければ、社員の話よろしくお願いします!」


 ラーシュは少し考えてからそう答えを出した。


「やったー! ラーシュがうちの社員になってくれたら百人力だよ!」


 リューはリーンと喜んでハイタッチをする。


 そして、ラーシュの手を取って握手をした。


「ようこそ、ミナトミュラー家へ! 契約書とかはノストラに作らせておくから細かい事はそっちに聞いてね」


「は、はい!」


 ラーシュはリューに手を握られて顔を赤くする。


「ラーシュよろしくね。これからはミナトミュラー家を一緒に盛り立てるわよ!」


 リーンもリューと一緒にラーシュの手を取って喜ぶ。


「ラーシュさん、おめでとうございます。主の為にこれから頑張りましょう!」


 スードが一人違う立ち位置で言う。


「スードは特殊だから聞かなくていいぞ、ラーシュ。それと、これからもよろしくな。──あ、今回のテストは負けたが次回は俺が勝つからな」


 イバルがスードの言葉に茶々を入れつつラーシュを歓迎すると、それと同時に対抗心を燃やした。


「イバル、自分も次回こそ、負けるつもりはないぞ?」


 そこへナジンが入って来る。


「……次回こそは私が勝って、スイーツを奢ってもらうよ……!」


 傍にいたシズも参戦する。


「みんな俺を忘れるなよ? この中で一番入学してから成績を伸ばしているのは、この俺なんだからな!」


 ランスが真打とばかりにみんなの輪に入ってきた。


「私もリュー君やリーンに追いつきたいわ」


 そこにリズが新たな決意を口にする。


「なんかラーシュの歓迎ムードから違う方向に話が向いてない?」


 リーンがみんなの異様な盛り上がりに水を差した。


「はははっ! とにかくラーシュの歓迎も兼ねて、次の休みは新作スイーツをみんなに奢るよ!」


 リューは笑ってそう答える。


「「「やったー!」」」


 その言葉に新作を食べられるとわかり、一同は喜びの声を上げるのであった。

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